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Let's study French !

「アンテュール・フォルタン、デス」


 もう一人が自己紹介してきた。立派なカイゼル髭の男である。


 アンテュール・フォルタンといえば、たしか軍曹のはずである。


「ボンソワール・サージェント」


 あっているかどうかはわからないが、とりあえずいってみた。


 こんばんは、軍曹、という意味である。っていうか、自分ではそのつもりである。


 カイゼル髭の下に口角があがった。掌をさしだしてきたので握手をかわした。


 奇蹟的に通じたようだ。


「ほう。すごいではないか、主計」


 島田が感心してくれた。


 もっとも、これで手持ちのネタ、もとい単語はすべてだしつくした。


「おおっと、傷病人はすべて診ておわった。深刻な症状のもんはいねぇが、いずれも野菜や果物に含まれてる栄養がたりてねぇ。船に乗ってるから仕方がねぇだろうが、壊血病のことがあるからよ」


 どうやら、ブリュネとフォルタンの来訪の目的は、松本に傷病人を診てもらいたかったらしい。榎本が勧めたのであろう。


 幕府軍の脱走兵といっしょに、軍医もしくは医療関係者がいるかもしれない。しかし、ちゃんとした通辞は同行していないだろう。伝えることができなければ、まともに処置のほどこしようもない。というわけで、腕のいい医師松本とフランス語も堪能な俊冬と俊春に診てもらうため、連れてきたということだろう。


 ちなみに、大鳥も多少フランス語ができる。きくのはある程度できるらしいが、話すことになるとなかなかむずかしいらしい。


 それは兎も角、相棒をなでるブリュネも、相当な犬好きだとしれる。

 

 相棒も、一応は機嫌よくなでられている。


 スキンシップを堪能したのち、あらためて今後の打ち合わせをおこなった。


 俊春とおれは縁側に座って、だが。


 そうして、この夜はフランス軍兵士たちも泊った。


 大鳥の宿舎に、隊士たちが何名か移動することになった。傷病人やブリュネたちの部屋を確保するためである。


 悲報……。


 というほどではないが、このフランス軍軍人たちとの出会いで、副長はまたしてもハラハラドキドキ、あるいはカリカリキリキリすることが増えた。


 フランス軍も蝦夷にゆくことをしった野村と市村と田村は、がぜんはりきりだした。


 ってか今夜一晩、おなじ屋根の下に異国人がいるというだけで、テンションが超絶マックスにあがった。


 それこそ収拾がつかないほどに、である。


 ブリュネとフォルタンもたいがい迷惑なことだろう。野村たち三人がべったりくっつき、日本語と英語をまじえて質問攻めにしているのである。一応、食事は副長の部屋でとったが、三人も自分の膳をもちこんできて、日本食の食べ方とか作法とかを教えだした。


「いいかげんにしやがれっ!いい恥っさらしだ」


 副長がいくらキレたところで、効果があるわけもない。


「いいじゃねぇか。若いんだし、もしかすると通辞になれるかもだぜ。そうなったら、この戦の後、いろんな国にいっていろんな国をみてくりゃいい」


 松本は、玄米めしをかっこみながら笑う。


 たしかに、野村にしろ市村にしろ田村にしろ語学の才能がある。これまで俊冬と俊春がどれほどの頻度で教えていたかはわからないが、そこそこ英語が話せるのではなかろうか。


 市村と田村は兎も角、もしかすると野村はその線を狙っているんじゃないのか?


 そう勘ぐってしまう。


 野村は、どこか坂本龍馬さかもとりょうまに似ているところがある。プレゼン力は断然劣るが、要領のよさや人懐こさ、適応力や順応性は坂本をほうふつとさせる。


 野村も死ぬことになっている。このままゆけば、史実どおりに死ぬと装い、本当は海外にでもいってしまうのではないか?


 野村のことは置いておいて、旅籠の女将おかみには、ブリュネとその部下の傷病人たちの食事はこちらでっていうか俊冬と俊春が準備をすることで話がついている。

 二人は、フランス人の口に合うように日本食をアレンジしてくれたのである。


 とはいえ、白石城下ここでもやはり食材等をそろえるのは至難の業である。が、ブリュネは手土産がわりにワインを持参していた。俊冬と俊春はそれを拝借し、ワインをぶち込んでフランス風にしてしまったのである。


「トレビアーン」


 野村がそれっぽく料理の味をほめると、市村と田村もそれにつづく。でっ、ついでに好奇心旺盛な永遠の少年島田もおなじようにいっている。


 草すぎる。


 副長も苦笑している。


 俊冬が、フランス語でブリュネたちになにかいった。


「傷病人には、米と山鳥の肉でやわらかく煮たものをだしたんだ。本来なら、パスタとハムをやわらかくゆでたものかピュレがいいのだろうけど、いまここではどちらも入手がむずかしいからね」


 俊春が、俊冬の言葉をトランスレイトしてくれた。



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