すいか割り
が、俊冬のほうは副長をよむとまではいかずとも、おおよその察しはつけたらしい。
どことなく気まずそうな表情で俊春をみ、それから副長に視線をもどした。
「ったく。たま、いったいどういう料簡でごまかしまくるんだ?否、厳密には遠ざけているのか?たしかに、おれには詳しい事情はわからぬ。だが、あまりにも過保護、というよりかはそっち系について知らなさすぎるだろう」
柵に背中をあずけたまま、イケメンはさっぱりした頭髪をがしがしとかいた。
そうなのである。副長は、この戦のすぐまえに散髪してもらったのである。
俊冬がやったのであるが、軍服姿のあの超有名な写真の髪型のまんまに仕上げた。
思わず、写真のぱくりだって叫んでしまったほどである。
まぁ、俊冬があの写真に合わせてカットしたのであって、実際のところはぱくりではないのだけれど。
副長本人の写真のとおりにしたにすぎないというわけだ。
それは兎も角、いまの副長の発言で、副長がなにを話題にしているのかがすぐにしれた。
稀代の女たらしであり、そういうビミョーな問題にも平気でズカズカと土足で入り込んでくる副長ですら、いいにくいらしい。
「なんだと、この野郎っ!」
ってまた、イケメンに怒られた。
例の俊春の「たたない」宣言のことである。
副長は、そんな超プライベートな悩みまで相談にのってやるいい上司なのである。って、いいたいところではある。
だがしかし、それはなにかちがう気がしないでもない。
なぜなら、いらんお世話だからである。
たとえば、俊春がそのことで業務に支障をきたすほど悩みまくっているとか、欲求不満がたまりすぎてちがう方向にはけ口を求めて周囲に迷惑をかけているっていうわけではない。
それどころか、まったくそうと感じさせないし、本人のカミングアウトがなければ、そもそもだれも気がつかなかったはずだ。
それを突っつこうとしているのだから、どこをどうかんがえてもいらんお世話だし、放っておいてくれっていいたくなる。
「モテぬ男のやっかみだろうが、ええっ?」
いま、副長がなんかいったみたいだけど、モテぬ男ってところでおれにいったわけではなさそうだ。
「おれはきみにたいして何度もリピート再生をしているけど、ほんっとにポジティブだよね。この面子でモテぬ男がだれなのかがわからないのだとしたら、きみはもうマジで詰んでいるよ」
俊冬が、床から銃をもちあげなんかいった。
とはいえ、そもそもこの面子ならモテぬ男などいないのではなかろうか。
「主計、すいかみたいに一度頭をぶっつぶされたほうがいいよ。日本人って、夏に浜辺で目隠しをしてすいかを棒で叩き割るんだろう?「YouTube」でみたことがあるよ」
「ああ、あれだよね。なにかのドラマをみたんだっけ?かんがえてみたら、すいか割りってすっごくバイオレンスな習慣だよね」
俊冬がいうと、さっきまでシュンとしていた俊春が喰いついてきた。
すいか割り?
すいかといえば、包丁でフツーに切って冷蔵庫で冷やすとか、スーパーで八分の一くらいに切っているものを購入して冷蔵庫で冷やして喰う方が、よほど美味くはないだろうか?
「いや、ちょっとまてよ。すいか割りは日本だけってことはないはずだ。それに、すいか割りって公式ルールがあったりなんかするし、馬鹿にできないんだぞ」
とはいえ、すいか割りは日本の夏の風物詩であることにはかわりない。
だからつい、すいか割りを擁護してしまった。
ってか、いまこのタイミングですいかやスイカ割りについて議論をするところじゃないよな?
「ちょっ……。たま、やめろ。おれに銃口を向けるんじゃない。ってか、ぽち。指の関節を鳴らすんじゃない」
そう結論にいたったとき、俊冬が銃をかまえていることに気がついた。しかもおれに向けて、である。さらには、俊春はこれみよがしに指の関節を鳴らしまくっている。
この至近距離である。銃を頭に向けてぶっ放されれば、すいか割りのすいかより悲惨なことになる。
一方、俊春は超常現象的な力をもっている。頭を軽く握られただけで、すいかより簡単に爆発することになる。
どちらの方法でも、頭の中身は粉々に海に飛び散ってしまう。
そして、二人でおれの頸から下は海にぽいするにきまっている。
「残念」
「残念」
二人が同時につぶやいた。
ってか、きみらはおれを護るんだったよな?きみら二人、護ってくれるんだったよな?
心の声はだだもれなのに、二人は素知らぬていをきめこんでいる。
「なんだよ。じゃあ、なにか?きみらは、おれがかっこ悪いとでもいうのか?相馬龍彦の息子は、みてくれも性格もめっちゃ悪いっていいたいのか?」
伝家の宝刀を振りかざしてやった。
つまり、かれらの信奉の対象である親父の名をだしたのである。
「それで副長、わんこの性についての話ですよね?」
って俊冬、スルーかい?
都合が悪くなったら、ガン無視かい?
ってか俊冬、わが道をいきすぎているだろう?




