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チリンチリンからの……

「そ、それはなんだ?」

「勘吾、みてわからぬのか?鈴だよ鈴」

「いや、それはわかっている。なにゆえ、そんなにもっているのかってきいているんだよ」

「主計が熊避けになるっていうからな。一つや二つよりも、たくさんあったほうがご利益があると思ったんだ」


 マジか?


 ご利益?


 どういうこと?


 ツッコミどころ満載ではあるが、いまはスルーしておこう。


 それにしても、副長、ちょっとかわいいかも。


 せっせと鈴を集める副長を想像すると、微笑ましく感じられる。


「ほら、全員いくつかずつもっていろ。「チリンチリン」と音をさせながらあゆめば、熊も驚いて逃げちまうだろう」

「では、いただきます」

「あ、ああ。たしかに、それはそうかもな」

「愛しの馬にもつけておこう」


 島田と蟻通と安富がそれぞれちかづき、掌をのばしていくつかずつ鈴をとった。


「ほら主計、おまえもだ」

「あ、ありがとうございます」


 やさしい口調でいわれ、おれも馬をよせた。


 なにゆえか裏があるように感じられるのは、おれの性根が悪いからか?それとも、副長の日頃のおこないが悪いからなのか?


「では、おれも二、三個」


 なにか仕掛けられるのでは、とドキドキしつつ掌をのばして副長の掌上から三個いただいた。


 なにもおこらなかった。


 オチはないようだ。


「ぽちたまは?」


 副長は、はやく物見にいきたくってうずうずしているであろう俊冬と俊春にもすすめた。が、二人は同時にかぶりを振った。


「お気持ちだけいただきます。おれたちは、音のでるものは身につけられませんので」


 俊冬のこたえに、ムダに納得してしまった。


 こっそりひっそりそっと系の任務や行動がおおいかれらである。鈴にかぎらず、なんらかの音がするようなものはご法度だろう。ついでに、においもである。


 ブランド物の香水やオーデコロンなどつければ、すぐにわかってしまう。おっと、それをいうなら整髪料もだし、消臭剤などもそうだ。


「では」


 俊冬と俊春は一礼し、相棒とともに消えた。


 ドロンと消えた。


 すこし先の木の枝がわずかに揺れた音がし、そのあとは鳥の鳴く声だけになった。


 枝から枝へ飛び移っていったんだ。


 こういうアクションもやはり、漫画のパクリなんだろう。


「よし。おれたちもゆくぞ」


 馬からおりて鈴をベルトに結びつけ、銃を鞍からとって肩にかついで準備を整えた。


 安富は、愛しいお馬さんたちだけにするわけにもいかずに残ることにしたようである。


「もしも熊がでたら、馬たちとともに逃げるのであしからず」


 安富は、しれっと宣言をした。


 さすがである。


 とっとと逃げるってところも驚きであるが、熊がでたことを発砲してしらせることすらしてくれないところも、びっくり仰天である。


「ああ、勝手にしろ」


 副長も、安富にかんしてはあきらめているらしい。


 苦笑とともに了承した。


 おれだけでなく、副長も島田も蟻通も銃を肩にかついでいる。懐には拳銃チャカが入っているし、左腰には「之定」がある。


 副長は兎も角、島田も蟻通も銃の腕前はなかなかのものである。


 おれもあわせて三人いれば、熊牧場なみに熊がいるところに迷い込まないかぎりは大丈夫だろう。


 一番いいのは、遭遇しないことだろうけど。


 脚元に気をつけつつ、あゆみはじめた。


 なにせ道のないところをのぼってゆくのである。


 すべりでもしたら、転げ落ちてしまう。


 山あるきなるものに慣れていないため、神経をつかってしまう。

 体力不足もあるかもしれない。


 じきに疲れてきた。


「ああ、酒を吞みすぎたかな」


 おれだけではない。みんな疲れはじめている。


「勘吾、わたしは喰いすぎたようだ」


 蟻通のつぶやきにつづき、島田がつぶやいた。


「くそったれ。なんてところだ」


 副長は、お得意の「くそったれ」を連発している。


 その場に立ち止まり、小休止とあいなった。


 いまのところは左手に勾配のきつい土壁があるだけで、とくにすばらしい景色が眼下にひろがっているわけではない。


 もっとも、まだそんなに高いところまでのぼっているわけではなさそうではあるけれども。


「しかし、ここらあたりに胸壁土塁を築いて敵を撃退することになれば、敵よりまえに自然と戦うことになりそうですな」


 島田のいうとおりである。


 一口に築くといっても、これだけの急勾配だと作業がやりにくい。


「だが、このあたりの地形を利用せねば、敵の大軍を撃退するのはむずかしいだろう」


 副長は、周囲をみまわしつついった。


 さすがである。おれが伝えたことを参考に、すでにそのビジョンを頭のなかに描きつつある。 


「銃や弾薬を運ぶのはたしかに大変だがな。まぁそれも、敵に一泡ふかせることを思えば屁でもないだろう」


 副長は転がっている岩の上に片脚をのせ、ムダにカッコをつけている。

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