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いよいよ甲鉄号奪取へ

 寒さがわずかにやわらいでいよいよ甲鉄号奪取の計画がもちあがるまで、ウニ丼ブームの火は燃え盛りつづけた。



 ウニ丼ブームがひと段落した時期ころ、例の作戦がもちあがったのである。


 わが箱館政府の海軍事情であるが、開陽丸が座礁し沈没してしまうまで、開陽丸が旗艦であった。

 その開陽丸にかわり、海軍の現在の主力艦は回天がつとめている。


 甲鉄号は、もともと幕府が購入したふねである。それを、敵が奪ってしまったといっても過言ではない。

 

 そういう経緯もあるため、春以降の戦いにぜひとも甲鉄号を入手したいと思うのは、当然のことであろう。


 奪取計画をもちかけたのは、フランス軍の海軍士官候補生のニコールである。

 これもまた、史実どおりである。


 それを受け、海軍奉行の荒井や回天の艦長甲賀源吾(こうがげんご)らが作戦をたて、ブリュネと榎本が承認をしたことで、宮古湾海戦と呼ばれることになる世界レベルでみれば数すくないアボルダージュ、すなわち接舷攻撃が実現されることになった。


 出撃するのは、回天、蟠竜丸、第二回天こと高雄丸の三艦である。


 海軍奉行の荒井はもちろんのこと、ブリュネやニコールと仏軍海軍、彰義隊や神木隊、遊撃隊、それから新撰組がそれぞれの艦にわかれて乗船する。


 史実では、新撰組は蟠竜に乗船することになっている。


「なんだと?神木隊とかえろ?」

「ええ、副長。史実では、蟠竜は天候のせいではぐれてしまい、待機することになります。つまり、戦場にいきつくことすらできないのです。いまのところ蟠竜と高雄が主力で甲鉄を奪うことになっていますが、結局は回天が甲鉄にぶつかり、おれたちが斬りこむことになります」

「なるほど。でっ、利三郎が死ぬんだな?」

「はい。神木隊や彰義隊のだれかも同様です。名前まではわかりませんが、利三郎同様何人かは甲鉄に取り残されるわけです」


 旗艦である回天に、彰義隊や神木隊とともに副長と利三郎とおれが乗船する。


「ならば、彰義隊もちがうふねにっていいたいところだが、連中はおれの采配をよしとせんだろう。斬りこみは、新撰組うちがやるとして、おまえのいうとおり、とりあえずは神木隊は高雄に、新撰組うちを回天に乗船するよう手配をする」

「ありがとうございます」


 副長は、さっそくそのように手配をしてくれた。



 その夜、称名寺でミーティングがおこなわれた。


 全員が出撃するわけではない。乗船できる数はかぎられてしまう。その選抜をおこなうわけである。


 称名寺は、箱館では二番目に古い浄土宗の寺院である。


 現代にも残っている。


 現代ではオリジナルではないものの、土方歳三と新撰組隊士の供養塔がある。それ以外にも、高田屋嘉兵衛たかだやかへえという淡路島出身で箱館の殖産興業におおいに献身した豪商とその一族の墓がある。


 本堂、それから観音像のある観音堂もある。

 驚くほどでかいわけではないが、立派な山門もあったりして古式ゆかしい寺院である。


 もっとも、現代では新撰組の屯所となったということが、この寺院の名を有名にしているのかもしれない。


 本堂は、そこそこにひろい。が、新撰組おれたちの数は増加している。いろんな藩や隊から、移籍したり入隊しなおしている。ゆえに、本堂だけではひろさがたりない。そこに無理矢理詰め込まれているわけだから、雑魚寝状態ですごしているのが実情である。


 食事は、基本的には当番制ではある。

 

 俊冬と俊春が蝦夷にいるときには、時間のゆるすかぎり松前からわざわざここまできてつくっている。


 古株の隊士たちは、以前から俊冬と俊春の手伝いをしたり、テクニックを盗み見しているため、そこそこのスキルがある。


 ゆえに、ほかの隊と比較すると、かなりレベルの高い食事がでている。


 ちなみに、この日は俊冬と俊春と相棒が山に狩りにゆき、たぬきを相当数仕留めてきた。

 蝦夷たぬき、ってやつである。


 しかも、喰うだけではない。その毛皮で防寒具をつくるという。


 人類の叡智は、利用できるものはくまなく利用するしっかりさんでもある。


 かれらの正体をしらされた直後、思わず『ターミ○ーター』系のアンドロイドを思い浮かべてしまった。

 が、あれはあくまでも映画の世界の出来事である。

 リアルの世界にいるかれらは、もっともっとすごいのである。


 それは兎も角、鬼寒いこんな夜のたぬき汁は、体をあたためてくれるだけでなく、テンションをあげてくれる。


 副長が酒をふるまってくれた。

 常日頃の新撰組の働きに報いるためである。


 そのため、全員のテンションはマックス状態になっている。


 ちなみに、安富と久吉と沢は、馬たちとともに通常は松前城にいる。馬はもちろんのこと、安富らは厩の一画を改造し、そこで寝泊まりしているらしい。


 今宵は、かれらもきている。


 たぬき汁は、称名寺の僧たちにもふるまわれた。


 じつは、最初は肉をいれなかった。

 明治時代にはいって肉食妻帯をゆるすという布告はでるだろうが、いまはまだダメなのかと思ったからである。





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