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みんなで風呂にはいろうよ

 きいたことがある。


 フランス人の病人食の鉄板は、パスタとハムをゆでたものらしい。あとはピュレ、つまりマッシュポテトも喰うとか。


 それから、肉である。日本では、消化にいいものとして粥やうどんであるが、フランスでは肉を喰ったりするというから驚きである。

 まぁ病人食というよりかは、予防ってところなんだろう。


 肉といえば、フランス人にとってそれはたいてい牛肉である。

 牛肉となると、よりいっそう入手できるわけもない。

 

 が、フランス人も病人食としては鶏のささみを使ったりもするのだとか。それを、油ギッシュに調理したりするらしい。


『ちょっと山にいって山鳥を仕留めてきました』


 俊春と相棒は、わずか一時間も満たない時間で数羽の山鳥を仕留めてきた。それを米と一緒にフランス風粥に仕上げたという。


 俊冬と俊春と相棒という人類の叡智は、完璧すぎる。


 それは兎も角、ブリュネとフォルタンは、俊冬と俊春の対応に大満足しているようだ。そして、島田と野村と子どもらの過剰なコミュニケーションにも、めげたりひいている様子もなさそうだ。


 おそめの夕食がおわる時分ころには、フランスからやってきた軍人たちの緊張はすっかり解けたようである。


「では、風呂にはいろう」


 飯がおわると、必然的に風呂ということになる。


 なにゆえか、野村が副長をさしおいて音頭をとっている。

 とっとときめてしまった。


 子どもらがフランス人たちの掌をそれぞれひっぱって風呂に誘う。


「いやいや、異国人はあまり風呂に入りたがらないんじゃぁ……」


 そういいかけたが、すぐにあきらめた。


 いったところで、百万倍返しされるだけである。



「なら、おれもはいるか。土方、つきあえ」


 そして、松本も参戦するという。


 旅籠の風呂は、都合の悪いことに大人が十人はいっきに入れるだけのおおきさがある。


「そうですな。これからしばらくのつき合いになるらしいし、裸のつき合いも必要でしょう」


 誘われた副長は、機嫌よく了承した。


 いかん……。


 裸のつき合いってところに、過剰に反応してしまう。


「腐男子」


 俊春が膳を胸元に抱え、運んでゆこうとおれの横を通った。

 その瞬間、かれはたしかにそうつぶやいた。


 おれの頭に、その一言がふってきてあたったのである。


「ちがう。なにをいっているんだ」


 ちがわない。おれは、腐男子なんかじゃない。ちょっと想像しただけだ。


「それが腐男子なんだよ」


 俊冬である。かれもまた、膳を胸元に抱えている。


「兼定もそういっている。三対一だね。きみは、腐男子認定された」


 さらに俊春が投げつけてきた。それから、胸元に抱える膳を抱え直した。


 後片づけもきちんとする。


 人類の叡智は、そこんところも完璧なのである。


「副長、湯はすでに沸かしています。どうぞお入りください。こちらを片付けましたら、背を流します」

「おう、そうか。なら、そうしてもらおう、たま」


 俊冬が部屋からでてゆくタイミングで提案すると、副長は嬉しうれしそうにうなずいた。


「二人が背を流してくれます。法眼、気持ちいいですよ」


 副長は、ことのほか上機嫌である。


「もちろん、きみのも流すからね」

「いや、いらないし」


 俊春の悪魔きわまりない申し出をソッコー拒否った。

 しかし、かれはすでに部屋をでて廊下をあるいている。ゆえに、いまのひかえめな(・・・・・)お断りは、かれの背中にあたっただけできこえなかったかもしれない。


 なにせ、かれの耳はきこえないのだから。


「島田、勘吾、いこうか」

「そうだな。わたしはまだぽちたまに背をながしてもらったことがない。是非ともながしてもらいたいものだ」

「気持ちがいいぞ」


 副長につづき、島田と蟻通が立ち上がった。すでに松本は、自室に手拭いをとりにいっている。

 フランス人たちは、野村と子どもらに先導されて風呂にいってしまっている。


「主計、なにをしてやがる?」

「なにをって……。副長たちが風呂にはいっている間に、布団でも敷いておこうかな、と」


 まだ縁側に座ったままでいるおれのまえで、副長が腰に掌をあてマウントをとってきた。


 いわれずともわかっている。

 なぜなら、無言の圧がのしかかっているからだ。


 なにげに縁側のほうをみると、相棒が大あくびをしている。視線があうと、おおきな口をあけたままの状態でにらみつけられた。


 いまのこの相棒のでっかい口のあけ方なら、「赤ずきんちゃんのおばあさん」を丸呑みできそうだ。


「なにゆえだ?布団など、風呂からあがってからささっと敷いたらいいであろう?っていうよりかは、かように濡れたまんまで布団にさわるな。それに、布団などなくとも畳の上にごろんと横になってもいい」

「副長。そこはやはり、ちゃんと布団で眠らないといけませんよ。もう若くないんですから、『畳の上にごろんと横になって』だなんて、体を壊すもとです」

「若くないだと?」


 頭に副長のうなり声が落ちてきた。


 しまった。つい本音、もとい副長のことを心配しすぎて失言してしまった。

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