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おれにはできないこと……

 おれも調べはしていた。親父の死が胡散臭かったからである。

 連中は、それがウザかった。だが、連中はおれが真実にいきつくことができないこともわかっていた。


 おれにはその力も知恵も要領もコネも、兎に角なにもなかったからだ。


 だからこそ、すぐに手を下さなかったのかもしれない。


 それでもやはり、おれを消す必要はあったわけだ。


 真実をしったいま、なにゆえかおれのなかで怒りや復讐心が燃え滾っている、というようなことはない。


 自分でも不可思議である。


 まったく怒りや口惜しさがないというわけではない。が、それがために鬼になったり悪魔に魂をうったり、なんてほどではない。


 すでにそれらがおこなわれているからだ。


 だとすれば?


 俊冬と俊春がやってくれていなかったら、お袋と親父を殺った連中を許さなかっただろうか。みずから手をくだしただろうか。


 おれがちがう時代にいるため、物理的にそれができないということは別にして、現代にいたのだとしたら、復讐を遂げただろうか。

 

 警察犬のハンドラーとしての職務を放棄し、復讐の道を選んだだろうか。


 それとも、なにもしらない、気づいていないふりをし、ハンドラーとして無難な生活を送っただろうか。


 警察や政治家の、あるいは両者が結託しての腐敗というのは、創作の世界であまたに描かれている。これも、まるで連続ドラマか映画にでてきそうなヒューマンドラマみたいなものである。


 そういう創作の世界では、主人公は復讐を選ぶ。そうしなければ話がつづかないからである。


 刑事や警察官である主人公は、仕事を辞めることなく自分の拳銃で黒幕や実行犯を撃ち殺すのだ。


 そして、みずから生命いのちを絶つとか姿をくらますとか、それに気づいた主人公の上司や仲間たちにわざと追い詰められて撃ち殺されるとか、そういう筋書きになる。


 だが、おれにはそのどれもができるわけがない。


 まず、ラスボスたちを撃ち殺すことができないだろう。


 ぶっちゃけ、おれがへたれだからである。


 かといって、マスコミにリークする勇気もない。あるいは、どこか連中の影響力のない機関に訴えるようなことも。


 かならずやもみ消される。逆に自分の生命いのちを危険にさらすだけだ。って、リークしていなくても、結局危険に身をさらしたのだが。


 それは兎も角、復讐する気があるのであれば、創作の世界では第三者に依頼する。


 殺し屋とか便利屋とかなんでも屋とか、裏社会で糧を得ている人物を雇うのだ。


 残念ながら、おれにそういう伝手はなかった。噂すらきいたことがなかった。

 さらには、偶然街中でそういう存在と知り合うみたいな、創作のなかでのあるあるみたいなこともまったくなかった。


『ミスター・ソウマがそれを許さない』


 かれらのいうとおりである。親父は、ぜったいにそれを許さない。


 結局、おれはそれをいい訳に悶々と日々をすごしただろう。


 かれらのように、実行にうつすことなく……。


 そのとき、いまのこのかんがえや思いもだだもれなんだって、いまさらながら思いいたった。


「主計。いや、ハジメ君。きみは、それでいいんだよ」


 俊冬がしずかにいった。


「かならずしも行動にうつすことがすべてではない。復讐すること、あるいは非を唱えればいいというわけでもない。法律とか人権とか倫理とかそんなものは抜きにしても、フツーの世界に生きるフツーの警察官や刑事やハンドラーにできることはなにもない。それを実行にうつすことができるのは、きみが思うとおり創作の世界だけだ。それ以前に、真実をしることもなかった。真実の欠片を拾うことすらできなかったはずだ」


 かれのいうとおりかもしれない。どうあがいたって、なにもできやしない。強大すぎる権力や深すぎる闇にちかづくことはできない。


 それは、おれだけではない。だれもがそうだ。犠牲者は、親父やお袋だけではないはずだ。ああいう連中は、何千人、何万人、それこそ数えきれないほどおおくの犠牲者がいるからこそ、はびこっていられるのだから。


 それに、これもまたかれのいうとおり、かれらに告げてもらわなかったら、おれがこの件をしる機会は一生なかった。


「すまない。きみを苦しめるつもりはなかった。やはり、告げないほうがよかった……」

「いや、それはちがう。ありがとう。しってよかった。告げてくれてよかった。それから、あらためて感謝するよ。それと謝罪もさせてほしい。殺しは、きみたちの本意じゃない。それをさせてしまった。すまない」


 言葉とともに頭を下げた。


 おれにできるせめてもの行為である。



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