チェンジリング(九)
俺が戻ってくるまでの間、サフィーレはベッドの上で横になりながら聖霊となったラパティアといろいろなことを話していたようだ。
心身ともに回復してきたのか、顔色も十分に良くなっている。
「気分はどうだ。何か欲しいものでもあれば遠慮なく言っていいぞ」
「そういうのは年上である私の役目のような気もするけれど、まあいいわ。そうね・・・欲しいものというか、したいことならあるわね」
「なんだ」
「お風呂に入りたいわ」
「汚れならついてないはずだが・・・」
「なんだかお湯にゆったりと浸かりたい気分なのよ」
そういうものか。
サフィーレは俺の顔を見つめながらウキウキとした表情を見せていた。
一方、聖霊になってもなおラパティアは俺のことを毛嫌いしているようで、わざとらしく距離をおきながら警戒心を一向に解いてくれない。
「今お姉ちゃんで変なこと想像した。変態」
「いきなり何を言い出すかと思えば」
「別にいいじゃないそれくらい。それよりどうかしら。お風呂まで運んでくれればいいのだけれど」
「それだけのことなら構わないんだが・・・」
「ついでに一緒に入る?」
サフィーレはいつものように不敵な笑みを浮かべながら俺をからかい始めた。
元気になった証拠なのかもしれないが、なんとも反応しづらい。
「ダメ。あなたはお姉ちゃんに触るの禁止」
「わかったよ」
「あら残念ね。ご褒美としてどうかと思ったのだけれど」
俺のことを犬か何かだと思っているのだろうか。
結局お風呂に入ることは諦めてもらったが、代わりに俺は暖かい夕食を用意し、まだ身体を思うように動かせないと訴えるサフィーレに食べさせてやった。
その間ラパティアは俺のことを睨みっぱなしだったが。
「夕食もいただいたことだし、そろそろお話をしましょ」
「そうなるのか・・・」
「当たり前よ。知りたいことがありすぎて、このままじゃ一生起き上がれないわ」
それは大変な体質だな・・・
サフィーレは狙った獲物を決して逃さない猛禽のごとく鋭い眼光をこちらに向け続ける。
「それに、そろそろ貸した分を返してもらいたいわね」
「それを今言うのか・・・どこから話したものか」
「まずは剣夜の正体からなんてどうかしら」
「俺は一般人のつもりなんだが・・・」
「誤魔化すつもり?」
「こんな人に聞かなくても私が答える」
「ラパティアはどこまでのことを知ってるんだ?」
「・・・」
「教えて、ティア」
「お姉ちゃんが言うなら・・・」
恩着せがましく言うつもりはないが、俺の魔力のおかげで存在できることをわかっているのか?
せめて反応くらいはしてもらいたいものだ。
「私がこんな姿になった時、一度にいろんなことが頭の中に入ってきた」
「ならラパティアは聖霊が知っていたことはほぼ全て知っているのか?」
「そうなの?」
「うん」
「となると、俺も聞きたいことがあるな」
「私はお姉ちゃんの質問にしか答えない」
「なら教えて、ティア。あなたが知ったこと、知ってしまったことを」
ラパティアは不安げな表情を浮かべつつサフィーレの胸元に降り立った。
輪郭が薄れていることに気がついた俺がすかさず魔力を与えると、ラパティアはどこか戸惑ったような表情をこちらに向けた後、再びサフィーレの方に向き直った。
「お礼を言ったら」
「別に頼んだわけじゃ・・・」
「まあ、気にしなくていいさ。俺がしたくてしてることだからな」
「やっぱり幼女に優しいのね」
「変態」
「感謝の言葉はいいから、罵倒もやめないか・・・」
ちょっとした雑談を挟みながらも、俺たちはいよいよ本題に踏み込み始めた。
先当たって俺が知りたいことは聖霊や『天国領』の住人が一体何をしようとしているのかだ。
聖霊が帝都で行ったことは明らかにやりすぎだ。
他の場所でも行われているのだとしたらいち早く止めなければならない。
「聖霊は魔力量が多くて強い肉体を持った子供を探してたみたい」
「どうして子供なのかはわかるか?」
「・・・子供なら自分たちの操り人形にしやすい、って」
「そういうことか」
「どういうこと?」
「それは・・・」
ラパティアがかなり深いところまで知っている以上、俺が隠していても仕方がないか。
結局俺は聖霊や『天国領』の存在を中心に、今必要になる情報を二人に教えた。
俺もあまり詳しいことは知らないためラパティアの持つ情報と重ね合わせながらその整合性を確認した。




