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モテ男の兄貴はすごい人

 そういえば、近藤局長や副長の故郷によった際、副長の一番上の兄の為次郎ためじろうを送っていったことがある。

 本人に指名されたからである。


 おれだけではない。俊冬と俊春もである。


 為次郎は、双眸が不自由なのである。

 とはいえ、かれはそうと思わせぬほど活発な人である。

 

 そのとき、かれは俊冬と俊春にいった。


『「バラガキ」にそっくりだ』、と。

 

「バラガキ」とは副長の餓鬼の時分ころのニックネームである。


『内にやまいぬがみえる』


 かれは、つづけてそのようにいった。

 さらにはこうもいっていたっけ。 


『自身の使命を果たすためにここにやってきた』

『その使命のために、死ぬんじゃないぞ。使命のさきもみてくれ。それで、あゆみつづけてくれ。それがすべてじゃないからな』


 おれ自身にいわれた言葉ではないのに、為次郎の言葉はいまでもはっきりと覚えている。


 すごい……。


 為次郎は、俊冬と俊春の本質を見抜いていたわけだ。

 

 あのとき、めずらしく二人が動揺していたっけ。


 あれだけいいあてられたら、だれだってびびってしまう。動揺もしてしまうだろう。


 もしかして、副長が為次郎に真実を話したのであろうか。


 副長は、為次郎と姉の佐藤さとうのぶさんにずいぶんと懐いていたという。


 いや……。


 やはり、副長が真実を告げるなんてことはないか。


 副長は、ああみえて約束事をやぶったり、許可もなく個人情報をSNSにあげたり、リアルにしゃべりまくって拡散するようなことはけっしてしない。


 二人の許可がないのに、いくら慕っている兄貴であっても告げるわけがない。


 だとすれば、やっぱすごすぎるぞ、為次郎。

 あらためて、為次郎のすごさを感じてしまう。


「あー、やっと人心地ついたってもんだ。なぁ、土方君」


 榎本の満足げな声で、おれの意識はいまこの場にもどってきた。


 上座のほうで、榎本が満足げに茶をすすっている。


 お櫃が一つからになっている。野菜の煮物も焼き魚もおかわりをしていた。


 それだけ喰えば、そりゃぁ「余は満足じゃ」ってことになるでしょうよ。


「ああ、それはよかった。それよりも榎本さん。あんた、法眼の横があいている。そっちに座った方がゆったり座れるぞ。それと大鳥さん、あんたもだ。島田の横があいている。そっちのほうがまだましだろう」


 副長は、最後の沢庵を頬張った。


 有能すぎると同時に盗人甚だしい俊春は、旅籠の厨をこっそり荒らしまくったようだ。そして、沢庵を探しだしてゲットしたのである。

 

 副長はもちろんのこと、相棒にもだしてくれた。


 って、相棒の沢庵好きも、いまとなっては納得がいく。


 そりゃそうだよな。沢庵好きの犬って、そんなにおおくはないだろう。どちらかといえば、ちょっとかわっている系だ。まったくいないわけではない。実際、しりあいの友人宅の犬が好きだからである。

 

 しかしながら、いくら好きとはいえ沢庵がないと機嫌が悪くなったりとか、殺気を放ったりというほどではない。


 相棒は、そのどちらもあてはまるほどの「沢庵フェチ」なのである。


「いいではないか」

「いいじゃないか」


 榎本と大鳥は副長をはさんでっていうよりかは、肘をあげたり身じろぎするのもしにくいほど密着して正座している。

 

 ぶっちゃけ、胡坐をかくことすらできないほどムダに密着している。


 たしかに部屋はおおきくない。くわえて、これだけの人数である。脚を伸ばしたり寝っ転がったりというのは、とうていできない。


 それでも、胡坐をかくぐらいのスペースはある。


 それなのに、榎本と大鳥は自分からスペースの有効活用を拒否っているのである。


「おれが狭いんですよ」


 モテ男の副長がキレた。玄米の飯粒と咀嚼しきれていない沢庵のかすが、口のなかから飛びだした。


『食べるかしゃべるかどちらかにしなさい』


 心のなかで、お母さんみたいに注意してしまった。


「いいじゃないか。おれたちの仲であろう?」

「いいではないか。ぼくたちの仲であろう?」


 榎本と大鳥が同時にいった。


 なにげに、この二人は息がぴったりあっている。

 いいコンビではないか。


 そういえば、二人はジョン万次郎まんじろうからともに英語を学んで以降の仲である。息があって当然かもしれない。


 なにより、男性・・の好みもぴったりだ。


「なっ……、仲?馬鹿なことを。味方同士ってだけのことだ。それ以上でも以下でもない」


 狼狽している副長は、マジ草すぎる。しかも、一応上官の立場にある二人を馬鹿呼ばわりしている。


 もしかすると、このいわれなき異様な仲を解消できるのなら、敵に投降するなり寝返るなりしてもいいっていうかんがえが、副長の頭のなかによぎったのではなかろうか。ついでに、そんなチートな作戦が心に浮かんだかもしれない。


「やめねぇか、釜次郎。ったく、あいかわらず惚れた人間ひとはとことんつき合わねぇと気がすまねぇんだからな。圭介。どうやらおめぇも、そういう性質たちのようだな」


 おおっと、ここで松本の乱入である。


 はたして、副長にとって松本は救世主となりえるのであろうか。



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