ふくちょーはヨユーだよね
『銃や弾薬を運ぶのはたしかに大変だがな。まぁそれも、敵に一泡ふかせることを思えば屁でもないだろう』
そういってから不敵に笑う副長をみながら、島田と蟻通もおれと同じことをかんがえているにちがいない。
銃や弾薬を運ぶのは、あなたではなくおれたちなんですが……。
それと、これもだ。
そりゃあ、あんたはこれを運べ、あれを運べと指図するだけだからヨユーだよね。
心のなかでツッコんだはずだ。
「主計、なんだと?」
「い、いえ、なにも。おっしゃるとおりです。敵に一泡でも二泡でもふかせましょう。ねぇ、島田先生、蟻通先生?」
おれだけではない。あとの二人も同様のことを思っている。
ゆえに、島田と蟻通にふってみた。
「土方さん。策はぽちたまが立て、荷はわたしたちが運び、土塁胸壁を築くのもわたしたちだ。戦闘になったら、ぽちたまが作戦の指揮と用兵を実行にうつすことになるだろう?あんたはなんにもせずにエラソーにふんぞりかえっているだけだから、それはヨユーなはずだよな」
話をふった瞬間、蟻通が副長をディスりはじめた。
「なんだと、勘吾?」
「と、主計が申しておる」
「主計、この野郎っ!」
副長に神速の拳固を喰らってしまった。
なんてことだ。
蟻通、ひどすぎる。
それからすぐに出発し、必死に脚を動かしつつ蟻通を非難しまくった。
当然、余計にバテテしまう。
そして、どれだけ時間がかかっただろう。太陽が頭上にきたころ、やっと一番高いと思われるところにいたった。
はやっ!
そこではすでに、物見をおえた俊冬と俊春と相棒がまっていた。
「天狗岳までゆき、そこから江差山道を伝ってこの台場山にきてみました」
俊冬はお手製の地図を地面にひろげ、指で指し示しながら説明をした。
いまかれがいったルートは、江差方面から進軍してくる新政府軍の実際のルートである。
それを、土方歳三率いる旧幕府軍がこの台場山で撃退するのである。
「そして、こちらが実際に台場山に土塁胸壁を築く場所です」
俊春が、さらなる一枚を地面にひろげた。
「ぽちたま、いくらなんでも副長を甘やかしすぎじゃないのか?土塁胸壁をどこに築くかをかんがえるのは、名参謀、名指揮官と語り継がれることになる副長の役目じゃないか。これだったら、副長はきみらの褌で相撲をとるだけだし、おいしいとこどりだ。マジありえない」
思わず、意見してしまった。
もちろん、心のなかでである。
だってそうだろう?
これだけお膳立てされれば、生まれたての赤ちゃんがギャン泣きしただけでも敵を撃退できる。
蟻通のいうとおり、どうせ俊冬が手とり足取り、ついでに口を動かして指揮をとり、巧みに用兵をおこない、俊春はそれとは別に敵を攪乱したり陽動したりするんだ。
その間、副長は必死に銃撃をするおれたちの揚げ足をとってはいちゃもんをつけたり、逃げようとする兵にマウントをとったり脅しまくるだけなのだ。
ちなみに、副長はここでも「逃げる者は斬る」、とムダにカッコをつけることになっている。
案の定、副長は俊冬と俊春に物見の結果を考慮した兵の配置案まで提示してもらった。
当然のことながら、それをさも自分が立案したかのように得意満面になっている。
さらに俊冬と俊春は、出撃する三百人にたいしてどれだけの弾薬が必要になるのかということにはじまり、土塁胸壁を築くための用具の手配まで打ち合わせている。
マジ神対応すぎる。
副長は、そのもろもろの素晴らしい案を可決するだけである。
実際の副長は「お飾り参謀」であり、「ただ存在するだけ指揮官」というわけである。
それにしても、俊冬と俊春はやはり軍事のスペシャリストである。
二人がいてくれてよかった。
ひしひしとそう感じる。
それから、安富とお馬さんたちのいる地点へ戻り、そこでもってきているおむすびを喰った。
羆の心配はしなくてもいい。
なにせ、羆より強い三人がいる。それ以前に、三人は一キロ範囲内に羆が脚を踏みこんだら察知してしまう。
遭遇するまえに、とっととお暇すればいいだけのことだ。
「うまいなぁ」
島田は、おれたちの三倍のおおきさと数のおむすびを頬張っている。
いまのかれは、羆の大群が眼前で整列していたり、火の輪くぐりとか玉乗りとかしていても気がつかないはずだ。
でも、たしかにおむすびはうまい。絶妙な塩加減である。
なかに梅干しがはいっているものもある。
もちろん、握ったのは俊冬と俊春である。
竹筒から水をのみつつ二人をみると、すこしはなれたところで周囲をみまわしながら話を、っていうよりかは熱く議論をしている。
思わず、蟻通に視線を向けてしまった。島田にそれを向けたところで、気がついてもらえないだろうから。
すると、蟻通も視線を向けてきた。
同時に、俊冬と俊春をみた。




