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ザ・血液型

 仙台到着もあとすこしのタイミングで、血液型の話になった。どうやら、輸血の話から発展したらしい。


 一番最初に輸血がおこなわれたのは、1600年代中頃以降だったと記憶している。子羊か仔牛から、人間ひとに輸血をおこなったのだ。一人か二人は成功したものの、死んだ者もいた。そのため、輸血は禁止されたのである。

 それ以降、人間ひと同士でおこなったのが、幕末いまよりも五十年ほどまえである。たしか、成功した例もあったと思う。


 これらはいずれも、外国での話である。


 血液は、人間ひとの体内からとりだすとすぐに凝固してしまう。その凝固剤ができるのは、1900年代に入ってからになる。


 幕末にタイムスリップした脳外科医を描いているコミックがあるが、そこで主人公は輸血を試みる。


 おれの記憶が正しければ、勝海舟の奥方がくも膜下出血だったであろうか、倒れて手術が必要になってしまった。その際におこなったと思う。


「そうか……。医療の進歩は、血を他人ひとに移しちまうことを可能にするんだな」


 馬車に揺られつつ、松本は感心しきりである。


 馬車を取り囲む隊士たちや子どもらも、「へー」やら「ほー」やら感心している。


 なにゆえかみんな集まってきていて、団子状態で行軍している。


 みんな、話をききたいからである。


 もちろん、おれのではない。俊春の、である。


 俊春が血液型について簡単に解説した。


 松本は理解している。そこはさすがである。が、隊士たちはよくわかっていない。それでも、わかったふりをしているところが健気である。


「副長は何型だと思う?」


 ふと尋ねてみた。副長のDNAを継ぐ俊春ならしっていると思ったからである。


「主計。きみは、何型だと推察する?」


 かれが問い返してきた。


 かれと俊冬には、本名である肇ではなく、主計と呼んでほしいと頼んだ。


 親父とお袋がつけてくれた肇をないがしろにしているわけではない。うまくいえないが、肇は現代に生きる、っていうか現代での名の気がする。


 幕末ここでは、主計って気がしてならないのである。


「B型かAB型かな?ああ、几帳面なところはA型かも。すくなくとも、O型ではないな」


 おれの答えに、かれはぶっとふいた。


「どういうこった。人間ひと性質たちから、血液型がわかるっていうのか?」

「血液型じたいは、検査をすればわかります。それとは別に、それぞれの血液型には似たような性質たちがあるといわれてまして。それで、だいたいの予測ができるんです」


 松本にきかれたので、そう答えてみた。


「主計。きみは、O型だな。しかも、典型的なO型だ」

「悪かったな。どうせ、おれは典型的なO型だよ。そういうきみだって、O型だろう?」

「悪かったね、典型的なO型で。かれもO型だ。人間ひとの血液で組織されている。DEA式ではない。万が一にも輸血するようなことがあれば、きみかぼくの血のほうが確実そうだね。犬からはだめだ。人間ひとの血でないとね」


 俊春はそういいながら、自分の脚許で機嫌よくあるいている相棒に視線を向けた。


 犬の血液型はDEA式で分類されていて、十三種類あるといわれている。


 なんてこった。いくら相棒が人間ひとのDNAを継いでいるとはいえ、人間ひとの血とおなじで大丈夫だなんて。


 しかも、おれたちは三人・・とも同じ血液型っていうのか。


「ということは、逆におれたちも相棒から血をもらうことができる、と?」

「うーん、それはどうだろう。ぼくならもしかすると、だけど。そこのところは、試してみないと正直わからないね」


 俊春の答えに、思わず相棒をみてしまった。


 人間ひとというのは、人間ひと型であろうと犬型であろうと遺伝子操作でなにかをつくりあげるなんて罪深いことを平気でやる。


 おれごときが倫理や人道を問うべきではない。それでも、複雑というかモヤモヤというか、釈然としない。


「で?オー型というのは、どういう性質たちなのだ?」


 おれがエラソーに人間ひとの「なんたら」について考察中に、好奇心旺盛な永遠の少年島田が尋ねてきた。


「O型ですか?一般的には、大雑把でおおらかでって感じでしょうか。助兵衛ってところもあるかも。ふだんはおおらかですが、キレるとめっちゃ口が悪くなったり、一人で行動したがるわりには孤独は嫌いだったり。そうそう、豊臣秀吉がO型であるといわれています。日本人は、A型についでO型がおおいんです。さきほどの輸血の話ですが、基本的にはおなじ血液型の人にしか適合しません。ですが、O型は他の型の人にもすることができます」


 Rhマイナスとかプラスというのは、話さなくてもいいだろう。



 


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