新たな居場所(三)
「これは・・・大きすぎじゃないか」
「そうですか?これでも、なるべく小さいものを用意してもらったのですが」
王族の価値基準を一般人の世界に持ち込まれても・・・
俺たちが今立っているのは、王城からは少し離れるが、人気も少なく比較的のどかな区画に位置する一軒家の前だ。
ただ、一軒家といっても日本人が普通想像するような高級住宅など比にもならない。
これはまさしく豪邸だ。
「どうしてこんな物件が手に入ったんだ?」
「お父様にお願いしましたところ、ここを紹介されました。どうやら先日追放されたとある貴族のものであったそうです」
「そうですか・・・」
シルヴィーの説明を聞いたリーニアはなんともいえない困惑した表情を浮かべた。
おそらくリーニアにとっては苦い記憶が想起されてしまったのだろう。
しかし国王の力を使うとこんな結果を招くのか。
なんだか不正を行っているような気分になる。
「ここではダメですか?剣夜さんのお気に召さないのであればわたくしも諦めますが」
「気に入らないというわけではないんだが・・・サフはどう思う」
「大きくて困ることはないんじゃないかしら。私は広い書斎があれば文句はないわ」
「これだけ大きいと掃除や手入れが大変だろ」
「それでしたら、執事やメイドを雇えばいいのではないでしょうか」
「そこまでするのもなんだか仰々しいな。俺は貴族でも王族でもないんだし」
「あら。剣夜は将来貴族や王族になるのでしょ」
シルヴィーやリーニアをちらっと見た後、サフィーレはニヤニヤしながらそう言った。
からかわれることにもすっかり慣れてしまった俺はサフィーレの言葉を何とは無しに無視しようとしたが、シルヴィーとリーニアはそうもいかなかった。
何を想像したかはだいたい予想がつくが、二人は顔を真っ赤にしながらうつむいてしまった。
「サフも、ほどほどに頼むぞ」
「私はただ事実を言っているだけのはずだけれど」
それを抑えて欲しいんだよ。事実ほど痛感するものはないからな。
俺は結局この豪邸に住むかどうか決断できずにいたが、とりあえず全員で中を見てみることにした。
追放されたとはいえ貴族は貴族。
家具の多くは引き払われ、ほとんど物が置かれていない状態だが、豪華な内装が目を引いた。
そして家の中にはいくつもの部屋があり、はじめのうちは迷いそうになった。
「うちよりも部屋がたくさんありますわ」
貴族のリーニアですら驚くほどの豪邸なのか。
俺なんかがもらっていいようなものじゃないとますます思えてくる。
「私は気に入ったわ。これならいくらでも本が収納できそうだもの」
愛書家のサフィーレからすれば家はいくら大きくても大きすぎることはないようだ。
彼女には家と書庫の違いがわかっていないような気がする。
「赤姫はどう思う」
「儂はなんでも良いぞ。剣夜の好きなようにするが良い」
「反対する人はいないわけか」
俺も別段反対しているわけではないが、どうもシルヴィーや国王に様々な援助を受けてばかりで申し訳なくなってくる。
俺が難色を示していることに気付いたのか、シルヴィーは気を落としたような弱々しい声で話しかけてきた。
「やはりダメですか・・・」
「シルヴィーが落ち込むことは何もないんだが」
「ですが、剣夜さんを困らせてしまって・・・」
「女の子を泣かせるなんて、お姉さん感心しないわね」
サフィーレは茶々を入れてくるが、確かにシルヴィーは今にも泣きそうなくらい曇った表情をしていた。
俺が間違っているのか・・・
そうだな。シルヴィーがせっかく選んでくれたんだ。
「ありがとうシルヴィー。俺のためにここまでしてくれて。決めたよ。是非ここに住まわせてくれ」
「本当ですか!」
シルヴィーの表情がパッと明るくなった。
「早速お父様に報告してきます」
「俺も行くよ。お礼は言わないとな」
「なら私は早速本を運び入れてもいいかしら」
「私は掃除をしますわ」
サフィーレとリーニアはもうすでに引越し気分のようだ。
本は俺が運んでもいいと言ったが、サフィーレは自分でやりたいということであったため無理強いはしなかった。
「リーニアは無理をしない程度でいいからな。それと、赤姫を使ってやってくれ」
「わかりましたわ。では行きましょ、赤姫ちゃん」
「なぜじゃ!?」
「俺も後で手伝うから。リーニアの言うことを聞くんだぞ」
嫌がる赤姫がリーニアに引っ張られていくのを確認した俺はシルヴィーとともに王城に向かった。
ただ、国王のオズカールさんは忙しいということで、代わりにセルフィーラさんが俺たちを迎えてくれた。
「久しぶりね、シルヴィー。元気にやってますか?」
「はい、お母様。剣夜さんといつも一緒にいることができてとても楽しいです」
「剣夜さんも、シルヴィーの面倒を見てくれてありがとうございます」
「たいしたことはしてないさ」
挨拶や近況報告を済ませた後、シルヴィーは本題に移った。
とは言っても俺があの豪邸に住むことを許可してもらうだけのことで、すぐに終わる・・・と思っていた。




