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永倉と原田

「おっこいつかい、たいそうな手練れってやつは?」

 体格がたいのいい男がさきに部屋に入ってきた。それから畳に胡坐をかいた。

 まったく動きに無駄がない。着物の上からでも筋肉質なことが窺えた。まるで肉食獣だ、というのがおれの第一印象だ。


 おれはこの男の写真もみていた。永倉新八ながくらしんぱち。新撰組のなかでは沖田総司おきたそうじと双璧をなす剣の腕前をもつ男。いや、病で斃れた沖田と違い、永倉はいくさで戦い生き残った。新撰組で一番だといってもいいのかもしれない。


 永倉は、ごつい体格とごつい相貌ながら、笑うと笑窪ができてどこか人懐こい表情になった。「神道無念流しんどうむねんりゅう」の遣い手は、おれを無遠慮にみつめた。


「新八、副長の恩人にその態度はないだろう、えっ?」

 つぎに部屋に入ってきたのは、長身痩躯の男だった。この男の写真は残っておらず、したがっておれはみたこともない。しかし、おれはなぜかこの男が原田左之助はらださのすけだろうと思った。

 たしか原田は短気粗暴な性格で、故郷伊予で仲間と喧嘩になった際に切腹してのけたとんでもない男だったはずだ。そして、宝蔵院流の槍の名手である。


 原田も胡坐をかいた。ずいぶんと男前だと思った。

「あいかわらずやかましいな、おめぇら。相馬、新撰組うちの二番組組長の永倉新八に九番組組長の原田左之助だ。おめぇら、こいつは相馬肇だ」

「そうまはじめ・・・」土方から名をきき、永倉はにんまりと笑った。「はじめってどんな字書くんだ?」

 永倉に問われ、おれは戸惑った。

 おれはよく「ハナはなはじめ」の肇だと、名の漢字をきかれたときにはそう答えていた。だが、ここでそれが通用するわけもない。


「いま新撰組ここにはいないが幹部にはじめってやつがいたんだ。横一よこいちって書くはじめだ」

 原田がいった。それが斎藤一さいとうはじめであることに、おれはすぐに気がついた。

「いいえ・・・。筆の竹のかわりに左に戸、右にふみと書くはじめです」

 永倉と原田は、間をおいてから同時に頷いた。


「副長、監察方が調べてるが、あんたを襲った連中の足取りがまったく掴めねぇ・・・。なあ、ほんとにみ覚えのねぇ連中だったのか?」

「新八、暗かったしあっという間だった。数人斬り殺せたのが自身でも驚きだ。こいつはたまたま通りかかって巻き込まれたようなもんだ。尋ねても無駄だぜ」

 永倉は、土方の答えにあきらかに不信感を抱いているようだ。いや、ある程度の推測はしているのだろう。


「なら副長、どうする?調べさせるのはときも人手も無駄ってやつだろう?」

「ああ、山崎やまさきにやめるよう伝えてくれ。いまはあの連中の動向のほうがよほど気がかりだ」

「ああ?あんたのいうあの連中の所為であんたが闇討ちにあったと思うがな、おれは?」

 永倉は嫌味のごとくいってから身軽に立ち上がった。


「相馬、まだしばらくはいるんだろう?元気になったら一勝負やろうぜ」

「相馬、こいつは剣術馬鹿なんだ。くだらん誘いにのるなよ?それよりも、副長の奢りで島原にでも繰りだそう」

 原田もまた立ち上がった。男前の顔に不敵な笑みが浮かんでいる。


「はやくいけっ二人とも」土方が呆れたように怒鳴るなか、「そうそう、おまえのあれ、犬、だよな?」 永倉につづいてでていこうとした原田が歩を止めておれを振り返った。

「犬、ですよれっきとした。原田さんは犬好きそうな感じだ。触っても噛みつきませんよ。犬にもちゃんとわかってますので」

「ほんとか?」

 原田は嬉しそうにいってからでていった。


「腕は立つが馬鹿でな・・・」

 土方はそういいつつ閉ざされた障子のほうへと視線を向けた。

 言葉のわりには表情が穏やかだ。おれは知っている。二人ともずっと昔から土方と一緒だったことを。


「で、おめえは?どこからきてどこへゆく?」

 おれに戻された視線・・・。

 そう尋ねられてもどう答えていいかわからない。おれ自身がききたいくらいだ。


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