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今井について

「それは、どうだろうか」


 俊冬が、俊春とおれに座るよう掌で長椅子を示した。


 おれたちが座りなおすと、相棒はあたりまえのように俊春の横にお座りをした。

 しかも、床にではなく長椅子の上にである。


 って、三人掛けの長椅子に三人プラス一頭?

 いくら俊春がちっちゃいからって、これはきつくね?


「だから、ちっちゃいって思わないで。きみを駆逐したくなっちゃうから」

「だから、おれの心の声を感じるなって」

「主計は、誠にたのしそうだな」


 俊春といい合っていると、横から伊庭がいってきた。


「いえ、八郎さん。そこ、おおいなる勘違いですから」


 伊庭がせっかくいってくれたが、ツッコんでしまった。


「回天に乗せたっていいのではないか?おれが荒井君と甲賀君に頼んでみよう。兼定も新撰組うちの隊士だからな。だれかさんよりよほどいい働きをしてくれているって説明すれば、むげには断れんだろう」

「ほら、利三郎。副長に嫌味をぶちかまされているぞ」

「おまえのことだよ!」


 野村にいった瞬間、伊庭をのぞく全員にツッコまれてしまった。

 

 相棒も、口吻をもぞもぞさせている。


「いやー、主計は誠に愛されているんだな」


 伊庭のさらなる勘違い。


 ってかもしかして、伊庭って遊撃隊でイジメにでもあっているのか?みんなのおれにたいする酷すぎるあつかいが愛されているように感じられるほどのイジメに、かれはさらされているんだろうか?


「ちょっ……。八郎さん、おれは愛されていませんよ。いじられいびられいじめられているんです」

「それが、愛されている証拠なんだよ」

「は、はあ……」


 蘭方医の松本にもおなじようなことをいわれた。たしかに裏返しってやつで、愛されているからこそのいじりいびりいじめなのかもしれない。


 だがしかーし、おれの場合はその理論にはあてはまらないような気がしてならない。


 つまり、そのまんまってことだ。


「わお!兼定兄さん、いっしょにいけるね」


 そんなビミョーなおれの気持ちに気がついているくせに、俊春はめっちゃうれしそうにしている。


「それにしても、仏蘭西軍の士官たちとうまくいけばいいのですが」


 伊庭が、表情かおをあらためていった。


「フランス軍士官たちは、わんこがムダにマウントをとりまくったからね。新撰組おれたちにちょっかいをだしてくることはないだろう。だが、今井はわからない。今夜のことは、今井の耳にはいるだろう。自分がやっつけたわけでもないのに、フランス軍士官たちにでかい面をするにきまっているから」

「ちっ!とんだ腐れ縁だな」


 副長は、俊冬の推測にあからさまに嫌悪感を示した。


「じつは、わたしも今井さんは苦手です。自分がだれよりも有能だって勘違いされているようですからね」


 伊庭である。

 さわやかな表情かおのわりには、ずいぶんと辛辣である。


「かれは、死ぬのかな?」


 しかも、さわやかな笑みとともにきいてきた。


「残念ながら、死なないらしい」

「蟻通先生。残念ながらって、そんなこといってはダメですよ」

「残念じゃないのか?あんなとんでもない野郎が生き残るって、不公平ではないか」


 おれのダメだしに、蟻通ではなく島田が応じた。


 他人ひとのことを悪くいわないかれにしては、めずらしいかもしれない。


「まあ、あくまでも史実では生き残ることになっているっていうだけです。それに、いまはあんなでも、将来かれは改宗してクリスチャン、もとい伴天連になります。善人に生まれかわるってわけです」

「伴天連に?将来は兎も角、現在いまだよ現在いま。仏蘭西軍士官にというよりかは、新撰組おれたちにたいして、一物ありすぎるみたいだからな」

「いや、勘吾。新撰組おれたちにたいしてではない。おれ個人にたいしてだ。ったく、ちかいうちに寝首をかかれちまうかもな」


 副長は椅子の背に背中を預け、嘆息とともに不吉な言葉をつむぎだした。


 室内が静まり返った。


 また雨が降りはじめたらしい。窓ガラスをたたく雨粒の音が、いやにおおきくきこえる。


 この場にいる全員が、いまの副長の言葉についてかんがえているのだろうか。


 そうだとしたら、そのさきのこともかんがえているのだろうか。


 たとえば、今井に寝首をかかれるまえにこちらがかれの寝首をかく、なんてことを。


「だったら、宮古湾で今井のすっとこどっこいに斬りこませちゃいましょうよ。かっこいい野村利三郎ではなく、今井すっとこどっこいが間抜けにも甲鉄においてけぼりを喰らう。わお!これ、グッドアイデアだ」


 野村である。


 おまえ、ぜったいに現代からやってきているよな?

 たとえば、青いにゃんこ型ロボットのタイムマシンをつかってとか。


「やめろ、利三郎。おれを誘惑するな」


 副長がソッコーでたしなめた。


「利三郎、なにも今井を英雄に祭り上げることはない。どうせ死んでもらうのなら、恐怖を味わい、屈辱にまみれ、死にたくないと切望する状況のなか、苦しみながらじわじわと死んでもらうのが筋だろう」


 って俊冬、いまのその台詞、すごすぎないか?

 しかも筋って、いったいどういう筋なんだ?


「たまもやめろ。ますますそそられる」


 そして、副長である。


 副長、じつはやらせたいって思っているんじゃないですか?

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