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先鋒 近藤勇

 相手の会津藩士は、山川やまかわという名らしい。


 最初の紹介では、無外流の皆伝だという。


 みためは、動きが鈍そうである。そのかわり、重そうな剣を遣いそうだ。


 身長は低い。155cmくらいか?


 この時代の男にしても低い。が、足腰がどっしりしている。それに、道着のあわせから垣間みえる胸板は、筋肉で隆々としている。もちろん、道着の袖からでている両方の腕も、筋肉質であることはいうまでもない。

 

 顎鬚がすばらしい。お世辞でなく、こんなにすばらしいものを、もといた場所でもみたことがない。

 ああ、たしかに、ハリウッド俳優なら、うっとりするほどの髭を蓄えることはある。

 正直、顔の髭に関しては、日本人より外国人のほうが似合うと思っている。顔の形が、日本人の丸い形より面長のほうが合いそうだからだ。


 もっとも、日本人でも昔の俳優で立派なそれを蓄えている人はいるので、これはあくまでもおれ個人の観点にすぎない。


 それは兎も角、山川は、地面に無造作に描かれた線の上で、対戦相手である局長にぺこりと頭を下げた。それから、履いている草履を丁寧に脱ぐ。そして、素足で中央へとすすむ。


 その所作に、おれだけでなく、永倉や斎藤も息を呑む。


 草履をきっちりとそろえて脱いだ、ということにたいしてではない。中央へとあゆむ、その足さばきにたいしてである。


 地をすすんでいるようにはみえない。たとえていうなら、宙に浮いているような・・・。

 これは、みために反して身軽な証拠である。


 しれず、局長をみる。局長は、そのことに気がついたとしても、われ関せずといったていである。


 会津藩から借りた木刀を、左の掌一本で幾度か振る。わずかに、顔がしかめられる。


 例の丸太棒のごとき木刀よりはるかに軽いので、その重さのちがいに当惑しているのであろうか?


 局長も、山川にたいして一礼し、草履を脱いで中央へすすむ。


 ちなみに、おれたちは、いつもの着物に袴姿である。局長も着古した着物であるが、その着物がところどころ擦り切れ、てかてかしていることに、内心で驚いている。


 あとでしったことだが、その着物は、まだ浪士組で着るものどころか、喰うものにも困っていたときのものだという。


 当時は、着たきり雀だったらしい。


 まだ捨てずにとっている。そして、これもこっそり教えてもらったのだが、局長は、それをときおりだしては、上京したばかりのころのことを思いだし、決意をあらたにするらしい。


 それを教えてくれたのが、沖田である。


 その決意とはなにか?までは、残念ながら教えてくれなかった。


 自分なりに、いろいろ想像するしかないわけだ。


「はじめっ!」


 審判の開始の号令で、試合場をみる。


 山川は、局長の一足一刀の間合いの外に飛び退った。そして、間髪いれず、一気に間合いを詰める。そのはやさは、人斬り河上玄斎にもひけはとらぬ。


 山川は、正眼の構えから間合いを詰め、突きを繰りだす。ちいさな山川の間合いと、おおきな局長のそれはちがう。山川の一足一刀の間合いは、局長にしてみれば近間になる。


 すばやい突き技。局長の喉元を、確実に突くはずである。


 が、局長は微動だにしない。理心流特有の剣先が開いた構えから、八双に構えをかえる。繰りだされた木刀を、そのまま叩く。そう、叩いた、というのがぴったりだ。


 おれたちには、軽く振りおろした程度にしかみえないその叩き方は、叩かれた山川にとってはそうとう重かったにちがいない。


 ちいさな山川の上半身が、木刀ごとまえのめりになる。


 局長は掌首をひねり、そのまま木刀を返す。それをわずかに振りかぶり、振りおろす。


「参りました!」


 山川が叫ぶ。


 局長の木刀の切っ先は、まえのめりの姿勢から必死に上体をおこそうとする山川の眉間の紙一重の位置で止まっている。

 

 先鋒戦は、われわれに軍配が上がった。

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