新たな居場所(四)
「わかりました。手続きの方は私がやっておきます」
「ありがとうございます、お母様。それと、もう一つお願いがありまして・・・」
「なんですか?」
「その・・・わたくしも剣夜さんと一緒にそのお屋敷に住みたいのですが・・・」
「つまり同棲したいということね」
「スーフィール姉様!?」
一体どこから現れたのか、シルヴィーの姉で、サマルティス王国第一王女のスーフィールさんが突然俺たちの会話に割って入ってきた。
相変わらず彼女の瞳は開いているのかどうか判然としないが、口元は綻んでいるように見られる。
サフィーレと似た感じだ。
「同棲ですか・・・」
「ち、違います!同棲というわけではなく、ただ一緒に住むというだけのことで・・・」
その言い訳はまさしく先ほど俺が使って、シルヴィー自身が否定したやつじゃないか。
人は焦るとこうも墓穴を掘るものなんだな。
「別にいいではありませんか、お母様。孫の顔を早く見たいといつも言ってましたし」
「孫!?それはつまり、わたくしと剣夜さんの・・・」
「大丈夫か、シルヴィー?」
「孫・・・」
孫という単語に過剰反応したシルヴィーは何かもごもごと言いはじめ、すっかり自分の世界に入ってしまった。
「私はスーフィール、あなたのことを言ったつもりなのよ」
「私ですか?」
セルフィーラさんの言葉に、スーフィールさんが珍しく虚を疲れたような表情を見せた。
「あなたも今年で二十一。シルヴィーを見習ってちゃんと相手を見つけなさい。聞きましたよ。また婚約の誘いを断ったと。これで何回目ですか・・・」
「剣夜さんがいらっしゃる前で年齢を明かさないでください、お母様。それに、私はちゃんとサマルティス王国第一王女にふさわしい相手を探しているのです」
「そうだとしても早く決めなさい。国王の座を継ぐための準備が遅れてしまいますからね」
なんだか部外者が聞いてはならない親子喧嘩のような言い合いが始まってしまったため、俺は早々に退室することを申し出た。
夢うつつなシルヴィーをつれ、部屋を出た後も中からは落ち着いてはいるものの熱を感じさせるスーフィールさんの抗議をする声が聞こえてきた。
第一王女には第一王女なりの国を背負っていくという気苦労があるのだろう。
王城を後にした俺たちはそのままリーニアたちの待つ屋敷へと向かった。
今日から俺の正式な住まいとなる家だ。
「ただいま」
「ただいま戻りました」
家に帰ってまずすることといえばこれだろう。
自分の居場所を確認できる素晴らしい言葉だ。
「おかえりなさい、剣夜様、シルヴィー」
二階からリーニアの元気な声が聞こえてきた。
掃除は順調に進んでいるようだ。
サフィーレの姿が見えないが、おそらく宿に本を取りに行っているのだろう。
俺も宿泊を取り消すため宿に戻らなくてはならない。
「なんだかいいですね、剣夜さん」
「何がだ?」
「ただいまと言ったらおかえりと返される。これだけのことであっても、わたくしたちが、その・・・家族のようで」
「そうだな」
シルヴィーの感想に共感した俺が率直に返事をすると、なぜかシルヴィーは急に頬を紅潮させていった。
そして何か言いたげな様子を見せた後すぐに二階へと走っていってしまった。
「リーニアの掃除を手伝ってきます!」
「急にどうしたんだ?」
「わからない?」
急に声がしたと思えば、後ろにはサフィーレが立っていた。
彼女の姿は抱える本の山に隠れてしまっているが。
「サフか。手伝うよ。それで、俺が何をわかってないんだ?」
「私が剣夜に言ったことと同じようなことを言ったのよ、あの子は。わざとなのか、それとも偶然なのかは詮索しないでおくけれど」
本の山を半分受け取ると、珍しく真剣な表情をしたサフィーレの顔が目に入った。
「剣夜は早めに答えを出した方がいいわよ」
サフィーレはそう言いながら行ってしまった。
すでに書庫の場所を決めているのだろう。
「さて、俺も掃除の手伝いといくか」
サフィーレが言いたかったことは十二分に理解しているつもりだ。
先延ばしにしていたが、確かにそろそろ決断しなくてはならない。
機会を見つけてシルヴィーとリーニアに俺の結論を告げよう。
それが俺の義務なのだから。




