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愛する人が増えた?

 敵艦も、大砲を発射するより銃やガトリング砲で回天の艦上にいる人間ひとを狙ったほうがいい。


 そうなれば、何隻もの艦上から集中攻撃されることになる。

 

 さすがの俊冬も、そのすべての攻撃から甲賀を護りきるのは困難だ。


 当人が気を配ってくれるのとそうでないのとでは、まったくちがってくる。


 というわけで、甲賀自身に協力をしてもらおうということになったわけだ。


 そもそも副長の片腕ともいえる俊冬が、甲賀の側にべったりくっつくというのも不自然すぎるというのもある。


 さきほどまでの嵐が嘘のようだ。それでもまだパラパラと雨は降っているし、風もある。


 山田湾を出航してからすぐ、荒井と甲賀のところにいってみた。


 二人は、面突き合わせて海図をみているところである。


「おお、土方さんではないですか」


 荒井のほうがさきに気がついた。海図から相貌かおをあげると、にっこり笑って声をかけてきた。


 かれもまた、ウィキに写真が載っている。

 カイゼル髭のその容貌は、どことなく榎本に似ていないでもない。


 それとも、軍服にカイゼル髭、てかてかするほど頭に油をぬりたくって髪の毛をかためたら、似てしまうものなのだろうか。


 とはいえ、荒井はなかなかのイケメンである。体格もいい。


 とてもではないが、「汁粉LOVE」というふうにはみえない。どちらかといえば、酒豪っぽい感じがする。


 ちなみに、かれは副長より一歳年少である。


「伊庭君も?おそろいでどうかしましたか?夜明けまでしばしあります。いまのうちに休んでいてください」


 かれは、おれたちをみまわしていった。


 海図をひろげているちいさなテーブルの向こう側で、甲賀もにこやかな表情かおでこちらをみている。


 ううっ……。


 またしても死神を演じなければならないとは……。


 おれのガラスのハートにヒビが入りそうだ。


「てやんでい、ばーろー」


 そう思った瞬間、俊冬が右耳にささやいてきた。


「なんで江戸っ子言葉なんだよ」

「つかってみたかっただけさ」


 ったく、やなやつだ。


 思わずくさってしまった。


 が、そのおかげで気持ちに踏ん切りがついた気がする。


 甲賀の生命いのちを救うためだ。そのためなら、死神でも悪魔でもなんでも演じてやる。

  

「ありがとう」


 副長は、荒井の気遣いにうなずいてから礼をいった。


「土方さん。われわれは、此度の作戦ではあなた方を運び、無事に蝦夷へ連れかえることしかできません。戦いとなると、われわれは役立たずです。そのときがくるまで、心も体もゆっくり休めておいてください」


 甲賀が、この悪天候をも凌駕するほどの笑顔でいってくれた。


陸者おかもんは、ふねの上ではおとなしくしときやがれ。しゃしゃりでてくるんじゃねぇよ』


 ってとおまわしにいっているのではないかぎり、気遣い力がぱねぇ。


 それとも、そういいたいのだろうか。


 しかし、かれらの笑顔は本物である。裏もごまかしもいっさいなさそうな気がする。


 もっとも、おれの感じ方はあてになりやしないだろうけど。


「ああ、そうさせてもらう。しょせん、艦上ではおれたちは役立たずだからな」


 副長は、そういって笑った。


 さわやかなどとはほどとおい、相手の心をさぐるような、そんないやーな笑いかたである。


 って、またにらまれた。


 それは兎も角、副長は二人を試したのだろうか?


 いまの二人の対応が塩なのか、それとも砂糖なのか。


 では、もしも塩だったら?


 真実を告げないつもりなのか?このまま見殺しにするとか?


 だとしたら、おれはそれにたいしてどうすべきなのか?


「役に立たぬって、それはちがいますよ。それぞれができることとできぬことがあります。だとすれば、たがいにできることをやればいい。それが協力や連携というものではないでしょうか。それが、わたしたちがふねを動かすこと、あなた方が戦うこと、ということです。申し訳ありません。わたしの申し方が悪かったのですね」


 甲賀は、そういってから頭をさげた。


 副長に誤解をあたえたと、瞬時に悟ったのだ。


 なんてスマートな人だ。そして、すぐに非を認めて謝罪するという潔さもある。


 どっかの非隣人愛主義者とはおおちがいだ。


「きみ、まさかまた一人愛する人が増えたとかいわないよね?」

「わお。きみ、マジで気がおおすぎるよね。それだけ他人ひとを愛せるってある意味すごいことだよ」


 左右から耳にささやいてきたのは、こいつら二人しかいない。

 

 ってか俊冬と俊春は、なんでいつもおれをサンドイッチにする立ち位置なんだ?


 懐を脅かしまくっているじゃないか。


 距離がちかすぎて不愉快すぎる。




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