副長をどうにかしろ
「ならば、くじで」
というわけで、榎本が決めてくじにあいなった。
くじ運が悪ければ、二組の代表であるこの人、つまり副長と戦わねばならない。
が、幸運はつづいた。伊庭にとってもおれにとっても。
伊庭とおれが戦えることになったのだ。
思わず伊庭にやり方を教え、二人でハイタッチをしてしまった。
結局、今井対俊冬、丸毛対俊春、伊庭対おれ、ブリュネ対副長になった。
もしかすると、あのくじは細工でもされていたのかもしれない。
って勘繰りたくなるほど、うまい組み合わせになってしまった。
決勝トーナメントも、同時におこなわれる。
四半刻(三十分)ほど休憩をとってから、試合を開始することになった。
「いやー、すごい。すごいと思わないですか?」
だれもほめてくれないので、自画自賛してみた。
「あたりまえだろう?ぶっちゃけ、ろくな剣士がいなかったんだ」
「さよう。勝って当然」
「逆に、負けた方が恥ずべきことだった」
「そうだよね。負けたら新撰組にいられなかったよね」
「ファックでシット野郎ってことになったよね」
「ははは、おまえもジョン・ドゥーにならなきゃ、だな」
島田に蟻通、尾関、市村、田村、それから野村あらためジョンがいっせいに褒め称えてくれた。
「おまえのことなんかより、問題はあっちなんだよ」
「さよう。これ以上、恥を上塗りするようなことになれば、ますます新撰組は白い目でみられてしまう」
「まったく。雷でも落ちぬかな?」
「ならば、馬に蹴られて死んでもらうか?」
「それいいですよね。あるあるです」
「だったら、ファックでシットな死に方になります」
「ははは、ジョン・ドゥーってわけだ。そりゃ超絶ファニー・ガイだ」
蟻通に中島に尾形、安富、市村、田村、それから野村あらためジョンがいっせいにディスった。
ってか、尾形と安富よ、殺すんじゃないよ。
ってか、田村よ。いいかげん、ファックでシット以外の語彙をつかえよ。
ってか野村よ。全部自分とおなじにするなよ。
全員でその人の方をいっせいにみた。
その人は、伊庭と俊冬と俊春のまえで、ムダにマウントをとっている。
「ふむ。ブリュネ殿に期待したいところだが、そもそもその戦い方じたいに問題があるからな」
島田の言葉で、全員の視線が副長に釘づけになった。
「これがぽちたまなら、副長が指一本動かす間もなく血祭りにあげてくれるのに」
「おいおい勘吾、殺るなよ。せめて、ボコす程度であろう?いや、ぽちたまにやらせるよりも、わたしの愛しの馬たちに蹴らせるべきだ」
蟻通と安富である。
いやいや安富さん、あんたも充分ひどいことをいっているぞ。
ってか、安富さんよ。愛しいお馬さんたちに、殺人を犯させるんじゃないよ。
またもやツッコまずにはいられない。
「それで実際のところ、副長はどんな策をつかったんです?」
二組の審判をおこなった蟻通に尋ねてみた。
胡椒爆弾?それとも火炎瓶?
そういえば、この間の宮古湾海戦のときの火炎瓶がまだ残っていたっけ?
そんなことを漠然とかんがえてしまった。
「相手と対峙するであろう?その途端に土方さんが尋ねるんだ。『貴様はどこの隊の者だ?何かしら役目についているか?』、とな」
はい?まずは自己紹介から?
しかも、副長はめったに他人を貴様呼ばわりしないのに。
するとすれば、よほど気にいらぬ相手である。
「しかも、ムダに態度がでかくてな。上着を脱がず、これみよがしに自身が「陸軍奉行並」ってことをしらしめていた。そのマウントに相手がびびっちまって、口ごもりながらもそもそこたえるのだ。すると、つぎは『ほう。どこそこのだれべぇだな。覚えたぞ。このあとの敵との戦で、十二分に活躍できるといいんだがな。心より健闘を祈らせてくれ』ってなわけだ。するとどうだ、相手はソッコーで『参りました』って降参してしまうではないか」
あいた口がふさがらない。
「そ、そんなのガチにチートじゃないですか。ってか、脅迫ですよ。信じられない。それが、陸軍奉行並のすることですか?」
「ゆえに、恥ずべきことだと申しておろう?」
「いくらなんでも、それは職権乱用ですよ。さらには、パワハラだしモラハラです。コンプラ違反でもあります。ってか、それ以前に武士として、剣士として、それどころか人間としてどうよって感じです。許せない」
「ほう……。あれは、心理戦だ。木刀をつかわねばならぬというルールはない。ゆえに、相手を精神的に叩きのめすっていうのもあるあるだ」
そのとき、右耳にささやかれた。
島田や蟻通らが、驚いた表情でこちらをみている。
ははん。そう何度もひっかかるもんか。
『ルール』だなんてつかって、これで俊冬か俊春が副長の声真似をしているってことがバレバレなんだよ。




