乙女たちの想い(七)
俺たちは今、かなりまずい状況に陥っている。
それは何か・・・
端的に言って迷子になってしまった。
どうしてこうなったのか・・・順を追って説明するとしよう。
和解を遂げた後、俺たちは幾分か冷静になった。
すると今の状況がどれほど異常であるのかということを認識せざるを得なかった。
それはどういうことかというと・・・ラパティアが言った。
「落ち着いたようだから聞くけど、ここはどこ」
「ここは地獄りょ・・・」
そう言いかけた瞬間に俺は固まってしまった。
たやすく口が滑りそうになったが、ラパティアたちにはまだ俺と赤姫の正体を打ち明けていなかった。
もちろん『地獄領』のこともだ。
一応・・・それにはいくつかの理由がある。
まず第一に信じてもらえそうにないから。
そして第二に、これが一番重要だが、変な先入観や知識を与えて混乱させたり、無用な争いに巻き込まれたりして欲しくないからだ。
俺の中ではアロガーザの一件がかなりの重みを持っている。
サフィーレやラパティアは平気な様子をしているが、俺は慎重になるしかった。
しかし、もうすでに聖霊や『天国領』の話などを大まかに喋ってしまっているため、今更隠しようもない気がする・・・だとしても、実際に見たり証拠があったりするわけじゃないから細かい説明は避けてこれた。
サフィーレの追求から逃げるのには毎日苦労していたりするが・・・
しかし今は違う。
ラパティアが実際に『地獄領』を見てしまった。
俺と赤姫の会話なんかをがっつりと聞いてしまった。
もはや言い逃れできない状況にある。
「早く答えなさいよ」
俺がしばらく黙っているとラパティアが俺の顔にジリジリと詰め寄ってくる。
赤姫はといえば、手を貸してくれるというわけでもなくただじっとこちらを見ているだけだ。
「そんなことより身体は大丈夫なのか。こんなに長く外にいたら疲れるだろ」
「うるさい。早く答えないとお姉ちゃんに有る事無い事言ってやるから」
俺のごまかしは当然のようにはねのけられる。
しかし、まさか脅迫までしてくるとは。
相変わらずラパティアのやることは過激だ。
一体誰の影響を受けたんだか。
「・・・ちなみに何を言うつもりなんだ」
俺が恐る恐る尋ねてみると、ラパティアは得意げな表情を見せながら生き生きと語ってくれた。
「あなたが幼女に水着を着せたまま外出させようとしたこと。自分から木に突っ込んだこと。仕事もせずに幼女でいやらしいことを妄想したってこと。後・・・私を大人にしてくれないこと」
なぜか最後だけもじもじしながら答えたが、結局ほぼ全てが俺への悪口だった。
しかも『地獄領』や俺と赤姫の正体に関する事柄が全くない。
もしかしたらラパティアなりに気を使ってくれているのだろうか、そう思い俺は一安心した・・・かったのだが、
「それと、あなたたちがやっぱり人間じゃなかったこと」
「・・・」
俺は固まった。
ラパティアは抜かりないといった様子だ。
まさか最初から油断させておいてそこを狙うつもりだったのだろうか。
その策士ぶりには感心するが、そんなこと言ってる場合ではない。
「・・・なぁラパティア」
「なに?」
「そのことはサフィーレに言わないでもらえないか」
「はっ。そんなの無理。私、お姉ちゃんには隠し事しないんだから」
「隠し事というか・・・サフィーレに質問されない限りは黙っていて欲しいんだ。それなら隠したことにはならないだろ」
「そんなの屁理屈」
まあ確かにおっしゃる通り。
それでもなんとかしてラパティアの口を塞ぎたい。
赤姫も黙ってないで協力してもらいたかったのだが、さっきからなんだかニヤニヤし始めた。
一体何がそんなにおかしいんだか。
こっちは必死なんだ。
「それでも・・・そこをなんとか頼めないか」
「そもそもお願いの仕方に問題がある。全然誠意が感じられない」
この仕打ちはなんだ。
俺が一体この子に何をしたというのだろうか。
だが・・・ここは従うしかないか。
「頼む」
もはや屈辱的でしかないが、俺は年端もいかない少女に頭を下げた。
逆さになっている今の状態からすれば頭を上げたという方が正しいのかもしれないが。
「おぉ!いつも偉そうな剣夜が頭を下げおったぞ。これは絶景じゃ」
「頼むじゃなくてお願いします」
なんだと。
しかも赤姫が妙に楽しそうにしていたが、これが目的か・・・
「お願い・・・します」
「どうしようかな」
なんだかだんだん頭にきてくる。
どうやら多少の実力行使が必要みたいだ。
そう思って腕を伸ばそうとした瞬間、ラパティアが突如姿を消した。
俺の殺気を感じ取ったのか、聖剣の中に逃げ込んだようだ。
「私に乱暴しようとしたっていいつけてやる」
「・・・」
はぁ・・・
「・・・もう疲れたし、一旦家に帰るか」
「そうじゃな。儂も甘いものが食べたくなってきたわい」
ラパティアの説得はとりあえず後回し。
俺は早速『ゲート』を開いた。
目的地はもちろん王都ブルーゲ・・・のつもりだったのだが、俺たちはあまりにも間抜けすぎた。
「ちなみにこれはどこに繋がっておるのじゃ?」
「・・・」
赤姫の一言で全てを悟った。
帰れない。
ここまでが第一段階。
まだ終わらない。
俺は少し焦ったが、すぐに打開策を思いついた。
人間界に行く正規の手順。つまり『人間領』を経由する方法だ。
ただ俺たちは直接『人間領』に行くことができないため、一旦『三途の川』への『ゲート』を開こうとした・・・が、繋がらない。
俺がやっても赤姫がやっても一向に『三途の川』に行けない。
ここまでが第二段階。
さすがにもう途方に暮れるしかなかった。
迷子ではなく完全に遭難だ。
しかし、そこで白丸が新たな打開策を出してくれた。
曰く、白丸なら直接『人間領』に行くことができるのだと。
それなら俺たちも一緒に行けるのではないかと思ったが、初めて見る白丸の『ゲート』がかなり小さかったため断念した。
「目的地に着き次第連絡いたします」
「よろしく頼む」
これで俺たちは無事遭難者から迷子に昇格したのだった。
そして・・・思ったよりも早く白丸から連絡がきた。
どうやら俺が人間界に初めて行った時のように、『人間領』のスタッフに事情を話したんだと言う。
俺は『ゲート』を開いた。
やっと帰れる。
「全く剣夜は準備が悪いのう。儂を待たせすぎじゃ」
「帰ったら何かうまいものでも食べさせてやるよ」
「本当か!?約束じゃからな」
全く赤姫は扱いやすい。
一方の幼女の機嫌は取りつつも、もう一方をどうしようかと頭を悩ましながら俺は『ゲート』をくぐった。




