是非とも全力で盛り上げてほしい
いずれにしても、俊春にマウンティングしようがパワハラしようが、いまなら大丈夫。ついでに、かれをたたきのめそうがぶちのめそうが、相棒はもうおれに敵意をむきだしたり飛びかかりそうになったりしないはずだから……。
って相棒は、向こうで白虎隊の隊士たちに愛想をふりまきつつ、めっちゃにらんできている。
「まずムリだな」
「さよう。ぜったいにムリだ」
相棒の強烈なにらみにゾッとしているところに、島田と斎藤が謎断言してきた。
「ムリって、いったいなにがムリなんです?」
「おまえがぽちをたたきのめしたりぶちのめす、ということにきまっておろう」
「あぁ、そこですか……」
島田のツッコミに、たしかにそのとおりだと納得した。
そんなことができるのだったら、おれは地球上どころか宇宙最強の男のはずだ。
「ってか、またしても話がズレまくっています」
「おまえが元凶だろうが」
「おまえが悪いんだろうが」
せっかく指摘してあげたのに、島田も斎藤もさもおれが悪いようにツッコんできた。
「まったく……。真剣な話をしているというのに、なにゆえ笑わせるようなことばかり申すのだ」
「斎藤先生。申し訳ないですが、おれはこのさき新撰組のムードメーカーとしてお笑いのスキルアップに専念することに決めたのです。ゆえに、マジな話だろうと悲しいシチュエーションだろうと、しょーもないギャグの一発や二発かまして、兎に角その場の雰囲気をあかるくする努力をしなければならないんです」
マジな表情で、ふざけまくったことをのたまってみた。
「承知した」
斎藤は、表情をあらためるとおおきくうなずいた。
承知したって……。
斎藤、マジかよ。もしかして、マジにうけとった?
「ならば、わたしは責任をもって自身の子や孫たちに語り継ごう。『昔、相馬主計というファック野郎がいてな。そやつのくだらぬ話に悩まされたものだ。おまえたちは、他人を苛立たせたり不快にさせたりということをけっしてしてはならぬ。人間として漢として、最低限の作法は心得よ』、とな」
「ちょっ……。斎藤先生、それはないでしょう?」
おれがかれに泣きそうな声で訴えると、かれの相貌にいつものさわやかな笑みが浮かんだ。
「その調子でみなを盛り上げてくれ。とくに副長は、本音や弱音を言の葉にすることはない。しかしその心のなかは、あらゆることでおしつぶされそうで余裕などないはずだ。主計、おまえが雰囲気をよくしてくれれば、それだけでも副長にとっては救いになるはずだ」
かれは、そういいつつおれの肩を拳で軽く叩いた。
剣術や頭脳でフォローしたりアシストして新撰組を『盛り立てる』のではなく、ひたすら笑かして『盛り上げる』ってところがビミョーである。しかし、それでも斎藤に信じてもらえている。
素直によろこび、がんばろうという気になってしまう。
「ぽち、わたしをみろ」
かれは、俊春に向き直った。
耳の不自由な俊春に、注意をひいてから口の形をおおきくして話しかけるのがすっかり癖になっている。
「たまを死なせるな。ぜったいに、死なせるな。史実や敵をごまかす手立てはいくらでもある。そうであろう?主計自身とかれの護りたいものを護るのなら、副長の身代わりに死んでいてはそれは果たせぬ。無論、おまえ自身もだ」
かれの一言一言にこめられた想い……。
俊春は、なにもいうことなく頼りなげではあるが一つうなずいた。
斎藤の双眸をみながら。かれと視線をしっかりとあわせたまま……。
「わたしが思うに……」
島田が口をひらいた。おれを、それから俊春を順にみてからまた口をひらく。
「主計が護りたいものを護ろうというのなら、そのなかにおまえたちも入っているのではなかろうか?」
その島田の問いを咀嚼して理解するスピードは、斎藤やおれより俊春の方がはやい。ゆえに、おれたちよりかれのほうが一瞬はやく、はっとしたような表情になった。
そして、斎藤とおれも島田のいわんとしいることに気がついた。
おれの護りたいもの……。
さすがは気配り上手の島田だけのことはある。よくぞ気がついてくれた、と手放しで抱きつき褒め称えたい。
そういえば、以前島田とふたりきりで話をしたことがあった。その際、彼は言ったのだ。「二人は、おまえのことを知っているのではないか?」、と。二人というのは、俊冬と俊春のことだ。その二人が、おれのことを知っている。島田は、そう感じていたらしい。もっとも、彼自身根拠はないし、確信しているわけでもなかったが。そのときには、笑い飛ばしてしまった。
が、島田の言ったことは正しかったのだ。
それは兎も角、とりあえずいまは抱きつくのはなし。こちらからかれに抱きついてお返しに殺人的ベアハッグを喰らったら、体中の骨がどうにかなってしまうだろうから。
いずれにせよ、たしかに島田の言った通りだ。俊冬と俊春の正体をしろうがしるまいが、かれらはもともとおれの『護りたいものリスト』のなかに入っていた。
しかしながら情けない話ではあるが、かれらにはほかの護りたいものを護ってもらうことをついつい任せてしまっているのが現状である。
それでも、死んでほしくない。
たとえおれにその力はなくても、かれらを護りたいと心から望んでいるのはほかの人々となんらかわりはないのである。




