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ザ・脅威

 マジでもう時間がない。


 副長、それから俊冬をどうにかしなければならない。


 最悪、副長はそのときがきたら簀巻きにしてどこかに監禁すればいい。


 いや、本当はちっともよくない。よくないが、それで副長が死なないのなら、よろこんでそうする。

 おれだけでなく、島田や蟻通だって手伝ってくれるだろう。


 だが、俊冬はそうはいかない。まず、簀巻きにすることができない。睡眠薬やしびれ薬を盛るなんてこともムリだろう。


 あとは、やはり俊春だ。かれに力づくででもどうにかしてもらうしかない。


 だが、そんなかれも俊冬から命じられたら従うしかない、というようなことをいっていた。


 どれだけ死んでほしくない、と願っていても命令に従わなければならないのかもしれない。


 そうなれば、俊春も頼れない。それどころか、ある意味では敵になるかもしれない。


 くそっ!


 親父がいてくれたら、親父が一言「死ぬな」とか「馬鹿なことはやめろ」とかいってくれれば、俊冬も思いとどまるかもしれないのに。


 親父よ。あの世から召喚するとかできないのか?あるいは化けてでてくるとか。


 お盆の時期なら、かえってくるのもアリか?


 いや、いまここは親父が死んだときよりずっと昔だ。


 死人もときをさかのぼれるのか?


 それか、親父の前世の人間ひとが登場したりしないのか?


 創作の世界だったら、そんなのあるあるだろう?


 だめだ……。


 妄想をふくらませることはできるが、どれも実用的でも現実的でもない。


 そうこうしているうちに、二人がこちらにやってきた。


「さあ、主計の妄想もひと段落したようだし、そろそろ戻るか」

「はい?」


 苦笑まじりの副長の言葉に、ドキッとしてしまった。


「あの、ここに残ってしばらく鍛錬したいのですが」


 俊冬が申しでたのを、副長は快諾した。


 そして、かれらののってきたお馬さんたちは安富が引き受け、かれらと相棒を残して二股口を去った。


 ちなみに、その夜副長や蟻通が女性のところに遊びにいったかどうかは不明である。


 ただ、俊冬と俊春は、もどってきたら痣だらけの傷だらけになっていた。それをみて、そのあまりのひどさにめっちゃ驚いてしまった。


 とくに俊春は、集団暴行を受けた被害者よりもひどい状態である。


「きみら、なんかちがう意味でちがうことをしているんじゃないのか?」


 あまりのむごたらしい状態を目の当たりにしたとしても、関西人は笑いを忘れないのである。


 ジョークを投げつけると、血や泥を拭い落しつつ俊冬が応じた。


「そうだな。つい激しく攻めたて攻められてしまった。テンションマックスでときが経つのも忘れ、ヒートアップしまくってこのざまさ。ああくそっ、肋骨にヒビが入っている。ヒビが入っているぞ、わんこ」


 四本しか指のない掌で胸をさすりながら、俊冬が俊春にいった。


「肋骨にヒビが入っている?一本や二本ヒビが入っているくらいなんだよ。ほんっとにおおげさだな。ぼくなんて、ヒビどころか折れているのもある。肺にギリ突き刺さらなかったみたいだからよかったよ」


 どれだけすごいプレイなんだよ。


「副長からの伝言だ。明日、例の休日をとれっていうことだ。それで、明日は鍛錬はなし。なにもかも忘れて、一日のんびりしろってさ」

「のんびりしろ……」


 俊冬がつぶやき、かれらは相貌かおをみあわせた。


 二人とも、まるではじめて耳にする日本語のように意味がわからず戸惑っている感じがする。


「それは酷な」


 それから、同時につぶやいた。


 おいおい、なんで酷なんだよ。


 のんびりするのってフツーだろう?


「おれは、伝えたぞ。あっちなみに、副長とおれも休みだから、もしかするとちゃんとのんびりしているかチェックが入るかも、だぞ」

「そんな……。だって、休日だろう?なにをしようが勝手じゃないか。ねぇ、なぜダメなの?なぜ、なぜなぜなぜ?」

「だからぽち、そのなぜなぜ攻撃はやめろって。当然じゃないか。そんなにぼろぼろになるまで鍛錬をして、休日まで鍛錬をする必要なんてないだろう?だいたい、きみらはいったいどんな脅威に備えているんだ?「プレ〇ター」か?「ゴ〇ラ」か?それとも「スーパーサ〇ヤ人」か?」


 新政府軍は、物理的な数のおおさは別にしても、なんの変哲もない人間ひとの集団である。

 個々人にすれば、射撃が得意であったり、剣豪がいたり大砲を撃つのが他者より抜きんでて腕がいいというのはあるかもしれない。


 それでも、常識的な範囲である。


 けっしてけっして地球規模でも宇宙レベルでもない。


 せいぜい、日本というちっちゃい島国で五本の指に入る、といったレベルである。


 たかだかそんな程度の人間ひとの集団にたいするのに、どこまで強くならなきゃならないというのか?

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