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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第三章 チェンジリング
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新たな居場所(一)

「おはよう」


「・・・おはよう」


 目を開けると視界にはサフィーレの笑顔が一番に入り込んできた。


 彼女はしばらく俺の寝ぼけた顔を楽しそうに鑑賞してからようやく顔を遠ざけてくれた。


「気を遣わなくてもよかったのに」


「ソファーで寝たい気分だったんだよ」


「そう」


 サフィーレは何かに納得したかのような返事をしてから台所に向かった。


 どうやら朝食を作っていたところのようだ。


 俺はひとまず顔を洗ってからテーブルに座った。


 サフィーレはパンや野菜の盛り合わせ、ハムエッグを俺の前に並べてくれた。


「材料が少ないからこれだけしか出せないけど」


「十分だよ。ありがとう、サフ」


 俺たちは朝食を取りつつこれからのことについて話し合った。


 両親を失い、帝都にいては今まで以上に迫害されかねないサフィーレは思い切って家を出ることにした。


 当面は王都の宿で暮らすことにしたようだ。


 サフィーレなら仕事の当てはいくらでもあるからお金の心配はないのだろう。



 朝食を終えた俺たちは出発の準備を始めた。


 とは言っても必要なものは王都についてから全て『ゲート』を使って運ぶことができるため、持って行くものは特にない。


「「いってきます」」


 サフィーレとラパティアは一礼してから家を出た。


 この家が今後どうなるのかはわからないが、二人の思い出の場所としてなるべく残っていて欲しいものだ。



「今回は俺もついて行くからな」


「そうね。せっかくだからお言葉に甘えようかしら」


「くっつかないで」


 『ゲート』を使えば俺は一瞬で王都に戻ることができるが、今回ばかりはサフィーレの身体を案じて彼女とともに黒馬に乗ることにした。


 終始ラパティアは文句を言い続けたが、内心では姉と離れ離れにならなくてよかったと思っている節がある。


 まだ彼女の思考は俺にダダ漏れだ。



 こうして俺たちは五時間ほどかけて無事王都に到着した。


 サフィーレはまず宿での宿泊期間の延長を申請し、早速部屋の片付けを始めた。


 彼女の部屋にはいたるところに本が積まれているため横になる場所が全くない。


 俺も手伝ってどうにかベッドの上だけでも綺麗にした。


「しかしこれだと他のものが置けないな」


「もういっそのこと一軒家を買っちゃおうかしら」


「そんな金があるのか?」


「私は本に費やしてほとんどないけれど、剣夜にならあるんじゃない?」


「どうして俺が出すんだ」


 まさか脅迫なのか。サフィーレならやりかねない。


「一緒に住みましょうよ。そっちの方が効率的だわ。もちろん半分の額はすぐ後で返すから」


 なんとも大胆な提案だが、確かにサフィーレの言う通り一軒家を買った方が長い目で見た時かなりお得だ。


 一応俺の金庫には小さな家くらいなら余裕で買えるだけの金が入っている。


 それに、サフィーレとラパティアもゆっくり二人の時間を作ることができるだろう。


 もしかして特に断る理由もないのか?


「考えておくよ」


「ありがとう」


 返事は保留にしつつも、俺は前向きにサフィーレの提案を検討した。


 どこかにいい物件があればすぐに買ってもいいだろう。



 部屋の掃除がひと段落したところで俺はサフィーレを連れ、シルヴィーたちが待つ研究棟へ向かった。


 もちろん背中の聖剣にはラパティアが宿っている。


 ただ、その状態では俺としか話すことができないためなんども外に出たいと言って聞かなかった。


 とりあえず屋外にいる時は遠慮してもらうというところで妥協した。


「おかえりなさい、剣夜様」


「お疲れさまでした」


「ただいま、リーニア、シルヴィー」


「儂もいるんじゃが・・・」


「わかってるよ。待たせて悪かったな」


 俺は珍しく浮かない表情を見せる赤姫の頭を軽く撫でた。


 昨夜は一緒に寝てやれなかったからな。きっと寂しかったのだろう。


 俺は赤姫の寂しさを克服させるために存在するんだ。もうこんな思いはさせてはならいな。


 俺とサフィーレが席につくと、リーニアは温かいお茶の入ったカップを渡してくれた。


 ほのかな甘い香りは気持ちを落ち着けてくれる効果があるそうだ。


 俺たちは時間をかけてその香りや風味を存分に味わった後でようやく昨日あったことを説明することにした。


 話の切り出し方はこうだ。


「二人は聖霊の存在を信じるか?」


 質問の真意をはかりかねたシルヴィーとリーニアは考え込むような様子を見せたが、すぐに答えをくれた。


「わたくしは信じます。確かにこの目で直接見たことがあるわけではありませんが、広く文献を読み込んでいけば聖霊が存在する可能性を否定することができませんから」


「私はやっぱり直接見ないことには信じられませんわ」


 二人は異なる意見を持っていたが、概ね聖霊に対して極端な否定的感情や意見を持っているわけではなさそうだ。


 これなら・・・


「この場にいる全員が信頼に足る人物だ。だから安心して出てきていいぞ」


「・・・わかった」


 ラパティアは多少ためらいながらも俺の言葉通りテーブルの上に姿を現した。

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