「最後のさむらい」に出演するなら?
「逆ギレだ。きいた、兼定?いやだな、主計ってばほんっとにストーカーなんだから」
「だから、ぽち。そんな気持ちじゃないって」
「そんな気持ちじゃないけど、こんな気持ちなんだろう?」
「だからこんな気持ちでもないってば、たまっ!」
ゼーゼーと肩で息をしながらキレまくってしまった。
相棒が俊春の脚許からじとーっとおれをみている。視線があうと、大欠伸をしてそのまま伏せてしまった。
お馬鹿なおれを嘲笑っているかのように。もしくは、呆れかえっているにちがいない。
まさか俊冬や俊春とこんなやりとりをすることになるなんて、夢にも思わなかった。
しかし、不思議と違和感がない。そりゃあ、ずっとやりとりはしてきてはいた。しかしそれらは、幕末人である二人と現代人であるおれとのやりとりだった。
現代人どうしのやりとり、ではなかった。
真実をしり、対応をきりかえるのに違和感と抵抗があったのは、カミングアウトされたあの丘にいたときだけだった。気がつけば、フツーに会話をかわし、いじられ、いびられ、からかわれ、いじめられ、虐待までされている。
いまでは、完全に現代人どうしのやりとりだ。
餓鬼の時分に一度だけ会い、しかも時間にすれば三十分かそこらやりとりをしただけである。
たったそれだけのやりとりだったのに、まるで幼馴染みたいにしっくりきているからアメージングだ。
二人は、どう思っているんだろう?
ああどうせ、かわらないんだろうな。だって、おれのあつかいはほとんどかわっていないんだから。いやいや。それどころか、現代チックにダイナミックになっているかも。
「おれたちは、ミスター・ソウマからきみのことをきかされていたからね。だから、まったくの他人とは思えないんだ」
おれをよんだ俊冬が、甲板から俊春のシャツとズボンを拾い上げてそれを俊春におしつけた。俊春は、手拭いをもう一枚準備していたらしい。その一枚をこちらに放ってよこした。
「それと、こいつの傷もおれの傷も、現代の武器によるものだ」
俊冬は、そういいながら肩をすくめた。
「法眼が、「あいつらの傷はおかしい」っていってたよ。そういえばそのとき、副長が不自然なまでに話をそらしたな。なるほどね。副長は、真実をしっていたから話をそらしたんだ」
副長と松本と三人で、俊冬と俊春の傷痕について話をしたことがあった。
そのとき、松本が『あの傷は刀の傷ではない』みたいなことをいったのである。そのあと、副長が話をそらしてしまった。
いまにして思えば、あの話のそらし方は強引だった。あのとき以外でも、不自然なことがあったかもしれない。
「さすがはこの時代の名医。よくわかったよね。きみたちにはドラマチックに脚色してしまったけど、こいつの左の指と腕の傷は地雷によるものだし、おれの指は銃なんだ」
俊冬は、しれっと真実を語った。
その相貌をみながら、おいおいなにが『幼い時分に「桜田門」で襲撃されている某藩の藩主や藩士の助太刀をし、その驚異的な暴れっぷりを危惧した実父に斬られた』だ?
めっちゃ信じたぞ。
心のなかで声高にクレームをつけたが、どうせよまれるのだ。声にだしていったようなものであろう。
「びっくりしたよ。あのストーリー、時代劇のパクリだよね。だいたい、にゃんこはパクりすぎなんだよ。そのせいで、あわせるのに大変な思いをしてしまう。しかも、苦労までさせられてしまう」
「なにをいっている。いつもおまえが「YouTube」とかでみていたからだろう?だから、おまえが好きそうな境遇に脚色したんじゃないか」
「もういい。わかった。わかったから。たまのストーリーがあまりにもリアルすぎただけだ。たま、きみこそシナリオライターかなにかになれるんじゃないのか?」
「外国人が好みそうな「ザ・ジャパン」を撮れるだろうね。スタントマンなしでいけるアクターもいるし、アドリブができるコメディアンもいるから」
「たま、ちょっとまって。きみの描くアクション映画なら、いくらおれでもスタントマンは必要だ」
「きみ、まさか自分がアクションスターになれると思っているとか?」
おれが俊冬にダメだしをすると、俊春が瞳をまん丸くした。
「あたりまえさ。ぴったりだろう?「ラス〇・サムライ」みたかい?あのなかなら、おれは『真〇広之《さな〇ひろゆき》』の役かな?」
「きみ、いくらなんでもそれは炎上ものだろう?」
「にゃんこのいうとおりだよ。ど厚かましすぎる」
「ふふふふふふふんっ!」
俊冬と俊春だけでなく、相棒まで鼻を鳴らしてディスってきた。
「まったくもう。おれは、アクターがわんこ。コメディアンがきみっていいたかったのに。見事にボケてくれたね。兎に角、きみがいると本題からずれまくってしまう」
「おれのせいにするなよ。きみらも悪いんだ。ところでたま、きみのその頬の傷は、どうしたの?」
ふと、かれの頬の傷が双眸についてしまった。
松本曰く、「刀で斬られたような傷ではない」とのことだった。
たしかに、よくみれば鋭利な刃物というよりかは、鋭利でない刃物でえぐられたような傷痕にみえなくもない。




