ウニ丼屋
それはそうと、超絶地獄レベルの悪臭のなか、ウニを回収させれられた。
もちろん、させられたのはおれである。
ウニを称名寺に運びこんでから、俊冬と俊春にぶん投げてやった。
ヒトデが超絶デンジャラスな臭気を発することをしっていて、とっとととんずらしたことにたいする腹いせである。
「だって、おれたちはきみらの鼻より何万倍もいいんだ。あのままあそこにいたら、マジで『チーン』だったよ」
俊冬は、だまって逃げたことをちっとも悪いとは思っていないようだ。
「だったら、一言いってしかるべきだろう?」
「いったさ、心のなかで」
「はああああ?心のなかでって、口にださなきゃわからないじゃないか」
「よんだり感じればいい。おれたちがきみにそうするようにね」
「はあああああ?おれのはダダもれなんだろう?だが、きみらのはそうじゃない。それをどうやってよんだり感じたりすればいいんだ」
「それは、きみがよんだり感じたりしないからだ。よみにくかったり感じにくかったりする相手でも、わずかな表情の変化、所作でよみとることだってできるわけだし」
「もういい。ったく、あーいえばこういうしこーいえばああいうし。素直に「ごめんなさい」っていえないものかねぇ」
そんな俊冬とのやりとりを、副長がみていることに気がついた。
厳密には、とおくからみていないふりをしてみている。
ったく、副長も一言注意すべきなんだ。
思わず、くさってしまった。
副長ってば、空から雪という白いものが落ちてきたり、人生のなかで経験のないほどの寒さになることでさえ、おれのせいにして叱り飛ばすのに、俊冬と俊春のことは怒ったりしないんだから。
あ、いやちがった。
副長は一度、かれらにブチギレたことがあった。それこそ、おれにたいする怒りかたなど『キュート』だって思えるほどのブチギレかただった。
まぁたしかに、あれはイレギュラーではあったが。
しかし、今回のことはきっちり叱っておかないといけないのではなかろうか。
「きみ、ほんっとに執念深いよね。そういうのはイケメンのキャラじゃないよ。それに、みっともなさすぎる。そもそも、おれたちはきみとちがって働いている。しかも、完璧だし成果をもたらしている。おれたちのさっきのおちゃめな行動なんて、ささやかすぎる事案だ。だから、副長は叱ったりキレたりしないのさ」
「だから、もういいって。ってか、おれをよむな」
俊冬にあかんべぇをしてやった。
ちなみに、白米ではなく玄米ではあったが、ウニ丼とわかめの味噌汁はうますぎた。
玄米は、昆布を入れて炊き上げた。ゆえに、玄米に昆布の旨味がたっぷりうつっていた。
なにせ一人当たりのウニの数がめっちゃおおい。
てんこ盛りのウニ丼であった。
じつは、とんずらしたお詫びにと、俊冬と俊春が再度海に潜ってさらにウニをとってきてくれた。
大量のウニをとりだす作業を、総出でしたのである。
隊士たちは、またしても美味いものをご相伴できるとあってわれさきにと手伝ってくれた。
みんなで手分けしてつくったというのも、美味い理由の一つにちがいない。
ちなみに、現代の北海道であれだけのウニ丼を喰えば、どれだけ安いところでも五千円とか、そのくらいはとられるかもしれない。
残念ながら、誠のウニの旬の時期には喰うことができないであろう。
なぜなら、その時期にはこの戦がおわっているであろうから。
ウニじたいは、はるか昔、縄文時代から食されていたらしい。が、明治初期、すくなくとも蝦夷のこのあたりの人たちはあまり喰わないようだ。ましてや海に潜ってせっせととり、それを売りさばいてそれだけを収入源にして生活をするなんてこともなさそうである。
はやい話が、ウニは豊富にあってとり放題状態ってわけである。
いまのこのくっそ寒い時期に素潜りでとることができるのは、俊冬と俊春だけである。かれらはせっせと海に潜ってはとってきて、新撰組だけではなく榎本や大鳥などいろんな人にウニ丼をふるまった。
まるで、地域の振興推進事業みたいである。
もうじき、ウニをふるさと納税の特産品として、全国に出荷をはじめるかもしれない。
もちろん、集まった金は軍資金として活用することになる。
あるいは、いっそ店をひらいたらいい。土地はあるし、かれらはDIYどころか建築関係のスキルもある。いい材木は豊富にあるし、あっという間に立派なウニ丼屋が建つだろう。
だとすれば、この戦がおわって敵が統治するようになっても、これだけうまいウニ丼をだすのである。蝦夷にあらたにやってくるであろうおおくの人々の胃袋を、がっちりつかむはずである。
当分の間は、店がつぶれるようなことはないだろう。
なーんて、ウニ丼屋の展望はどうでもいい。




