チェンジリング(八)
サフィーレの空色に染まった髪はどんな絹織物よりもの滑らかで透き通っている。
本当に人外の何かではないのかと思えるほどに。それはまさに森の悪魔であったり、聖霊であったりする。
サフィーレは自分の容姿が他の家族と全く似ていない点や、髪が異様である点から本当の家族ではないのだと疑心暗鬼に陥っていたようだ。
自分は取り替え子なのではないかと・・・
ゆえに家族からは距離を置いていた。いや、家族ではない他人から。
親にも街の人にも疎まれてきたサフィーレは孤独だったのだ。
不幸中の幸いなことに、彼女は強かった。どんなことにも動じない忍耐力を持っていた。
それに、彼女は知識を追い求めるだけで幸せそうだ。たとえ世間から切り離されようとも生きていけるようだった。
ただ、それが聖霊の影響を受けている結果だとしたらどれだけ悲しいことだろう・・・
そんな彼女にもたった一人の味方がいた。
妹のラパティアだ。
彼女は心から姉を愛していた。
もしかしたらその愛があったからこそ、サフィーレはサフィーレであり続けることができたのかもしれない。
そして今、彼女は自身の出生の真実を知った。
聖霊となったラパティアはアロガーザの双剣に封じられていた時、他の聖霊と記憶を共有したのだと言う。
膨大な情報量の中、サフィーレがなぜ聖霊もどきなどという存在であるのかを突き止めたようだ。
「お姉ちゃんは私と同じようにママのお腹の中から生まれたの」
「ならなぜアロガーザはサフを聖霊のなり損ないと言ったんだ」
「・・・ママのお腹に初めからいた赤ちゃんを聖霊たちが連れていって、代わりに聖霊の力で作った新しい赤ちゃんをママのお腹の中にいれた、って」
「つまりサフは胎児の状態からではあるがちゃんと母親の血を受け取っていたということか」
「・・・そう。私にも本物の家族がいたのね」
あまりにも突飛な話だと思ったが、サフィーレはすぐに納得したようだ。
そして彼女は笑顔を取り戻し、再びラパティアを抱きしめた。
「しかし聖霊は一体どこまで非道なんだ。胎児をさらってどうする」
「おそらくその胎児がとてつもない心と身体を持っていたのでしょう」
だとしても、もう少し大人になってからでもいいじゃないか。
胎児を不老不死にして一体どんなメリットがあるというんだ。
まさか一から育てるとでもいうのだろうか・・・
「さて、そろそろどこか落ち着ける場所に移動するか」
「そうね。話したいことはいっぱいあるけれど、私もさすがに限界がきたみたい。でも、ティアはどうするの?」
「私は・・・」
「ひとまずサフの肩に乗ってるといい。魔力が足りなくなったら俺が与えるから」
「・・・あなたの力を借りるなんて生理的に受け入れられない」
「文句を言ってはダメよ、ティア」
聖霊になっても本当にブレないな・・・
俺たちはサフィーレの家で一泊することになった。
帝都は依然として殺伐とした状態であったため、人目を避けつつ家へたどり着くのにかなり苦労した。
おかえりを言ってくれる人がもういないことを知りつつも、しんと静まり返った家でサフィーレとラパティアはただいまと明るい声で言った。
俺はひとまずサフィーレをベッドに寝かせた後、台所で食べ物を探した。
「食べられる元気があったら水だけでも飲んだほうがいい。ここにおいておくからな」
「ありがとう。剣夜も休んでちょうだい。あなたの方がよっぽど疲れているように見えるわ」
「俺は大丈夫だよ。それより今から少し席をはずすが、すぐ戻ってくるから安心してくれ」
二人にそう告げてから俺は部屋を出た。
そして『ゲート』を出現させ、赤姫の元に向かった。
早く帰るつもりだったんだが、これは相当怒られるだろうな・・・
「わたくしも何か起きるんじゃないかとは思っていました。ですが、こうして剣夜さんの無事なお顔が見られてホッとしました」
研究棟でちょうどお茶をしていたシルヴィーと赤姫の元に向かった俺は真っ先にそう言われた。
呆れたような表情を見せるシルヴィーだが、俺にお茶の入ったコップを渡してくれた。
「心配させてすまなかった」
「儂は心配しておらんかったぞ。なにせ剣夜はこの儂のりょうみ・・・うーん!」
「事情はまた明日詳しく話すよ」
「・・・わかりました。わたくしは剣夜さんを信じています」
深く追求しないでくれるシルヴィーに感謝しつつ、俺は再び『ゲート』を出現させ、サフィーレの元に戻った。
今さらではあるのだが、戻りたい場所に黒鳥をとどまらせておけば『ゲート』をつなぐことができるのだから、別に赤姫を連れていっても特に問題はなかったりする。
だが赤姫は気付いてなさそうだし、今言っても怒るか拗ねるかのどちらかだろう・・・




