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急遽 剣術大会開催

 寿司と酒という榎本からの差し入れは、新撰組うちの隊士だけでなく伊庭もおおよろこびしている。


「江戸の寿司よりもずっとうまい。やはり、わたしは新撰組こちらにうつるべきですかね?」


 伊庭は剣士特有の節くれだつ掌をのばし、握りをつまんでは口に放りこんでいる。

 ずいぶんと上機嫌みたいである。


 伊庭さん、どうぞどうぞ。ぜひともうつってきてください。なにせおれは、じゃなかった、新撰組おれたちは、くるもの拒まずのスタンスですから、大歓迎いたしますよ。


 というわけで、無事に帰還したよろこびも手伝い、夕食はめっちゃ盛り上がった。


 当然のことながら、称名寺の僧たちにも寿司をお裾分けをした。


 かれらもめっちゃよろこんで喰っていた。


 夕食のあとは、戦の話で盛り上がった。


 具体的には、野村の英雄譚である。


 称名寺の僧はもちろんのこと、周囲の住民はさぞかしうるさかっただろう。


 マジで『うるさくって申し訳ございません』って感じであった。


 深夜ちかくまで、どんちゃん騒ぎはつづいた。


 そしてこの夜、個人的にうれしいことがあった。


 かねてより約束をしていた剣術の勝負を、具体的にとりつけることができたのである。いうまでもなく、伊庭との約束である。


 小田原で負傷したかれの左手首のことを気遣ってしまう。が、どうやら俊冬と俊春の治療がよかったらしい。


 伊庭は、すっかりよくなったとさわやかに答えた。


「ゆえに、思いっきりできるというわけだよ」


 かれは、きらきらする笑顔でいった。


 というわけで、さっそくおこなうことにした。


 すでに日付がかわっているので、今日の昼間にしようということになった。


 あまりにも急である。しかしながら、この戦じたいの今後の展開がかなりの速度でもってすすんでゆく。


『いついつにしよう』なんて呑気なことをいっていたら、バッタバタ状態になって結局できませんでした、なんてことあるあるである。


 そんな伊庭との勝負の作戦を頭のなかで練りつつ、ごろんと横になったらソッコーで寝落ちしてしまった。


 夢一つみないほど、大爆睡した。



 そして、朝をむかえた。


 伊庭との剣術勝負のことを、だれが拡散したのかは想像にかたくない。


 おおきな戦が終わってひと段落ついたこともあり、見物したいと申しでる人が多数いる一方で、参加したいと申しでる人も多数いる。


 伊庭とのささやかな勝負だったはずなのに、気がつけば剣術大会を行おうってところにまで発展していた。


 この午後、海岸に大勢が集まった。


 即席の剣術大会が開催されることになったからである。


 優勝者には、なんと榎本からご褒美をいただけるという。


 テキトーに組に分かれ、勝ち残ってゆくというトーナメント方式である。


 もちろん、木刀でおこなわれる。


 あの『くそったれの今井』も出場するようだ。


 それはどうでもいい。


 伊庭とは組がわかれてしまった。ゆえに、勝ちつづけなければ伊庭とは勝負ができない。


「きみらはアウトだろう?」


 なにゆえか、俊冬と俊春もでるという。


「なぜそんなことをきくの?ねぇ、なぜ?なぜなぜなぜなぜ、なぜ?」


 俊春に、なぜなぜ攻撃で返されてしまった。


「あたりまえだろう?きみらがでるのなら、大会を開催するまでもない」

「きいたか、わんこ?おれたちは人間ひとではないから、ちょっとした息抜きのイベントですら参加させてもらえないらしい」


 俊冬が俊春に悲し気にいった。すると、俊春は双眸をうるませ、鼻をすすりはじめた。


人間ひとでないからとか、そんな意味じゃない。そもそも、きみらは立派な人間ひとじゃないか。おれがいいたいのは、きみらのレベルがだんちだからということさ」

「おいおい、主計。かように意地悪なことを申すな」

「そうだそうだ。レベル(・・・)の高い剣術に怖れをなすほうがおかしいではないか」

「さよう。それを倒してこそ、誠の武士さむらいというものだ」

「そうだよ、主計さん。主計さんって、マジでファックだよ」

「そうそう。ファックすぎてシット感がぱねぇよ」


 出場しないからって、島田や蟻通、中島に市村に田村はいいたい放題である。


「きいたか、おまえたち。愚か者を笑ってやれ」

「ブルルルルルルル」


 安富は、沢と久吉とともにお馬さんたちを連れてきている。


 安富がおれを指さしていうと、馬たちがいっせいに唇をあげて笑いだした。


 馬にまで馬鹿にされるおれっていったい……。

 ってか、これで蝦夷鹿でも飛びだしてきたら、完璧な馬鹿じゃないか。


「わかりました。わかりましたよ、もうっ」


 こうしてやり玉にあげられまくっても、結局は泣き寝入りしなければならない。


 いずれにせよ、俊冬と俊春とも組がちがう。だから、幸運が重なれば伊庭と勝負できるかもしれない。


 確認をしたら、おれ自身の組にはすくなくともウィキにでているような剣豪、もしくは有名人はいない。


 だからといって油断はできない。なぜなら、剣術大会にでようというからには、みんなそこそこの腕自慢であろうから。


 そこそこ以上の腕をもつ島田や蟻通ですら、敬遠したのである。


 ってもしかして、おれも敬遠した方がよかったのか?


 伊庭とは、あとでこっそりやればよかったのか?

 って「やれば」というのは、剣術勝負にほかならない。


 つまり剣術大会には出場はせず、伊庭と二人っきりのときに勝負をすればよかったのかもしれない。




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