表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1112/1254

ロシアンルーレットからの真実

弾丸たまは、四個だけいれている」


 ってか、副長はまだおれに銃口を向けている。


 しかも、ロシアンルーレット的なことをいいだした。


「だーかーらー副長、謝りますって。すみませんでした。弾丸たまが四個なら、二発に一発があたりってことになります。ということは、完璧おれがあたるにきまっています。おれは、こういうことにかけてはすっごくひきが強いんです。ロシアンルーレットをしたことはありませんが、一番最初にやらせてもらっていきなり「ぼんっ!」って脳みそをふっ飛ばすのがおれです。だから、副長の勝ちです」


 とりあえず、いっきにまくし立てた。


 ロシアンルーレットをだれに吹き込まれたかはしらないが、ってかだれが吹き込んだのかは容易に予想はつくが、兎に角、カッコつけしいの副長がカッコつけてやりたがるこんなデンジャラスなゲームにつき合うほど、おれは暇ではない。ついでに、ギャンブラーじゃない。


「この野郎……。わかった。全部撃ってやる」

「全部撃つ?それなら、弾丸たまを四個だけにする意味ないですよね?」


 思わずツッコんでしまった。

 まさしく、生命いのちをかけたツッコミである。


「わんこは、子どものころに性的虐待をうけつづけたんです」


 副長とのコントなどどこかとおくの出来事かのように、突如俊冬が打ち明けた。


 さすがは「わが道を大爆走中」の俊冬である。


 それは兎も角、「性的虐待」にソッコーで反応したのはおれだけである。


 この時代にはなじみのない言葉である。

 副長は、ピンとこなかったらしい。


「戦場で、味方の傭兵どもに掘られまくったんです」


 俊冬はいいなおした。


 いまのは副長にもわかったらしい。副長がはっとした表情かおになったと同時に、俊春の襟首から掌がはなれた。


「アメリカ人やイギリス人、フランス人、ドイツ人。連中はこいつを「リトルガール」と呼び、昼夜関係なく性的に暴行をしつづけた」


 そうだろうとは思っていた。


 江戸の寛永寺で、キレた副長に迫られたとき、俊春は哀れなほど怖がった。その怖がり方は、まるでおさない子どものようだった。


 だが、そこまでのことだったとは……。


「トラウマは、いまだにこいつを苦しめている」


 俊春は、うつむいている。このまま消えてしまうんじゃないかというほど、悲しそうにしょげている。


 相棒が、その脚許に寄り添った。


「だから先日、フランス軍士官たちをぶちのめすのをきみがやろうとしたわけか?」


 最初、ニコールらにマウントをとろうとしたのは俊冬であった。それを、俊春が「大丈夫。できるから」といってぶちのめしたのである。


 フランス人そのものに抵抗があるのである。軍人だから、というのもおおきいのかもしれない。


「こいつは、つねにはかりしれない恐怖を抱き、不安におしつぶされている。さいわいなことに、傭兵どものなかに日本人はいなかった。だから、まだ新撰組ここにいることはかろうじて耐えられる」

「ゆえに、夜はつねにどこかにいっているのか?おれたちとおなじ屋根の下にいるのが耐えられぬから」


 副長が尋ねると、俊冬はちいさくうなずいた。


「鍛錬をするということもありますが……」

「そんなトラウマを抱えていて、その、おねぇとか将軍とかに?」


 抱かれていた、というのか?


 言葉にすることはできなかった。


 おねぇこと伊東甲子太郎いとうかしたろう、それから最後の将軍である徳川慶喜とくがわよしのぶのお気に入りとして、俊春は幾度か閨をともにしていた。


「そうだよ。寛永寺で副長や永倉先生に問われて答えたとおりさ。おれがそうするよう命じた」


 俊冬がいったとおり、寛永寺で将軍に抱かれているという事実につきあたったときである。副長と永倉が、俊冬にそうするよう命じたのか、と尋ねた。

 

 そのとき、俊冬は自分が命じたと答えた。


 だが、おれはそれを信じるつもりはない。俊春は、みずからの意志で抱かれたのだ。


 その証拠に、いまも俊春はうつむいたまま相貌かおを左右にちいさく振り、俊冬のいったことを否定している。


「あらゆる目的を達成するのに、相手に暴力をふるうより相手の性欲をそそり、満たすほうがはやく簡単にことが運びます。あの二人だけではありません。これは、もとの場所にいたときからやっていたことです」


 だとすれば、俊春の精神こころは強いということになるのか?


 いや、逆かもしれない。


 ぼろぼろになっていて、麻痺してしまっているのかもしれない。


「だから……」

「もうやめて、俊冬・・。こんな話、きかされたって不愉快なだけだよ」


 俊冬がいいかけたところに、俊春がさえぎった。


 かっこかわいい相貌かおをあげ、必死に毅然とした態度をとろうとしている。


 それが、ひしひしと感じられる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ