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やった!決勝トーナメントだ

 大後悔である。


 が、いまさらおりるってことになったら、それでなくってもへたれって思われているのに、ますますへたれってことになってしまうだろう。


 みんなから思われるのも口惜しいし、なにより自分自身でも情けない。


 覚悟を決めることにした。


 八強までいけば、伊庭と勝負できる。そこで負けても、悔いはない。


 そんなおれの迷いや覚悟をよそに、面白いことにフランス軍士官も何名か出場するようだ。

 かれらのみ、木刀ではなくサーベルをつかうらしい。


 もちろん、本物のサーベルである。

 ただの余興、だよな?


 まぁただの余興だから、サーベルで突き殺されたりってことにはならないんだろう。


 そんなことより、覚悟をきめたかぎりは自分自身のことである。


 目標は、組で勝ちつづけること。まずは、そこである。



 海岸はひろい。そこに適当に線をひいて臨時の試合場を組の数だけつくった。


 あくまでもイベントである。


 八組同時に試合がおこなわれた。


 ちなみに、新撰組からは俊冬と俊春とおれが参加する。島田や蟻通は、審判としてかりだされた。


 伊庭は一組、今井は三組、俊冬が四組、俊春は六組、おれは八組である。


 あ、ちがった。


 新撰組からは、もう一人でることになっている。でっ、その人は二組なのである。


 その人がだれであるかはいうまでもない。


 周囲の反対、っていうよりかはブーイングをものともせず、スルーしまくっての強引な参加である。


 厚顔無恥とは、まさしくこのことであろう。



 宮古湾の海戦のときにくらべ、空はすっかり晴れ上がり、気候もよくなっている。


 昼をすぎてから、八組が同時に試合を開始した。

 それぞれの組で多少ばらつきはあるものの、一組平均して三十名前後の参加である。


 おれの第一試合の相手は、北辰一刀流の目録である。


 藤堂平助とうどうへいすけやおねぇこと伊東甲子太郎いとうかしたろう、それから坂本龍馬と同門である。


 残念ながらおれは会えなかったが、近藤局長や副長とは試衛館からの同志で新撰組では総長を務めていた山南敬助さんなんけいすけもそうである。

 

 その山南や坂本は、免許皆伝の腕前である。


 北辰一刀流の鶺鴒の構えをみて、坂本を思いださせてくれた。もっとも、眼前のアラサーの男より坂本の方がよほどガタイがよく、貫禄のある構えであるが。


 木刀の剣先が鶺鴒の尾のように揺らめいている。


 周囲で歓声がおこっているだろうけど、集中しているので耳に入ってこない。


 遠間の位置で構えている相手のが、おれの右手首をみた。同時に、右脚がわずかに動いたのも見逃さない。それらは、集中していなければわからなかったほどわずかな所作であった。


 相手の木刀は、よみどおり右手首を狙ってきた。ゆえに、右手を木刀からはなしてわずかにひいた。そのときには、左掌一本で木刀を頭上に振り上げている。でっ、同時に振りおろしている。


 相手の頭頂にぶつかる紙一重のところで、木刀をとめた。


「ま、まいった」


 相手がいった。


 一回戦は、なんとか勝てたようだ。


 ラッキーなことに、二回戦は不戦勝。順調に勝ち進み、五回戦も制してギリ八組の代表になることができた。


 ほどなくして、それぞれの代表が決まった。


 おれが代表ってところもかなり眉唾物だが、それ以上に二組の代表が例の人だってところがかなりびっくりである。


 もっとも、二組に参加した剣士たちは、いずれもなんかちがうっぽい負け方をしたようだ。


 それらの試合をみていた新撰組うちの隊士たちは、口をそろえて「あのような恥ずかしい試合をみたのははじめてだ」とか「あれは、いくらなんでも相手が気の毒すぎる」とかいっていた。


 審判の蟻通にいたっては、「今後いっさい、新撰組であることを隠したくなるような内容であった」と呆れかえっていた。


 よほどチートなを駆使しまくったにちがいない。


 それは兎も角、伊庭と俊冬と俊春、それから今井は当然勝ち残っている。


 今井は、いろんな意味でくそったれ野郎であるが、ああみえても直心影流の皆伝なのである。かれが自身で編みだしたという「片手打ち」の威力はすさまじく、師匠である剣豪榊原健吉(さかきばらけんきち)をして、それを封じさせたいう。それほど、すさまじいものである。


 今井は兎も角、五組の代表は丸毛利恒まるもとしつねという五稜郭の本営に詰めている彰義隊の隊士である。たしか、小野派一刀流かなにかだっただろうか。


 それから、七組の代表には、なんとなんとブリュネがなったようだ。


 これは、面白いかもしれない。


 そして、決勝トーナメントは、くじで対戦相手を決めた。


 本来なら、一組と二組の代表、三組と四組の代表、五組と六組の代表、七組と八組の代表が試合をするはずである。


 が、一組の代表である伊庭がめっちゃ拒否った。


 二組の代表と勝負をするということを、である。


「ぜったいに嫌です。どうしてもというのなら、わたしは棄権させていただきます」


 あの伊庭が、そこまでいって拒否ったのである。


 伊庭にそこまでの覚悟をさせるなんて、二組の代表はある意味すごすぎる。



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