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謝罪とある飲み物

 おれが副長に謝罪をしたところで、どうせ『あああ?だったら、詫びにおまえがおれの椅子になれ』ってムチャぶりをかましてくるだろう。


 そんなふうに推測してはいる。


「かまうものか。兼定が気にいったんなら、いくらでもつかえばいい」


 だというのに、またしても副長の予想外のリアクションである。


 いったいなんだ?

 なにかたくらんでいる?

 それとも、なにかあるのか?


 もしかして、じつはおれがしらないだけでおれも宮古湾で死ぬことになっているのか?そういう史実が、おれが現代でしらなかっただけで伝えられているというのか?


 ゆえに、いきなり理解があってやさしい副長へと豹変したのか?


「主計。おまえもこんなせまい長椅子の上では、眠った気にならぬであろう?」


 副長は、刀や木刀を握ったこともないようなきれいな掌で長椅子を示した。


「申し訳ございません」


 不祥事をしでかして報道陣のまえで謝罪会見をする人みたいに、これ以上にないほど上半身を折り曲げ、深々と頭をさげた。


「な、なにゆえいきなり謝る?」


 上半身を折り曲げ謝罪しているおれの後頭部に、副長の狼狽した声がふってきた。


「わかりません。わかりませんが、とりあえず謝罪します。だから、許してください」

「なんだと?わけがわからぬ……」

「だって、副長がそんなやさしさをみせるなんて……。おれが究極の『なにか』をやっちゃったってことですよね?このあと、どかんとでかい一発がくる前フリ的なものですよね?」

「な、なにをいってやがる」

「これで足りないのなら、土下座します。それでも足りないのなら、副長の軍靴をなめます。だから、許してください」


 頭を下げているので頭に血がのぼってきている。それでもがんばって言葉を発しつづけた。


「この野郎っ!おれがせっかく気を遣ってやってるっていうのに!」


 

「おまたせしました」

「あれ?せっかく淹れてきたのに……。主計、どうしちゃったんですか?」


 俊冬と俊春がもどってきたようだ。声が、おれの後頭部にあたった。


「愛のムチってやつだったか?兎に角、それをくれてやったんだ」


 さらに副長の声もふってきた。


 結局、思いっきり拳固を喰らってしまった。


 で、長椅子の上にのびてしまったというわけである。


「主計、よかったじゃないか。副長にムチでぶたれまくるなんて、AV男優もびっくりだよ」

「それ相応のカッコをしたほうが、もっとテンションあがるんじゃない?」

「ば、馬鹿なことをいうな。おれにそんな趣味はない。ってか、きみらはそんなことまで「YouTube」でみてたわけ?って、いてて」


 俊冬と俊春がとんでもないことをいいだした。

 

 反射的に、ガバッと飛び起きてしまった。殴られた箇所に痛みがはしる。


 おれのよすぎる頭は、よくもまぁもちこたえてくれているものだ。


「さすがに、そういう動画は規制がかかるだろう?ソッコーで削除されるはずだよ」

「いまのはにゃんこの趣味だよ、趣味」

「ちょっとまて。おれの趣味なんかじゃない。主計の心の奥底にある願望を述べたまでだ」

「いや、たま。きみこそちょっとまて。だから、おれにそんな趣味はないっていっているだろう?ったく、どんだけおれをドMにしたいんだよ」

「どうせだったら、ムチで副長をしばきまくりたいよ。副長のもだえる姿をみて萌えて燃えるんだ」

「なんだと主計?おれをしばく?」

「ってぽち、なに勝手にアフレコしてるんだよ?」


 マジでこの二人、おれを護りたいって思っているのか?


 っていうよりかは、いじりいびりいじめに全力を傾けてるって気がしてならない。


 そのとき、やっとそのにおいに気がついた。


 も、もしかして、このにおいは……。


 自分の嗅覚が信じられなくって、鼻をひくひくさせて全集中で神経を研ぎ澄ませてみた。


 や、やはりこれは……。


 頭の痛みがぶっ飛んでしまった。


 あらためて俊冬と俊春をみてみた。

 二人とも、胸元に盆を抱えている。


 そこには、カステラっぽいものと湯呑ではないちゃんとした陶器製のカップがのっている。


「も、もしかしてそれは……」

「ああ、これ?きみが気に入ってくれるかと思ってね。アメリカからきている記者と商人から、銃の部品と一緒にわけてもらったんだよ」


 俊冬のイケメンは、いまや神々しいまでに輝いている。


「たぶん、きみやぼくらがのんでいたものとは比較できないほどひどいものだとは思うけど、それでも雰囲気を味わうことはできるかなって」


 俊春のかっこかわいい相貌かおも、春の慈愛に満ちた太陽のように燦燦と輝いている。


「ほう……。なにか香ばしいにおいだな」

「副長にも気に入っていただけるかと」


 俊冬がいい、二人はテーブルの上に食器を並べはじめた。


 な、な、なんと、二人はコーヒーを淹れてきてくれたのである。


 おおげさかもしれないが、夢にまでみたカフェイン飲料。


 まさか、まさかここでのめるとは……。


 感動で双眸に涙がにじみまくっている。



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