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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第四章 神の目覚め・・・消滅
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乙女たちの想い(二)

 投稿が遅くなって申し訳ございません。

「なんだあれは・・・恐竜、か?」


 洞窟内の探索を終えた俺たち。


 結果からいえば成功だった。


 『聖遺物』は大量に見つかったし、種類もかなり豊富だった。


 だがしかし、大きな問題も見つかってしまった。


 それは、どのようにして掘り出し、どのようにして運搬するのかということだ。


 確かに『テクトニズム』を使って『聖遺物』を地表まで掘り出すことは容易かもしれない。


 が、いくらなんでもジャングルの外まで運ぶことは不可能だ。


 そもそも人が立ち入って安全に採掘すること自体が不可能だ。


 なぜか。


 それはまさに今、洞窟を出た俺たちの目の前に危険生物が闊歩しているからである。


 その姿はティラノサウルスに近い。


 しかし体表は黒光りする鱗にびっしりと覆われ、いたるところから鋭利なトゲが飛び出ている。


 つまり、完全に武装しているということだ。


 そして何よりもでかい。


 白丸の完全体よりもひとまわりは大きいと思われる。


 初めて見たときは正直開いた口が塞がらなかった。


「こんなのがいたんじゃおちおち採掘もしてられないだろ」


「何をビビっておるのじゃ。剣夜も少しは儂の領民としての気概を見せい」


「そうは言うが・・・」


「仕方ないのう。ここは儂の実力を見せてぎゃふんと言わせてやるわ」


 ぎゃふん、って・・・


 赤姫は自信満々に巨大生物へと近づいていく。


「大丈夫なの?一瞬で飲み込まれそう」


「それはそれで見てみたい気もするがな」


 さすがのラパティアも心配しているらしく、俺の肩の上から赤姫の方を凝視していた。


 赤姫(幼女)VS巨大黒色恐竜(完全武装)。


 体格から見れば完全に勝負ありだ。


 そもそも赤姫の背丈は文字通り相手の足元にも及んでいない。


 それでも赤姫は怯むことなく接近していく。


 しかし大恐竜は赤姫のことなど全く眼中にないだろう。というか見えていないだろう。


「助けが必要になったらすぐに言うんだぞ」


「そんなものはいらんわ。儂を見くびるでない」


 そう言いながら赤姫は構えをとった。


 すると赤姫の周りから大気を揺るがすかのような覇気が感じられ始める。


 そして大恐竜も殺気を感じ取ったのだろう、大きな首を回して赤姫を見下ろした。


「ゴアー」


 これまた空気を大きく震わせるような咆哮。


 それにあわせて巨大な足が地響きをたて始める。


 そのあまりの迫力に俺は一瞬たじろいでしまうが、赤姫は違った。


 幼女とは思えないような泰然とした姿で右腕をスッと上げる。


 そして次の瞬間、手のひらから勢いよく放たれた赤黒い妖気が大恐竜の首もとに命中した・・・のだが、


「あれ?」


 赤姫は”やっちまった”みたいな風に年相応な可愛らしい声を上げた。


 それも無理はない。


 あれだけ自信満々に放った渾身の一撃は当たりはしたものの、大恐竜の首もとには一切傷がついていなかったのだから。


「まさか赤姫の攻撃が全く通じなかったのか?」


 いくら弱体化したからといって、あれでも『地獄領』の一領主のはずなんだが・・・


「剣夜殿、来ます!」


 急な攻撃に怒りを露わにした大恐竜が猛烈な勢いで赤姫に突撃し始めた。


「赤姫、とりあえずこっちに戻ってこい」


「・・・」


 何の返事もない。


 赤姫は腕を上げたまま呆然と突っ立っていた。


 何やってるんだ。


「白丸、『雪隠れ』で赤姫を守ってくれ」


「わかりました」


「ラパティアは聖剣に戻っておくんだ」


「うん」


 多少の焦りを感じながら俺は指示をした後、赤姫のもとに向かった。


 だが大恐竜はもうそこまで迫っている。


「グアー」


 間一髪のところで聖剣からの猛吹雪が大恐竜の顎を弾いた。


 その隙に俺は赤姫のもとにかけ寄る。


「何してる。早く逃げるぞ」


「儂の辞書に逃げるの三文字はない!」


「だが赤姫の攻撃は全く効いてなかっただろ」


「あれは・・・ちょっと手加減してやっただけじゃ。次はない!」


 そう言って赤姫は急に跳び上がった。


「おい」


 幼女の足とは思えないほどの跳躍力を見せた赤姫は『雪隠れ』による防壁を飛び出ると、大恐竜の頭上にまで至った。


 今度は魔法ではなく素手による攻撃を喰らわせようとしているようだ。


 あんな細い腕で何ができるのだろうかと思ったが、俺は以前王都近くの森の中で赤姫が猛獣たちを素手で粉砕していたことを思い出した。


 またあの地獄絵図が再現されるというわけか・・・


 俺はとりあえず後ろに離れた。


「儂を馬鹿にした鉄槌じゃ!」


 大きな声を上げながら赤姫は華奢な腕を振り上げる。


 別にあの生物は赤姫を馬鹿にしたわけじゃないだろうに。


 なんだか濡れ衣を着せられた上、一方的に殴られる大恐竜がかわいそうに思えてきた。


 そして赤姫の拳が大恐竜の脳天を捉えた。


 激しい衝撃波があたりの木々をなぎ払っていく。


 しかし次の瞬間・・・俺は自分の目を疑った。


 赤姫の目も点になっていることだろう。


 なぜなら・・・()()()()()()()()からである。


 脳天が粉砕されるわけでも、大恐竜が吹っ飛ぶわけでもなく、ただただ何も起きなかった。


 ・・・一瞬の静寂。


 次に動いたのは大恐竜の方だった。


 頭を振り回すことでなぎ払った赤姫を丸呑みにしようとしている。


「赤姫しっかりしろ」


「・・・」


 反応がない。


 赤姫はまるで春の桜のように脱力した様子で宙を舞っている。いや、散っている。


 そこへ大きく開かれた口が急速に迫る。


「白丸」


「わかっております」


 俺の咄嗟の命令をあらかじめ予想していたらしく、白丸は吹雪を自在に操り赤姫を救出した。


 俺は空から降ってきた赤姫を抱える。


「一体どうしたって言うんだ」


「・・・」


 俺の問いかけに答えることなく、赤姫は無表情のままただ空を見ていた。


「とにかく逃げるからな」


 赤姫を食べ損ねた大恐竜は激昂したのか、さらに大きな咆哮をあげると俺たちの方へと突っ込む構えをとった。


 とにかく安全を確保しなければ。


「・・・嫌じゃ」


 そう言って赤姫は急に俺の腕から飛び降りると再び大恐竜の方へと走り出そうとした。


 だが俺は赤姫の腕をとって制止させる。


「待て。これ以上何をするつもりだ」


「そんなの決まっておるじゃろ。あやつを倒すのじゃ!」


「それは今無理だとわかっただろ。魔法も怪力も全く効かなかったじゃないか」


「無理でもなんでも儂はやるのじゃ!」


 赤姫はまさしく駄々をこねる子供のように俺の手を無理やり引き離そうとする。


 それでも俺は決してその手を離さない。むしろさらに力を込める。


「これは命令じゃぞ。離すのじゃ!」


「悪いがわがままを聞いてる暇はないんだ」


 俺は必死に抵抗する赤姫に背を向けて足に力を込めた。


 このまま洞窟の中にでも逃げ込もうと思った、その瞬間、背中に強い痛みと衝撃を受けた。


「ちょ、ちょっと」


「剣夜殿!」


 慌てるラパティアと白丸。


 まさかあの生物が火でも吐いたか?


 そう思って後ろを振り返ると、俺めがけて赤姫の小さな掌が向けられていた。


 まさか・・・


「赤姫・・・お前が・・・」


「儂の領民なら領主の言うことを聞くのじゃ!」


「俺は赤姫の領民として逃げることを提案してるんだ」


「儂の命令が聞けぬ剣夜なんか儂の領民じゃないわい!いますぐ儂の前から立ち去れ!」


 赤姫の目には一点の曇りもない。


 つまり、本気だということだ。


 赤姫は本気で俺を邪魔だと思っている。


「俺なしでどうするって言うんだ。赤姫じゃあれには勝てない。もう十分に理解しただろ」


 意識せずとも俺の声が普段よりも大きくなる。


 それでも赤姫は抵抗をやめない。


 もはや俺のことを見もしないで。


「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。儂は『地獄姫』じゃぞ。儂があんなのに負けるわけがあるか!」


「実際にお前は負けたんだ。どうしてわからない」


「うるさい!さっさと儂の前から消えろ!この下郎が!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺はいつもの冷静さを失ってしまった。


 そしていつの間にか・・・赤姫の頬を叩いていた。

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