表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/1255

上覧試合

 上覧試合、なるものがどういうものなのかがわからない。


 いや、なんとなく想像はできる。


 たとえば、天覧試合。サッカーやバレーボールは、天皇陛下がご覧になったのをきっかけに、その後、天皇杯としてトーナメントをおこなっている。


 競馬だって、天皇賞がある。年に二度あるそれを、両陛下が天覧されることもある。いつだったか、人気のなかった馬が、並いる強豪をうち破り、一着になった。その騎手が、馬上で騎手用のヘルメットをとり、両陛下に頭を下げた。それをテレビでみ、いたく感動した。馬や騎手だけではなく、調教師や厩舎の人たちみんなに、「がんばったな、おめでとう」、と心から賞讃を送りたくなったワンシーンであった。


 そんな厳かなものを、想像していた。

ら?る

 帝ではなく会津候ではあるが、それでも、ふだんならお目にかかれぬ高貴な方であることに、かわりない。


 ゆえに、上覧席も特別に設えているか、あるいは、屋内からみるものとばかり思い込んでいた。


 そんな想像は、すべて覆されてしまった。


 まず、試合場である。


 さすがに、砂利のない土の上ではあったが、そこに木の棒で書かれたような正方形の線があるだけである。


 そう、小学校の休み時間にドッチボールをやるときのような、そんな無造作な四角形がぽつんとある。

 そして、そのすぐちかく、相撲でいうところのかぶりつきの位置に、床几が、こちらもただぽつねんと一つ置かれている。

 ということは、田中ら重臣は、その周囲に立ってみるというのであろうか?


 勝手な空想をしている。笑えるではないか。


 あくまでも、内密の稽古試合。お手軽に、というのは当然のことであろう。そう思い直すことにする。



 会津藩は、一刀流でも溝口派だという。といわれても、正直、その流派がどんなものかよくわからない。


 先日のゲロ佐川の一撃も、ただ単純に相手を突き貫いただけである。ゲロ佐川の膂力と、突く正確さはわかったが、そもそもの太刀筋はいっさいみていない。


 そして先日、屯所の道場で斎藤の太刀筋をみた。斎藤も一刀流というのを、webから知識で得ている。そうだ、無外流なる記載もあったか?だが、あれが一刀流かどうかがわからない。


 斎藤は、緻密で姑息な剣を遣う一方で、重いそれをも遣う。つまり、つかみどころがない。

 

 ああ、わかっている。おれとは、格そのものが違う。だから、動きにも膂力にも、ついていけないのである。


 永倉に、こっそり尋ねてみた。あの鍛錬の翌日に。すると、永倉は驚いた。それは、おれの問いにたいして、ではなかった。


「そういやぁ、あいつの流派など、きいたこともなかった」


「がむしん」は、まずそういった。


「理心流を、学んでたんじゃなかったのか?おれはそう思い込んでた。我流だから、ちゃんとした流派で覚えたい、とな?違ったのか?」


 逆に、きかれてしまった。


 一刀流や無外流とwebにはあったが、じつはそれも確定的なものではない。


 兎に角、斎藤は謎だらけである。


 もしかすると、永倉が思い込んでいたとおり、我流なのかもしれない。


 結局、一刀流については、なにもわからないままである。



 会津藩で有名な剣士、というのも思いだせない。というよりかは、ゲロ佐川くらいしかwebでもみることがなかったような気がする。


 ゲロ佐川と、四名の剣士。


 四名は、いかにも純朴そうな外見である。ずんぐりむっくりした体型。相貌は髭に覆われ、昔の無骨な剣豪、といった感じである。

 まるで、みてきたかのように表現しているが、漫画にでてくる典型的な剣士、といったらわかってもらえるであろうか?


 つまり、ゲロ佐川以外は強そうにみえないが、じつは強いんじゃないのか?、といった感じにみえる。


「第一試合、両者まえに」


 そのとき、審判の声がした。


 審判は、会津藩の剣術指南役の弟らしい。


 当人は生まれつき左の脚が悪く、剣士としての道はとざされたらしい。いまは、重臣の一人として手腕を発揮している、ということである。剣も、そこそこ遣えるらしい。


 審判をするのに、なんの問題もないということである。


 近藤局長が、先鋒である。


 こういう意表をつくところが、じつに局長らしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ