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仙台へゆこう

 城の中間部屋を、診療室兼松本個人部屋にしている。


 城にもどってきてから、松本は俊冬と俊春に手伝ってもらい、三人でずっと傷病人の手当てや介抱にかかりっきりになっている。


 副長とともに、松本の診察室兼個人部屋を訪れた。


 副長は、このあとすぐに仙台にむかうことになっている。

 史実どおり、にである。


 そして、新撰組おれたちも明日には会津を発つ予定である。


「仙台に?」


 松本は、傷病人を診るのを中断していった。


 かれは、副長から仙台行きをもちだされ、意外にも驚いた様子はない。


「ちょっとまってくれ。こいつだけ診ちまうからよ」


 松本は、そういってから診察のつづきをおこなった。


「よし。すっかりふさがってる。もう復帰してもいいぞ。さあっ、いったいった」


 かれは、患者である会津藩士の背中を思いっきりたたくと、診察室からさっさと追いだしてしまった。


「ぽちたまには、大広間で伏せってる連中を診てもらっている」


 こちらが尋ねるまえに、松本がいった。


 ってか、松本まで二人をぽちたまと呼んでいるのが草であろう。


 まぁたしかに、ぽちたまは呼びやすいか。


「土方、仙台にゆくのか?」

「はい。このあとすぐに。たまを連れてゆきます。そこで、仙台藩らの重臣たちと話し合いがあるそうです。おれが暴れぬよう、監視役が必要ですから」

「ちがいねぇな。わかった。おれは、こいつらと追いかけりゃいいんだな?」


 松本は、診察台がわりにしている木箱を指先でとんとん叩いてから、その指でおれをさした。


「え、ええ。では、了承いただけるんですね?」


 あまりにもあっさりしすぎている。てっきり、断られると思っていた。

 だから、副長も面喰らっている。


「おれは、仙台でとっ捕まることになってるんだろう?」

「降伏、です。しばらくは投獄されますが、敵もあなたの医師としての腕を認めています。すぐに赦され解放されます」


 かれには、仙台で敵に捕まるということだけは伝えてあった。ゆえにいま、あらためて史実を伝えた。

 

「中将からも沙汰されてるからな。いまここにいる傷病人をひととおり診たら、おれにできることはなにもねぇ。会津ここはもうおわりなんだろう?せめて最後までつきあって、とも思っちゃいたが……」


 松本はシミだらけの天井を見上げ、おおきなため息をついた。


 またしてもおれが史実を伝えたばかりに、意志を曲げさせてしまった。

 だが、これにはできうるかぎりしたがってもらいたい。


 かれは、仙台で敵に降伏する。それを曲げて会津に残ることで、万が一のことがあってはならないからである。


「でっ、新撰組おまえらはいつ経つ?」

「明日には経ちたいと」


 すでに、斎藤たちには如来堂のある高久村への出撃のめいがくだっている。かれらの出陣にあわせ、おれたちも出発することにしたのである。


「わかった。おっと、土方。新撰組おまえら、誠にすごいぞ。どの隊士も怪我やら病やら抱えてるっていうのにもかかわらず、完治まではゆかずともそこそこ治っちまってる。気概がちがうんだろうな。それと、ぽちたまが治療にくわえて食事や暗示やらで補ってるってのも、効果を発揮してるんだろう」


 松本は、そういってから古めかしい椅子の背にでっかい体をあずけた。


 椅子が、ぎしぎしと悲鳴をあげる。


「土方。おめぇ、主計とぽちたまに感謝せねばな。三人がいなきゃ、こんな程度じゃすんじゃいねぇぞ。それに、これからもいまの調子じゃとてもやってはいけねぇはずだ。おれがみてきたいかなる隊より、新撰組おまえらは怖いほど恵まれてるよ。それを忘れるんじゃねぇぞ」


 おおおおおおおっ!


『松本大先生っ、おれはあなたを愛しています!』


 心のなかで、愛の宣言をしてしまった。


『ふふん。いまのありがたいお言葉を、よーっく心に刻んでくださいよ』


 同時に、隣に立つイケメンに忠告を送っておいた。


 さすがの副長も、松本にたいして反論したり拒否れるわけがない。


 無言のままうなずいた。

 が、その直後、めっちゃこちらをにらんできて無言で圧をかけてきた。


 

 その後、副長と俊冬は、斎藤と三番組の隊士たちと別れを惜しんでから、仙台に向けて出発した。


 安富の激励が、若松城に響き渡っている。


 その激励は、副長と俊冬にではない。

 当然、「豊玉」と「宗匠」にたいしてである。


 おれの(・・・)騎馬である「宗匠」に、俊冬が乗ってゆくことになったのである。


 これでおれも、安富に乗馬スタイルのことで「竹根鞭」でぶたれまくられずにすむ。


 俊冬に乗っていってもらってラッキーってわけだ。



 その翌朝、ついにおれたちも出発することに……。


 大手門のまえに、新撰組うちと大鳥隊が集まっている。


 大鳥は、副長が俊冬を連れてさきに仙台に出発したということをしり、こっちがひくほどへこんでいる。


「なにゆえ、ぼくに相談もなく……」


 まるで婚約者が、だまって異性の友人と小旅行にいってしまったかのようなショックの受け方である。


 関わり合いになりたくないので、そっとしておくことにした。



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