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みんないっしょに来てくれるよね

 打ち合わせがすむと、おそいこともあって大鳥は自分の旅籠へともどっていった。榎本は、松本といっしょに部屋へひきとった。


 榎本は部屋へでてゆこうとした際、「土方君、風呂でもどうだい」って誘っていたが、副長は「つかれたからもう寝る」とソッコーでつっぱねた。



 その翌日は英気を養うのと準備のため、丸一日自由行動があたえられた。


 朝食後、榎本は自分のふねや僚艦の様子をみにいった。大鳥と島田、中島が同行することになった。


 島田と中島は、副長の名代ってわけである。


 副長とおれの部屋に、久吉と沢、それから市村と田村が呼ばれた。


 久吉と沢は、この日中の休みのために白石城からいったんもどってきたのである。夕刻には城にゆくらしい。


 というわけで、いま現在は安富一人で馬たちの面倒をみているわけである、

 安富も馬たちと水入らずでハッピーにちがいない。


 安富のことは兎も角、松本は自分の部屋にひきこもり、俊冬と俊春から得た医療に関するテクニックをまとめている。


 俊冬は、こちらも昨晩から旅籠の納屋にひきこもっている。銃の改造と手入れをしているのである。

 かれは新撰組おれたちのだけではなく、伝習隊のも運びこんできておこなっている。


 ちゃんとした部品がないため、そこまで精度はあがらないらしい。それでも、わずかでも弾丸たまの飛距離や命中率があがればいい。

 新撰組おれたちは兎も角、伝習隊はちゃんとした調練を受けている、

 一応、幕府陸軍の精鋭部隊なのである。

 ちょっとした性能アップでも十二分にいかすことができるだろう。


「働き者のわんこ」の俊春は、昨夜の打ち合わせの後、遠方にいる敵軍と会津藩の様子を物見にいった。

 いまはまだもどってきていない。

 あらゆるところを駆けずりまわっているにちがいない。


 俊冬も俊春も、動いていないと死んでしまう性質たちなのだろう。


「呼んだのはほかでもない。おれたちは、これから蝦夷へ向かう。蝦夷へいったら、あともどりはできぬ。それ相応の覚悟が必要だ」


 副長は書面から相貌かおをあげ、正座をしている四人に視線をはしらせながらいった。


 非戦闘員である久吉と沢、それからまだ子どもである市村と田村に、同行の意志を確認しようというのである。


「遠慮はいらぬ。法眼が身元をあずかってくれる。ここいらでも江戸でも、どちらでも働き口をみつけてくれる。あるいは、養ってくれる家を探してくれる」


 かれらがどう答えるかはわかっている。が、副長としては忍びないのだろう。


 案の定、四人とも副長をにらみつけたまま無言を貫いている。


「ああ、わかったわかった。きいたおれが悪かったよ。呼びつけてすまなかった。今日は、ゆっくりしてくれ。ほら、餓鬼ども。小遣いだ。甘いものでも喰ってこい。念のため、隊士おとなに連れていってもらえ」


 副長は、四人の圧に屈した。文を文机の上に置くと、畳に無造作に置いている巾着袋を引き寄せ、そこから銭をとりだして市村に手渡した。


「えーっ、これだけですか?ファック・ユーですよ」

「ホワット・ザ・ヘルですね」


 市村の掌上にある銭。それについて、市村と田村がブーイングした。


「主計っ!」


 いっちゃいけないスラングに、副長がおれを叱り飛した。


「おれじゃありません。利三郎、いえ、元凶はたまです」

「おれでもありません。わんこです」


 ソッコーで否定するおれにかぶせたのは、俊冬である。いつの間にか、縁側をはさんだ庭にあらわれていた。相棒がその脚許にいる。


「ったく……」

「たま先生、副長がスティンギーなんです」


 副長にかぶせ、訴える市村。


 スティンギーは、ケチという意味である。


「餓鬼ども、とっとといきやがれ。久吉、沢、さがっていいぞ」


 キレた副長をものともせず、子どもらは歓声をあげつつ縁側に飛びだし、久吉と沢は、一礼して去っていった。


「拳銃の改造をします」


 俊冬は、副長とおれから拳銃チャカを受け取ると、また納屋にひきこもってしまった。


 結局、子どもらの監督役をおれがするはめになり、子どもらと野村と相棒とともに、夕方ちかくまで白石城下をうろうろしていた。


 ってか、迷子になってさまよっていた。


 甘党の店を探しているうちに、泊っている旅籠の場所すらわからなくなってしまったのだ。


 Googleマップもないし、それ以外のナビ的アプリがあるわけでもない。


 しかーし、おれにはそんなものより頼りになる友人がいる。


 そう、相棒である。おれなんかよりIQがずっと上で、身体能力、精神、ともに想像のはるかに上をゆくスーパードッグである。


 いや、まて。それだったら、相棒はなにゆえもっとはやく案内してくれなかったんだ?そもそも、甘党の店にいくってところで案内してくれてもよかったのでは?


 とことこまえをあるく相棒の背をみつめながら、そんな疑問がふつふつわいてきた。



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