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俊冬の頬の傷

 俊冬に頬の傷のことを尋ねてみたが、かれはビミョーな表情かおでおれをみただけである。


 一瞬、きこえなかったのかと思った。あるいは、かんがえごとかなにかしていてききもらしたのか。


 が、かれらはおれの発する言葉よりもさきにおれをよんでいる。どちらにしても、わからなかったというのはありえないだろう。


 もしかして、尋ねちゃいけなかったことなのか?

 またもや地雷を踏んでしまったのか?


 あっ、このたとえは洒落にならないな。なにせ、俊春の左腕の傷と二本の指がないのは地雷のせいらしいし。


 ってか、二人ともマジで戦場にいたんだ。


 あらためてそれを思いしらされ、認識してゾッとしてしまった。

 そのときの具体的な年齢はわからないが、おれと出会った数年まえだろう。俊春は二歳下だから、せいぜい六歳か七歳くらいか?


 人類の叡智だろうとダークヒーローだろうと、小学校一年生とか二年生とかが地雷を踏むとか人間ひとを殺しまくるとか、ぜったいにあってはならないことである。


 だが、実際のところ、戦争や紛争地域ではたくさんの子どもたちが犠牲になっている。銃をもたされ、戦場に駆りだされたりもする。


 あってはならないことというのは、そういう世界をマスコミやweb上でしかしらないおれのくそったれな正義感にすぎないのだろう。


「そうだよ。きみのかんがえているとおりさ。おれたちが参加した戦争以降でも、戦争や紛争はつづいている。その悲惨さは、報道で伝えられないほどのものなんだ。たった三歳とか四歳とかの幼児が犯されたり、銃で敵の頭をふっ飛ばすことを強要されたりするんだ。飢えや病で苦しんだり、家族や友人を奪われたりなんてことは、日常茶飯事だ。おおくの国の人々が、そういう事実をしらないでいる。いや、しろうとしない」


 俊冬は、おれから視線をそらすとそれを海原へと向けた。


「すまない。日本で生まれ育ったおれには、正直わからない。TV番組がそういう特集を組んでいるのをみたり、web上で活字や動画でみたりすることはあっても、他人事としてしかみていなかったから」

「謝る必要なんてないさ。だれだっておなじだろうから。もうやめよう。ここで未来の戦争や紛争の倫理観を語り合ったところで、未来の戦争や紛争(それら)がなくなるわけではないからね」


 かれの視線がまたこちらにもどってきた。


 かれのいうとおりだと思った。だから、一つうなずいて同意した。


「でっ?頬の傷はどうしたんだい?」


 あやうく本筋を忘れるところであった。月と星々の明かりでかれの頬の傷が白く光らなければ、このまま話をおえてしまうところであった。


 が、またしてもかれは口をつぐんでしまった。


 さっきもそうだ。だから、いらぬことにかんがえが飛んでしまったのである。


 もしかして、ごまかされている?そんなにいいたくないわけ?


「ぽち、きみなら教えてくれるよね?かれの頬の傷について」


 満面の笑みを浮かべ、俊春をみた。


 相棒は、おれたちの会話に飽きたらしい。もしくは興味が失せたのかもしれない。狼面を床面につけ、瞼をとじている。


「本人にきいてよ」


 俊春はにべもない。


「本人がこたえてくれないから、ぽちにきいているんだ」

「だったら、きみの十八番おはこのイマジネーションを駆使したらどうだい?ぼくはいまからワークアウトタイムだ。時間がもったいないからね。にゃんこはどうする?」

「おれもすこし体を動かしておくか。それから、銃をいじくろう。おまえも、ちょっとは手伝えよな」

「はいはい」


 俊春は目玉をぐるりと回すと、掌にもっているシャツを相棒のほうに放り投げ、ズボンをすばやくはいた。


 それから、二人ならんでおれからはなれてゆこうとする。その背に、イマジネーションを駆使した結果を投げつけてみた。


 ってか、ただの推理ってやつだけど。


「もしかして、ぽち?ぽちがやったのか?」

「主計、グッジョブだね」


 俊春は体ごとこちらに振りかえり、うれしそうに笑った。


 笑顔と傷だらけの体があまりにもギャップがありすぎる。


 やはり、俊冬に虐待でもされているのだろうか?


「そんなわけないだろうっ!」


 俊冬も体ごとこちらへ向いた。


「勘違いもはなはだしいよ。じゃぁ、これは?わんこに虐待されたってわけだ」


 シャツを脱いだ俊冬の体にも、俊春に負けず劣らず無数の傷痕が刻まれている。


「虐待じゃない。遣り合ったときの傷だ」

「や、やりあったとき?」

「ちがう。きみの好きな「やる」のほうじゃない。こいつとおれがアーミーナイフや銃で対戦し、傷つけあったってわけ。ほら、創作の世界でよくあるだろう?組織とか集団とか、集められた子どもたちが過酷な訓練に耐え、その訓練のなかでおおくの仲間が死んでゆき、最終的には数名が生き残って、最終試験としてその数名どうしで死闘を繰り広げ、生き残った者だけが外界にでて闇の仕事をこなすってストーリー。おれたちも、戦闘力を高めるために二人で遣り合うことを強要されたんだ」


 たしかに、創作の世界でそんなストーリーをたまにみかける。


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