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敵の艦上にて

 回天の船首は細い。そこから同時に何人もが飛び降りることはできない。


 つまり、一人ずつ飛び降りなければならない。


 おれたちがその順番をまっている間に、さすがに敵も迎撃態勢を整えたらしい。


 おれたちを迎え撃つのは、なにも銃だけではない。甲鉄には、ガトリング砲がある。


 つまり、機関銃である。


『るろう○剣心』で、新撰組で文学師範や組長をやっていた武田観柳斎たけだかんりゅうさいをモデルにしたキャラクターが撃ちまくっていたあれである。


 回天の船首から甲鉄の甲板に、一人ずつ飛び降りるのである。

 これほどいい的はない。


 銃であろうと機関銃であろうといっせいに射撃すれば、いくらへっぽこな腕前であっても何人かはあてることができるだろう。


 しかし、史実とちがうことがある。それは、おれたちはそれを想定していることだ。想定し、対策を練っていることである。


 本来なら、飛び降りる時点で幾人もが撃たれて負傷するはずである。


 かくいうおれも、史実のなかではこの時点で負傷したのかもしれない。可能性としては、飛び降りるまでに負傷し、移乗するのをあきらめたのかもしれない。


『ビュオッ!』


 するどい音ともに、瓶が頭上を飛んでゆく。

 それらが甲鉄の甲板に落ちると、ちいさな爆発音とともに炎がひろがってゆく。


 そこらあたりにいる敵の兵卒たちは、悲鳴をあげて飛びのいたり這いつくばって逃げたりしている。


 俊冬と俊春メイドの火炎瓶である。瓶に油を詰め、布で栓をするという簡易的なものである。本来なら、ガソリンや灯油をつかう。が、どちらも入手できない。

 ということであれば、どんなものでも代用するしかない。


 実際のところ、甲板上にぶち当たっても不発におわるものもある。


 それでも、ないよりかはずっとましだ。


 副長や回天の乗組員たちが、必死に投げ込んでいる。


 火炎瓶攻撃にもめげず、おれたちを撃とうと射撃体勢に入っている銃兵にたいしては、容赦なく弾丸たまが飛んでゆく。


 なにせこちらには、古今東西をあわせても世界一であるスナイパーがいるのである。


 甲賀には操舵室の奥に身を伏せてもらっている。


 俊冬は回天の船首ちかくに立つと、自分でカスタマイズしたライフルで確実に敵の銃兵を撃ってゆく。


 しかも、相手の利き腕を撃ち抜くというはなれ業をやってのけるのだ。


 射殺ではない。生命いのちは助かるよう、それでいて二度と戦場に立てぬよう、利き腕を撃ち抜くわけである。


 さすがは世界一のスナイパーである。


 回天から甲鉄に飛び降りる味方に照準を合わせた敵の銃兵を瞬時にみわけ、さして狙いを定めるでもなく撃つのだ。


 神業?


 そんな言葉も陳腐すぎる。


 あらためてその実力のほどを思いしった。


 島田、蟻通、安富、中島、尾関、尾形が順番に飛び降りる。

 常日頃から、体を動かしている。全員、アクションスターのごとく身軽である。


 さきに飛び降りたフランス軍の士官や兵卒たち同様、全員が無事に移ることができた。


 もちろん、伊庭とおれもである。


 蟻通が海上を指さした。


 一隻の軍艦がこちらに向かってくる。春日とあわせれば、ニ隻になる。


 史実では、回天は敵の軍艦に取り囲まれて集中砲火を浴びるはずだった。それにより、甲賀が被弾して死ぬのだ。


 だが、実際はたったのニ隻。


 先行した俊春の驚異的な身体能力と才覚により、本当はあらわれるはずだったほかの何隻かの軍艦は、航行できない状態になっているにちがいない。


 敵の軍艦に思いをはせている間に、甲板上に甲鉄の乗組員たちがそれぞれの武器をかまえておれたちをハチの巣にしようと居並び、銃を構えている。 


 それをみたフランス軍の士官や兵卒たちは、あきらかに鼻白んだ。じりじりと後退、つまりうしろにいるおれたちのほうへとさがりだした。


「はっはは!これはおもしろい」


 蟻通はうれしそうだ。


 その姿は、危機をむかえるごとにテンションがあがっていた「トラブルカモーン!」の永倉を髣髴とさせる。


 蟻通もまた、危地をむかえると発奮するタイプのようだ。


「わたしには、この局面を『おもしろい』って申される勘吾さんのほうが、より面白く感じられるけど」


 伊庭がうしろからささやいてきた。


「同感です」


 思わず苦笑してしまった。


 まったくもって、伊庭のいうとおりである。


「でかい図体にでかい態度のわりには、ソッコー(・・・・)で戦意喪失しているようだな」


 尾関がフランス軍兵を一瞥して小声でいった。


「かれらは、ぽちのようにちっちゃくてかわいらしい仔犬みたいな男をあしざまにするくらいがせいぜいなんでしょう」


 つづいて、尾形も小声でいう。


『ちっちゃくてかわいらしい仔犬』


 本人がきいたら、尾形を駆逐したくなるのであろうか。


「いっそ斬りこんでみるか?」


 そのとき、とんでもないことを提案してきたのは安富である。

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