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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第三章 チェンジリング
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新たな居場所(二)

 突然の出来事にシルヴィーとリーニア、そして赤姫もが驚きの表情を浮かべた。


「これが聖霊ですか・・・」


「人みたいですわ」


「彼女が一応聖霊ということになる。サフィーレの妹でもあるが」


「サフィーレさんの?」


「名前はラパティアっていうの。ティアと呼んであげて」


「どうしてサフィーレさんの妹さんが聖霊なのですか?」


 シルヴィーはもっともな疑問を投げかけた。


 リーニアも興味津々に俺の説明を待っているようだ。


 一方、赤姫はどこか獲物を狙うハンターのような目をしていた。


 その殺気を感じ取ったのか、ラパティアはサフィーレの方に寄っていく。


「ラパティアは敵じゃないぞ、赤姫」


「なんじゃか本能的にのう・・・」


「この人、あなたと同じ感じがする。危険」


 聖霊になると赤姫が普通の人間でないことがわかってしまうのか。


 今の所は俺も赤姫も普通の人間ということで通しておきたいんだが・・・


 俺は適当に誤魔化しつつ本題に入った。


「実は昨日、俺たちは聖霊に襲われたんだ・・・」


 俺は昨日のことをできるだけ細かく話した。


 ただし、アロガーザの正体や、奴と話したことについては伏せておいた。


 あくまで聖霊という存在が実在し、それが俺たちに危害を及ぼす可能性があるということだけを示唆するにとどまった。


「サフィーレさんも聖霊だったんですか・・・」


「サフは半分だけ聖霊なんだよ。聖霊としての特徴はほとんどないと思うんだが・・・」


「そうでもないわよ。私っていろんなことができるじゃない。それも聖霊の力のおかげかもしれないわよ」


 それは聖霊と無関係な気もするが、少しはあるのかもしれない。


 聖獣や聖霊が聖剣に宿ることで持ち主に力を分け与えるのと似たようなものか。


「剣夜様はティアちゃんやティアちゃんのご両親を聖霊にした人をご存知だったのですか?」


「俺もよくは知らないんだ。また詳しいことがわかったら伝えるよ」


 多少歯切れが悪いかもしれないが、中途半端な情報を与えて二人を混乱させるわけにはいかない。


 シルヴィーとリーニアはまだ質問したいことが山ほどあるといった様子だったが、ラパティアを休憩させるという意味合いも込めて一旦この話題から離れた。



「サフィーレさんは今後どうするおつもりなのですか?」


「そうね・・・何か良い仕事がないか王都で探してみるわ。それまでは手持ちのお金でなんとかするしかないわね。剣夜がいい家を見つけてくれれば楽になるのだけれど」


「どういうことですか?」


「俺が一軒家を買おうと思ってるんだが、そこにサフィーレも住むという話だよ。もちろん家賃はもらうが」


「ちょ、ちょっと待ってください、剣夜様。それはつまり、剣夜様とサフィーレさんが、その、ど、同棲をするということですか!?」


「同棲というか、一つの家を共同で使うというだけのことで・・・」


「それを未婚の男女が行えば同棲と言うのですよ、剣夜さん!」


 リーニアとシルヴィーは急に身を乗り出しながら声を荒げた。


 同棲とシェアハウスは違うものだと思うんだが・・・第一、俺とサフィーレはそんな心配するような関係ではない。


 昨夜だって特に何もなかった・・・よな?


「そんなに騒ぐようなことなのか?」


「さあ、どうかしらね」


 サフィーレはサフィーレで相変わらず真意の読めない笑みを浮かべている。


 だが俺にはもうわかる。この笑顔は俺をからかう時の表情だ。


「その提案はどちらがしたのですか?」


「私からよ。一緒に住みましょ、って」


「それって結婚の申し入れじゃないですか!それを剣夜さんは了承されたのですか!?」


「結婚?そういうことではないだろ。そうだろ?」


「・・・」


 どうして目をそらす。


 サフィーレは俺の追求を避けるためか、目線をあらぬ方向に向けた。


「剣夜さん・・・」


「剣夜様・・・」


 シルヴィーとリーニアの冷たい視線が俺を襲い始める。


 どう説明したものかと悩んでいたところ、状況を全く理解できていない様子の赤姫が俺のコートを引っ張った。


「なあ剣夜。「ケッコン」とはなんじゃ?」


「結婚ってのは、そうだな・・・」


「結婚とは愛し合う二人がキスをしたり、その・・・同じベッドで一緒に寝たりすることです!」


 なかなかうまい言葉が見つからなかった俺に助け舟を出してくれたシルヴィーは顔を赤らめながら赤姫に対して力説した。


 その熱の入りように、俺を含め、この場にいる一同があっけにとられてしまった。


「・・・なんだか儂と剣夜の関係みたいじゃのう」


「どういうことですか!?もしかして二人はもうそんな関係に・・・」


 “そんな関係”とは一体どんな関係のことやら。


 確かに赤姫とは一緒に寝ているが、それだけだ。


 俺と赤姫の関係はただの領主と領民の関係でしかない。


「シルヴィーは何か誤解をしてるからな。それと赤姫はもう少し空気を読んでくれ」


「なんじゃ。空気に文字など書いておらんぞ」


「ボケなくていい・・・」


 このままでは話が予想もできないような脱線事故を起こしてしまいそうだということを悟った俺は無理やり話をここで打ち切った。



 結局俺とサフィーレの同居という案がどうなったのかといえば、なぜかシルヴィーとリーニアが住めるスペースがあれば可ということになった。


 ただ、そんな大きい屋敷はそう簡単には見つからないだろうし、金銭的にも難しいと思っていたのだが、優良物件は意外にもすぐに見つかった。

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