ここでもやはりboys’ love……
「きいたか、わんこ?おれとおまえは不愉快だが、八郎君や甲賀先生ならしあわせすぎてイッてしまうらしいぞ」
「きいたよ、にゃんこ。ぼくらはぴったりくっついてかれを護っているというのに、なんて薄情なんだろう」
「はあああああ?きみらはいったい、なにから護っているっていうんだ?かんじんなときはガン無視だし、副長に殴られたり蹴られたりして虐待されまくっているというのに、めっちゃスルーしているだろう?おれを護っているっていうのなら、副長を血祭りにあげてみろよ。この艦からポイしてみろよ」
いっきにまくしたててから、はっとした。
この場にいる全員の視線を感じたからである。
しまった……。
またしても俊冬と俊春にはめられた。
副長の眉間の皺と視線が鋭くなっている。
たったそれだけで、おれはすでに詰んだようなものだ。
「新撰組の馬鹿が馬鹿すぎてすまぬ」
副長は視線を荒井と甲賀にもどすと、頭をさげた。
とりあえずは、副長自身がさぐりをいれた甲賀については「大丈夫」認定したらしい。
ってか、馬鹿が馬鹿すぎるってどういうこと?
「甲賀先生は、男をどう思われますか?」
「はあ?」
「ちょっ……。たま、なにをきいているんだよ」
「失礼。つまり、衆道についてどのようにかんがえてらっしゃいますか?」
「ぽちのばかっ!こんなところでなにをいっているんだ」
俊冬につづき、俊春がさらにぶっ飛んだことを尋ねだした。
「きみのために恥をしのんで尋ねているんじゃないか」
「馬鹿馬鹿馬鹿っ!そんないい方をしたら、まるでおれが衆道みたいじゃないか」
俊冬の謎気遣いに、全集中でダメだしをした。
これは、ソッコーで誤解をとかねばならない。
「ごめん、BLだったよね」
「そうだ。BLだよ……。って、それもちがう!だんぜんちがう」
「認めた。たったいま、認めたよね」
俊冬は、副長似のイケメンを甲賀に向けた。
「というわけで、ここではなんですのでのちほどゆっくり」
それから、意味ありげにウインクをした。
ダメだ。これでまたおれの黒歴史が更新されてしまった。
「誠にすまぬ。甲賀君に相談があってね。ああ、こいつのとはまた別件だ。よければ、この戦の後にでもこいつのBLに付き合ってもらえたらさいわいだ」
「って、副長までなにをいいだすん……」
「ビーエルとは、なんのことですか?」
「わたしも気になっている。どういう意味かな?」
甲賀につづき、荒井までいいだした。しかも、おれに尋ねてきた。
ちょっとまってくれ。
「宮古湾海戦」は、世界の戦史のなかでも稀有な接舷戦である。いままさに、それがおこなわれる直前といっても過言ではない。しかも、ここにいるのはその主要メンバーだ。
BLを語る場所か?
BLを考察するときか?
「いいのです。なんでもありません。男どうしの友情に毛がはえたような関係のことです」
かれらは上司である。直属ではなくっても、上司は上司である。
尋ねられてまさかスルーするわけにはいかない。それをいうなら、ごまかしや嘘をつくのも気がひける。
ゆえに、説明した。
BLの意味をしっている副長たちがいっせいにふいた。
「まあ、BLはこの際おいておこう。その話をしにきたのではないからな」
副長が、とりあえずシメた。
ってか、わざわざBLについて語り合いにきたんだったら逆にびっくりするだろう。
副長が周囲をみまわした。ほかにだれかいるわけでもない。が、内緒の話をする人あるあるで、ほかにだれかいないかついつい確認してしまったにちがいない。
「じつは甲賀君、きみはこのあとの甲鉄との戦闘で死ぬことになっている」
副長が死神役を引き受けてくれた。
しかもいきなり核心に迫り、史実をつきつけまくった。
つきつけまくりすぎて、宣言された当人も荒井もまったくついていけていないようだ。
二人とも、口をぽかんとあけたまま副長をみつめている。
そのとき、艦上のどこかで『ドカッ!』とおおきな音がした。
荷物かなにかが崩れたか倒れたかしたのだろう。
思わず、飛び上がりそうになってしまった。
「なんですって?」
甲賀がきき返した。
副長は、再度周囲をみまわした。しかも、意味ありげに。ついでにおおげさに。
いまのはきっと、これから秘密の話をするということをわからせるためのパフォーマンスだったのにちがいない。
「いまから話をすることは、おそらくきみらにとっては眉唾ものだろう。もしも不愉快だとか胡散臭すぎると思ったらいってほしい。それ以上の話はひかえるから。荒井君、甲賀君、いいね?」
副長のめっちゃマジな表情と声音に、荒井と甲賀はちいさくうなずいた。
めっちゃ警戒している。それから、不安というか胡散臭いというか、ビミョーな表情になっている。
思わず、なにか座れるものはないかと周囲をみまわしてみた。
なにもおれが座るわけではない。
荒井と甲賀、それから副長に椅子が必要だと思ったからだ。
が、残念ながらなかった。体裁のいい木箱一つみあたらない。
仕方がない。このまま立ったまま、話をしてもらうしかないだろう。




