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護ってくれないの?

「ごめん。今回は甲賀先生を護らないといけないから、きみを護るのはムリっぽい」

「ぼくもだ。利三郎の影武者をしなきゃだし、それからもろもろやらなきゃならない。だから、きみを護ることまではぜったいにムリだよ」


 俊冬、それから俊春、なにゆえだ?なにゆえ、かんじんなときに『そんなのぜったいムリーッ』宣言をする?

 

 いったい、どういうことなんだ?


「そうだ。相棒だっ!」


 縁側の向こう側の庭でお座りしている相棒に、熱い視線を送ってみた。


 室内の灯火に照らしだされながら、相棒はふわーっと大あくびをした。


 ゆ、ゆるすぎる。


ふねに乗れない」


 俊春がいった。


 いまのはたぶん、相棒の代弁をしてくれたのだ。


「まっ、気にすんな。どうせ死なない。それでいいではないか」

「いや、副長。根拠のない定義でもって勝手にしめないでください」

「おかわりはあるかな?」

「あ、わたしも」

「わたしも」

「わたしもわたしも」

「わたしもだ。これは、ぜひともみなにも喰わせてやりたい」


 おれの訴えは、島田をはじめとした『おかわり』攻撃にかきけされてしまった。


 ってか、「馬フェチ」安富よ。馬は汁粉は喰わないだろう?


「すぐにもってきます」


 俊冬と俊春は、椀を集めてでていってしまった。


 それにしても、負傷っていってもレベルがいろいろあるだろう?


 それこそ、手摺りにおでこをぶつけて赤くなったり、木箱に向う脛をぶつけてすりむいたり……。あるいは、臀部に弾丸たまをぶちこまれるとか、ガトリング砲で手足をふっ飛ばされるとか体に風穴をあけられるとか……。


 これはもう、野村が死ぬことを笑っていられない。


 どうなってしまうんだろう、おれ。




 箱館を出港するのは、三月の二十一日の予定である。


 それまで、準備に明け暮れた。


 ここのところ、天気が悪い。

 実際、出撃した後も暴風雨にあうことになっている。そのせいで、回天と蟠竜と高雄をつないでいる大綱がはずれてしまう。はずれてしまうものだから、はなればなれになってしまうのである。


 結局、蟠竜とは再会できない。しかも、高雄は機関部の故障で思うように動けなくなってしまう。


 この時点で幸先が悪すぎる。

 おれだったら、あきらめて帰還する。あるいは出直す。


 そんな状況のなかでも強行した箱館政府軍は、ある意味すごいといえよう。


 作戦の成功を信じて疑わなかったにちがいない。




 ここ数日、嵐の予兆かなにかがずっとつづいている。


「よく降るな」


 副長の部屋の窓から外をぼーっと眺めていると、副長がミーティングからもどってきた。


 海軍奉行の荒井や回天の艦長である甲賀、それからブリュネや元仏軍士官のアンリ・ニコールやウージューヌ・コラッシュと、何度も作戦を練っているのである。


 ってか副長は、おれがしっていて告げた作戦をそのまま提案しただけなんだけど。


 どうせ、さも自分がかんがえたみたいにドヤ顔で提案したにちがいない。




「ガチに降っていますよ。当日は暴風雨です。たいそう揺れるんじゃないでしょうか」


 窓からはなれ、長椅子にもどりつつ推測を述べると、副長がうなり声をあげた。


 わかっている。おれも心配しているのである。


 それは、船酔いのことである。


 大坂から江戸へ逃げかえったとき、それから折浜から蝦夷へ渡ったときも、幸運にもわりと天気がよくてほぼほぼ凪いでいた。


 だから、船酔いはしなかった。


 しかし、ふねじたいに弱いのか、それとも三半規管が弱いのかはしらないが、新撰組から放逐された大石鍬次郎おおいしくわじろうら何名かは、船酔いで死にそうになっていた。


 それをみているから、船酔いのしんどさはよくわかっているつもりである。


 そうだ。俊冬と俊春なら、船酔いをとめる、ってかぶっちゃけ船酔いしないおまじないかなにかしっているかもしれない。


 耳のうしろをぐりぐりする方法以外、のやつを。


 小学校のときの担任の先生におしえてもらってから、ずっとそれを実践している。いまのところ、どんな乗り物に乗っても酔ったことがない。


 だが、それがかならずしも暴風雨のふねに効果があるかどうかは「神のみぞしる」ってやつだろう。


 それこそ、超大型クルーズ船なら、さほど感じないかもしれない。が、回天はそれに比較すれば豆粒みたいな存在だ。


 うううっ。酔わないっていう自信はまったくない。



「酔ったら酔ったときだな」


 おれをよんだのか、副長はため息まじりにつぶやきつつ、窓際にある机をまわって席についた。

 おれも、長椅子の一つに腰をおろす。


「あれ?ぽちたまはどうしたんですか?」


 仏軍の軍人たちのための通訳兼副長のお守り役、もといオブザーバーとして同行していたはずである。


「野暮用があるというんで、わかれた」

「野暮用?」


 視線を副長のうしろにある窓へと向けた。




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