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今井さんと古屋さん

 ちなみに、古屋の実弟は高松凌雲たかまつりょううんという、日本の赤十字運動の先駆者となる医師である。

 

 高松もこの蝦夷にきていて、この後箱館病院の院長となる。

 その際、榎本にいっさいの口出しをしないよう条件をつけるらしい。

 

 その病院で、かれは敵味方の関係なく戦傷者の治療にあたる。


 ここにもすごい医師はいるのである。


 そして来年、古屋は終戦まぎわに重傷を負う。高松が治療にあたるが、終戦後一か月ほどで治療の甲斐なく古屋は死んでしまう。


 今井はさらに激昂した。


「なにを申しておる。馬鹿馬鹿しい。なんの証拠があるというのか?」


 人間ひとは、自分に不利な真実をつきつけられると怒り狂う。しかも、いまの今井の言葉なら、かれは自分で『自分がやりました』と自白したようなものだ。


 それにしても、俊冬のブラックユーモアはきつい。


 史実では、今井は晩年クリスチャンに改宗する。


 俊冬はそれをしっていて、神様は神様でも伴天連の神をひきあいにだした。


 もしかして、いまのこのやりとりが、今井のクリスチャン改宗に結び付くのかもしれない。


 って、それはないか。


 かれの改宗には、後日譚がある。


 おれも会ったことのある坂本龍馬の甥っ子の坂本直さかもとなおが、坂本の法要をおこなう。

 坂本直もクリスチャンに改宗する。坂本直は、なんとその法要に今井を招くのである。


 招く方も招く方かもしれない。

 今井は、その法要にしれっと参加するという。


 おれならぜったいに参加できない。そんな度胸はまったくない。


「あることないことほざきおって……。愚弄する気か?」


 今井は自分から喧嘩をふっかけておきながら、どの面下げてほざくのだろう?

 まだなんかいってるし。


 かれが佐々木只三郎をどうにかしたっていう疑惑は別にして、今井はよほどトラブル好きなのか怖い者しらずなのだろう。


 しかも、京での教訓はまったくいかされていない。

 ってか、あのとき俊冬と俊春に目にものみせられまくったという事実を、都合よく忘れてしまっているのかもしれない。


 でなければ、ただの馬鹿だ。


「愚弄?愚弄するだけムダだ。ゆえに愚弄しているわけではない」


 俊冬がさらにあおりまくる。


「貴様っ!」


 やはり、今井は馬鹿だった。


 叫ぶなり、腰のベルトにさしている得物に掌をかけたのである。


 これには、古屋も驚いた。かれの相貌かおに、驚愕の表情がはっきり浮かんだ。


 おっと、古屋はさっぱり系の相貌かおでなかなかのイケメンである。ウィキにかれの肖像画がのっている。こうしてみてみると、ウィキのまんまである。


「ほう……。抜くか?よかろう。なれば、無腰の「狂い犬」が相手をいたす。「狂い犬」よ、みたか?どうやら、下種野郎は京でおまえに痛い目にあわされただけではまだ足りぬらしいぞ」


 俊冬にふられた俊春のかっこかわいい相貌かおに、凄みのある笑みが浮かんだ。


「今井君、やめぬか。軍議の直前に、味方を相手にどういう料簡だ?」


 みるにみかねた古屋が、駆け寄ってきて今井の肩をつかんだ。


「俊冬、俊春、もういい。おまえたちが下種にあわせる必要はない」


 古屋がとめに入ったのである。副長もとめざるをえない。


 副長のめいに、俊冬と俊春は同時に片膝を床につけて控えた。頭を下げ、神妙な態度をとった。


 そこんところはさすがである。いつものごとく、「狂い犬」と「眠り龍」をも従わせる土方歳三のすごさ感をアピールしまくるのだから。


 副長のスッゲー感が、古屋に半端なく伝わったはずだ。ついでに、今井にも伝わっていればいいんだが。


「土方殿、申し訳ない」


 古屋は、今井をにらみつけてから副長に頭をさげた。


 結構道理をわきまえたいい人なのかもしれない。


「いえ。おれも大人げなかったのです」


 副長はちっともそんなことなど思ってもいないのに、古屋を立てるためにそう応じた。


 それから、二人並んで部屋に入っていった。


 組織って大変だなーってつくづく実感してしまう。


 

 なんだかんだで、副長は彰義隊や額兵隊や衝鋒隊を中心にした七百名ほどを率いて松前城に進軍し、落城させた。松前藩の藩主は松前城から館城、最終的には家族と重臣だけを連れて船で弘前藩へと逃げてしまった。


 われわれは、冬がくるまでには蝦夷地を平定することができた。


 が、その間に榎本が艦長を務める開陽丸や神速丸を座礁させてしまい失ってしまうというハプニングもあった。とくに開陽丸の喪失はかなりの痛手である。


 これがために、敵の上陸を容易にしてしまったといっても過言ではない。

 それほどの痛手をこうむることになった。


 北の国の冬は半端ない厳しさがある。それは、敵味方関係はない。そのことは、敵味方ともに充分理解してもいる。


 春まで戦闘はできない。


 敵は青森周辺にまでは兵を送ってきてはいるものの、その場で冬営するしかない。


 そして、それはわれわれも同様である。




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