新たな居場所(五)
「これで全て終わりましたね」
「ありがとうございました、ナターリャさん」
「メイドとして当然のことです。今お茶を入れてまいります」
「私も入れますわ」
この広すぎる屋敷を掃除するだけで一日を終えてしまった。
いや、一日で終わったことが奇跡のようだ。
俺たち五人だけでは今日中に終わらせることはできなかっただろう。
しかし俺たちの元に強力な助っ人が二人も加わった。
シルヴィーの専属メイドであるナターリャさん、そしてオルドックス家のメイドであるメレオラさんだ。
この二人の手際の良さには目を見張るものがあった。
ほとんど二人しか掃除をしていないのではと思えるほどの速度と入念さだった。
「儂もやったのじゃぞ!」
「わかってる。ありがとう赤姫」
「分かれば良いのじゃ」
ただリーニアからは、赤姫は綺麗にするよりも汚す方が得意だとまっすぐに言われてしまっている。
なんとなく予想はしていたが、それを見事裏切らないのが赤姫だ。
だが手伝おうとしたその心意気には感謝しておくとしよう。
求められるがままに赤姫の頭を撫でていると、俺たちがいる大広間にリーニアとナターリャさんが戻ってきた。
ちなみにサフィーレはメレオラさんをこき使いながらいまだ書庫で整理を行っている。
何か弱みでも掴んだのだろうか。
「どうぞ、剣夜様」
「ありがとうリーニア」
相変わらずリーニアが入れてくれたお茶はとてもいい香りがする。
早速お茶を堪能しようとしたが、カップを渡し後もリーニアは俺の前から離れなかった。
「剣夜様にお願いといいますか、確認させていただきたいことがあるのですが・・・」
「どうした?」
「・・・私はこのお屋敷に住んでもよろしいのでしょうか」
「俺は構わないよ。ただ、両親の許可はもらうんだぞ」
「わかりましたわ!」
そう言って、リーニアはすぐに家を飛び出してしまった。
相変わらずの行動力である。
「これから忙しくなりそうですね」
「そうだな。とりあえず必要最低限の家具は今日中に揃えるか」
「そのことについてはご心配なく。すでに注文していますので」
「注文?何を注文したんだ?」
「人数分のベッド、テーブルと椅子、クローゼットに食器類です。足りない分は適宜追加していけばよろしいと思います」
「その人数分にはリーニアも含まれているのか?」
「もちろんです。こうなることはわかっていましたから」
「そうか・・・」
つまりシルヴィーはリーニアが一緒に住むことを容認するということか。
俺との婚約に関してリーニアとは競争すると言っていたが、それでも親友を蹴落とそうとするような子ではないか。
リーニアが入れてくれたお茶を堪能しながらシルヴィーとそんな会話をしていると、しばらくしてリーニアとサフィーレが合流した。
サフィーレは鼻歌交じりにご機嫌の様子だったが、遅れてやってきたメレオラさんはもう限界といった様子であった。
一体どれほど酷使したのだろうか。
「お父さんもお母さんも許してくれました!これでようやく剣夜様と一緒に暮らせますわ」
えらくあっさりと決まったものだ。
大切な一人娘をそう簡単に同棲させて良いのだろうか。
以前言ったことと真っ向から矛盾するようだが、俺ならどんな手段を使ってでも阻止してしまいそうだ・・・
「それと、メレオラさんを剣夜様の専属メイドにしても良いと言われましたわ」
「俺専属?」
「お嬢様!?それはつまり、私はもうお払い箱ということですか!?そんな・・・あれだけ献身的に尽くしてきたというのに、あんまりです・・・」
わざとらしく泣き崩れるポーズを取り始めたメレオラさんを見かねたリーニアは慌てた様子で訂正した。
「そういうことではありませんわ。ただ、私が引っ越して剣夜様のお屋敷が一層慌ただしくなってしまうので、メレオラさんの腕を見込んで剣夜様のお手伝いをお願いしたいとのことでしたわ」
「腕を見込んで。そうでしたか・・・わかりました。ウェイン様がそうまでおっしゃるのでしたら、私、メレオラは今より剣夜様にこの身を捧げたいと思います」
そう言って、メレオラさんはスカートの裾をつまみながら優雅にお辞儀をした。
この人も態度がコロコロと変わるものだ。
腕は確かにいいと思うが。
しかし俺専属ではなく、リーニア専属でいいんじゃないか?
これはまさか結納品じゃないだろうな・・・
「シルヴィー様、実は私もオズカール様より今日から剣夜様のお屋敷に仕えるよう言われて参りました」
「ですが、わたくしは・・・」
「わかっています。私は決してシルヴィー様を監視するためではなく、ただ剣夜様の身の回りのお世話をするだけのために参りました。ですので心配なさらないでください」
「ありがとうございます、ナターリャさん。これからもよろしくお願いします」
「剣夜様、至らぬところもございましょうが、どうかよろしくお願いいたします」
そう言って、ナターリャさんも上品にお辞儀をした。
さすがは王族の専属メイドだ。
「俺の方こそ。何かわからないことや不満があったら遠慮なく言ってくれ」
こうして家を構え、二人のメイドを雇うことになった俺は本格的にこの地での居住を開始することとなった。
一家の主人になるという自覚は当分得られそうにもないが、それでも俺は少しずつ大人になろうとしているのだろう。
大切な仲間を守るという責務を全うするため、シルヴィーやリーニアとの関係をはっきりさせるため、俺は少しでも早く覚悟を決める必要がありそうだ。
俺は広々とした空間に佇みながら、シルヴィー、リーニア、サフィーレ、そして赤姫のそれぞれに目を配り、彼女たちの晴れやかな表情を確認した。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
これにて
「第三章 チェンジリング」
完結となります。
引き続き第四章を楽しんでいただければと思いますが、
誠に勝手ながら新作を連載することにしましたので
本作品の投稿頻度は落ちてしまいます。
目安としては二、三日おきくらいにしたいと考えています。
ご迷惑をおかけしますが、今後とも『地獄門使いの異邦人』を楽しんでいってください。




