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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第四章 神の目覚め・・・消滅
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銀色の不安(三)

 日はすっかり落ちてしまいました。


 とうとう夜がやってきたのです。


 にも関わらず、王城周辺はまるで日中のように明るい。黄色魔法によって照らされているからです。


 とても華やかで煌びやか・・・今のわたくしには眩しすぎます。


 わたくしの心があまりにも淀んでしまっているからでしょうか。


 とても舞踏会を楽しめるような気分ではありません。


 今回の主役はスーフィール姉様なわけですし、正直お休みしたかったです・・・


 どうしても剣夜さん以外の男性とは踊りたくありません。


 ですが・・・これ以上お父様やお母様にわがままを言うわけにはいきません。


 最後の手段としてナターリャさんに男装してはもらえないかお願いしてみましたが、何も心配はいらないと言って断られてしまいました。


 何が心配ないのでしょうか。


 わたくしは不安で不安で仕方がありませんのに・・・


 ですので、せめて舞踏会で着るドレスはなるべく地味目なものを準備するよう言いました。


 こうなったら出来るだけ目立たないようにするしかありません。


 しかし、ナターリャさんはまたしてもわたくしの期待を裏切りました。


 よりにもよって、持って来たのはなんとわたくしのお気に入り、桜色のドレス。


 剣夜さんと初めて会った時に着ていた思い出の品でもあるそのドレスを・・・


 初めから機嫌が悪かったわたくしです。


 その上ナターリャさんの無神経さに少し腹が立ってしまいました。


 ・・・きっとそこにはナターリャさんへの不信感も混じっていたのでしょう。


 こんな気持ちを抱いたのはもしかしたら初めてかもしれません。


 幼い頃からお世話をしてもらって、家族同然のような存在なのに・・・


 剣夜さんと密会をしているかもしれないという憶測が頭から離れないのです。


 それで、わたくしはどうしてこんな意地悪をするのかと怒鳴ってしまいました。


 しかしナターリャさんは終始「大丈夫ですから」の一点張りでした。


 そして結局わたくしは半ば強引に桜色のドレスを着せられてしまいました。


 お気に入りのはずなのに・・・今回ばかりは全然嬉しくありません。


 それでも、舞踏会がすぐに始まるということで再び着替える余裕は残されていませんでした。


 これではもうどうすることもできません。


 わたくしはナターリャさんに案内されながら泣く泣く舞踏会に向かいました・・・



 さすがお父様の主催した舞踏会です。


 国内の有力な貴族の方々が勢ぞろいしているだけでなく国外の王族らしき方もいらっしゃいます。


 サマルティス王国第一王女であるスーフィール姉様の婚約者になるということは次期国王になるということ。


 その座を狙うと言えば人聞きが悪いかもしれませんが、それなりの野望は持っているのでしょう。


 スーフィール姉様が現れると、その周りにはすぐに人だかりが出来てしまいました。


 お姉様はいつものように微笑みを浮かべていますが、心の内ではどこか面倒がっているような気がします。


 婚約者を決めるつもりなど全くないみたいです。


 お母様やお父様に早く婚約者を決めるよう急かされているはずなのですが・・・


 本当は結婚なんてしたくないのかもしれません。


 婚約者探しにうんざりしているのかもしれません。


 今に始まったことではありませんが、わたくしにも本当のところはよくわかりません。


 それでも、決して嫌な顔を見せないところはすごいと思います。


 わたくしなんて笑顔を必死に装っていますが、きっと暗い気持ちがにじみ出てしまっているでしょう。


 これでは王女失格です。


 なんだかお母様の方から妙な圧迫感があります。


 舞踏会が終わった後に叱られてしまうかもしれません。


 お母様は怒るととても怖いんです。この歳になっても涙が出てしまうくらい。


 いつものわたくしなら怒られないよう必死に取り繕うところでしょうが、今日はそうでもありません。


 こんな暗い顔をした女に話しかけようとする男性はいないでしょうから。


 剣夜さん以外の男性と踊らなくて済むのならお母様に怒られるくらいなんでもありません。


 そう思いながらなんとか今夜を乗り切ろうとしたのですが・・・


「これはこれは。麗しのシルヴィー姫ではありませんか。どうですか。僕と一曲」


「いえいえ。ここは僕といかがでしょう」


 ・・・わたくしの期待はあっけなく裏切られたのです。


 いつのまにか数人の男性が近づいてきていました。


 年のほどはわたくしよりもずっと上。


 以前どこかで見た覚えがありますし、きっと有力貴族の息子さん方でしょう。


 とても好感が持てそうな笑みを浮かべていますが、なんというか・・・彼らからはあまり良い噂を聞きません。


 なんでも、『聖遺物』が採掘できる鉱脈を聖教会に報告することなく所有し、秘密裏に売買を行うことで莫大な利益を得ているとか。


 それに、彼らは過去にスーフィール姉様やパティー姉様に婚約の申し込みをしていたそうです。


 それもかなり執拗に。


 王家の血筋をなんとしてでも受け継ごうという思惑があるのでしょう。


 そうすれば自分たちの悪事を隠蔽しやすくなる、とも。


 ですから今回の舞踏会に参加しているのは不思議ではありませんが・・・どうしてわたくしなのでしょう。


 婚約するのなら第一王女であるスーフィール姉様との方が利点が大きいような気がします。


 なのにどうして・・・


「僕はユーリン=アルゼントと申します。アルゼント家の次期当主です。決してシルヴィー姫に見劣りするような者ではありません」


「・・・」


「どうされましたか。お見受けしたところ、まだ踊る相手を決めていらっしゃらないようですし、僕では何か問題があるでしょうか」


「それは・・・」


 わたくしが沈黙を貫き通そうとしても諦める様子はありません。


 それどころか徐々に距離を詰めてきています。


 正直・・・後ずさりたい気持ちでいっぱいです。


 しかし、それは王女としてあまりにも無作法でしょうし、そもそも踊る相手がまだ決まっていないこの状況で断る理由が見つかりません。


 どれだけ気が乗らない相手であっても、申し込まれたらお受けする。


 それがここでの礼儀というものです。


 あんな嫌そうにしているスーフィール姉様でさえも一人ずつ相手をしています。


 わたくしたちの恥はお父様の恥でもあり、国全体の恥となってしまうのですから。


「さあ。お手を」


 周りの方々も見ています。


 今更逃げることなんてできません。


 わたくしはこの差し出された手を取らなくてはならない。


 そういうところまで追い詰められてしまっているのです。


 もう・・・どうしようもありません。


 これが王女であるわたくしの役目なのですから。


 わがままを言うわけにはいきません。


 そう。わがままを言うわけには・・・









 ・・・・・・剣夜さんと踊りたかった。


 ・・・・・・剣夜さんとだけ踊りたかった。


 ・・・・・・剣夜さんに手を握ってほしかった。


 ・・・・・・剣夜さんにだけ手を握ってほしかった。









 わたくしは・・・わたくしは剣夜さんと・・・


「お待たせ、シルヴィー。遅れてごめん」


 その声を聞いた瞬間、わたくしの心にようやく光が差し込みました。

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