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大将 坂本龍馬

 靴は、むれる。


 正直、履物は、靴より草履のほうがずっといい。草履の方が、健康的にもいいんじゃないかと思っている。


 よくみると、坂本が履いている靴は、軍人が履くようながっちりとしたものである。むれまくっているにちがいない。おれのように靴に慣れているなら兎も角、坂本が履きはじめたのは、さほど昔のことではないはず。


 窮屈な思いを、しているかもしれない。


 坂本は素足になり、土の感触を味わうかのようにその場でぴょんぴょんと飛び跳ねている。


 その瞬間、だれかが唸った。

 ジャンプ力が半端ない。ということは、身が軽い証拠である。


「局長は、むこうで坂本さんと遣りあったことがあるんですよね?かれは、強いんですか?」


 ようやく興奮がおさまった局長に、尋ねてみる。


「強いとも。はたして、いまはどうかわからぬが。すくなくとも、あちらにいたときは、試衛館うちのなかでかなう者はいなかった。食客の新八や斎藤君も含めて、な。まぁ、同門の山南君が、かろうじて・・・。それも、同門だからこそ、であろう」


 それほどなのか?

 山南はおなじ流派だからこそ、その癖や弱点をわかっている。ゆえに、とんとんだった、と?


 坂本は、自分の信じる活動をつづけるなかで、おおくの危険や危機にみまわれた。生命いのちを狙われることも、再三である。


 だが、その生涯で剣を遣うことはない。生命いのちを絶たれたときでさえ、抜かなかった。

 いや、もしかすると、柄に刀痕が刻まれていたことから、抜かなかったのではなく抜けなかったのかもしれないが。


 すくなくとも、現場に残された遺留品などから、そう推察はできる。


 抜こうとしたが、間に合わなかったのであろうか?

 しょっちゅう斬ったはったをしていれば、抜くことができたのかもしれない。

 そうすると、近江屋で殺されることはなかったのかもしれない。


 坂本以外にも、おなじように剣を振るわなかった者がいる。

 桂小五郎、のちの木戸孝允である。

 かれは、神道無念流の皆伝である。江戸の三大道場「練兵館」の、塾頭をつとめたほどの腕をもっている。


 だが、かれはいついかなる場合も逃げまくった。抜くことなく、逃げに徹している。「逃げの小五郎」と異名をもつほど、かれは戦わず逃げるのである。


 この二人の命運をわけたものは、いったいなんであろう・・・。

 もちろん、立場、思想、目指すものは違う。さらには、性格も異なる。


 もしも、坂本に木戸のような慎重さや警戒心があれば、暗殺は回避できたのであろうか?

 もしも、坂本に目的や保身のためなら、いかなる方法も辞さぬ、という冷酷さがあれば・・・。


「もしもあしが勝ったら、なんぞ褒美はあるがかぇ?」


 おれの考えが無限大スパイラルに陥ろうとしたとき、その考えの人物の声で現実にひきもどされてしまった。


 試合場をみると、中央で佐川と相対しつつ、床几に座してご上覧されている会津候に、きさくに尋ねている。


「あの野郎・・・」

 副長の苦りきった呟きも、漂ってくる。


「ほう・・・。褒美とな?なにがほしいと申すか?」

 会津候は、イケメンに柔和な笑みを浮かべ、興味深そうに尋ねる。


「ほりゃあ、勝ったらいうことにするがで。それじゃったら、ふんばるがで」

 坂本は、にんまり笑う。それから、左掌に握る木刀を軽く二度、三度と振る。


 その空気を斬る音の重さに、相対している佐川がわずかに身じろぎする。表情かおにはださなかったものの、「おっ?」と思ったであろう。


「まってもろーてすみやーせんやった。じゃー、やるがでか」

 坂本は、またにんまりと笑う。

 対戦相手の佐川、それから、審判に告げる。


「大将戦、はじめっ!」


 ついにはじまった。


 坂本龍馬対佐川官兵衛・・・。


 こんな立ち合いがあったことなど、webでみたことない!

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