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伊庭が守ってくれる

「セイカンタイってなにかな?」

「なんでもありません」


 好奇心旺盛な永遠の少年島田が、こんなときまで好奇心旺盛っぷりを発揮してきた。ゆえに、ぴしゃりといってしまった。


「す、すまない。つい尋ねてしまった」


 が、島田ではなかった。


 あの()伊庭が尋ねていたのである。


「あ、ああ、すみません。性感帯というのはですね……」

「八郎君、主計が感じやすいのは耳、つまり耳朶だよ、耳朶。ぜひともかれの耳朶に息を「ふっ」としてあげてくれ。かれ、ソッコーでいっちゃうから」

「たまーーーーーっ!」

「やかましいっ!敵が気づいちまうだろうがっ」


 副長に頭をぶん殴られた。しかも、とおくロシアにまで届きそうなほど怒鳴り散らされてしまった。


 な、なんで?おれが悪いんじゃないよな?


 涙で視界が曇ってしまった。


「きみ、兼定兄さんの武器をもってきてくれたかい?」


 まるでさっきのエロい話などいっさいなかったかのように、俊冬が掌を差しだしてきた。


 さすが、わが道をゆきまくる男である。


「あ、ああ、もちろん」


 腰のベルトにはさんでいる小刀どすをかれに差しだした。


「ありがとう。きみ、兼定兄さんに小刀これの遣い方を教えたよね。じつは、そんなことは必要なかったんだ。かれは、この時代にきて実際に殺陣をみている。すべてをここにインプットしているってわけさ。おれたちとおなじようにね」


 俊冬は、そういいながら指先で自分の頭をとんとんとたたいた。


「じゃあ、きみらとおなじようなアクションができるわけ?」

「さすがに口にくわえての攻守だからね。そこまではムリさ。でも、きみを敵の攻撃から護るくらいならヨユーさ。ねぇ、兼定兄さん?」


 俊冬が問うと、お座りしている相棒がおおきくうなずいた。


 人類の叡智は、犬型であってもすごすぎるらしい。


「というわけで、きみは安泰安全安心ってわけさ。気をらくーにして移乗してくればいい」


 どういう根拠からかはわからない。


 俊冬は、まるで田舎から送ってきたなにかを『お隣さんにお裾分けしてくる』、みたいな気軽さでいってきた。


「主計、わたしもいくから。わたしも、きみを護るよ」


 伊庭がニッコリ笑っていってくれた。


 後光がさしまくっている。


「じゃあいきます」


 おれもまた、ニッコリ笑って決意表明をした。


「現金なやつだ」

「ヒューヒュー」

「おめでとう、主計」

「よかったな」

「うらやましいぞ」

「ごちそうさま」

「しあわせ者め」


 みんなにからかわれているときである。


 空砲が轟いた。


 こちらからは甲鉄が邪魔をしてみえないが、向こう側に薩摩藩のふねである春日が停泊している。

 おれたちの奇襲攻撃の情報をつかんでいる黒田が、空砲でもってそうとしらせたにちがいない。


 話し合った結果、先行する俊春は春日には手をださないということになった。


 黒田とは江戸でやりとりがあった。

 それに、黒田はこの戦のあと親身に戦後処理にあたってくれることになる。


 そういう私情もふくめての事情から、とりあえずは春日は放置することになったのである。


「日章旗へかえろ」


 そのとき、荒井のめいが薄暗い海上に轟いた。


 できるだけ穏便にちかづけるようアメリカの国旗で偽装しているのを、いよいよ日章旗へかえて甲鉄に迫るのだ。


 もう眼前に甲鉄が迫っている。さすがにここまで接近すると、ボケーッとしていたであろう見張りも気がつくはずだ。


 慌てた様子で、大声を張り上げて奇襲をしらせている。


 その必死の形相が、薄暗いなかでもやけにリアルに視覚できる。


「身を低くしろっ!ぶつかるぞ」


 甲賀が叫んだ。


 その瞬間である。すさまじい衝撃があった。


 そのすさまじすぎる衝撃に、だれもが横ざまになぎ倒されてしまった。それでも、すぐに飛び起き体勢を整える。


 回天はいま、完全に動きをとめた。


 その船首が、甲鉄の左舷に乗り上げている。突っ込んだ勢いが強すぎて、乗り上げてしまったのだ。


 まさしく、ウィキに記載されているとおりである。


「移乗開始!飛び降りろ」


 副長の号令である。


 副長には、事前にこの状況をくまなく伝えてあった。とはいえ、実際はどうなるかは神のみぞしるである。そんな不確かな情報と混乱のなか、ソッコーで状況を把握し、的確なタイミングで指示を飛ばすところは、さすがは副長である。


「で、あろう?」


 おれの心のなかの讃辞はダダもれである。それを感じた副長が、ドヤ顔でいってきた。


 訂正。あれだけ事細かく伝えたのだ。心構えさえできていれば、三歳児だって指示くらいだせるってもんだ。


「はやくいってこい!」


 副長に尻を蹴っ飛ばされた。比喩表現ではない。マジで軍靴で蹴っ飛ばされてしまった。


 そんなコメディを繰り広げている間に、フランス軍の士官や兵士たちが飛び下りはじめている。



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