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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第三章 チェンジリング
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チェンジリング(七)

「三人を戻すんだ」


「それは無理な話だな。一度聖霊になったものが人間に戻れるはずがない」


 双剣が再び刀身を伸ばしながら強く光り出すと、敵は俺に向かって突進してきた。


「『雪隠れ』」


「それはもう見極めた」


 真正面に向かって放った強烈な吹雪を敵は横にかわし、そのまま連続で切りつけてくる。


 だが先ほどまでの勢いはない。


「もう限界のようだな」


「吾輩が人間なぞに負けるはずがない」


「・・・お前は人間を侮りすぎだ」


 空中を飛び回りながら俺の攻撃をかわす敵の動きを止めるべく、俺は『テクトニズム』を使った。


「同じことを」


 敵が地面から伸びる土の槍を次々と切り裂いていく中、動きが鈍った瞬間を俺は確実に捉えた。


「隙だらけだぞ」


 大きく開いた背中を俺はなんのためらいもなくえぐる。


「これで終わりだ」


 俺は最後にバランスを崩して地面に落ちた敵の背中に聖剣を深く突き刺した。


「ガハッ」


 不老不死だろうと関係ない。


 これでこいつはもう何もできやしない。


「お前の負けだ」


 もはや微動だにできないことを悟ったアロガーザは抵抗することなく双剣を手放した。


 すると双剣は再び強い光を放った。


 まだ何かあるのかと身構えたが、その光はほんのわずかな間、天に向かってまっすぐ伸びた後すぐに輝きを失った。


「ふん。そのようだな・・・まあ良いわ。吾輩は十分に楽しめた。感謝しておくとしよう」


「楽しめた、だと。ふざけてるのか。お前は何がしたかったんだ」


 負けを認めているにも関わらず、アロガーザの憎たらしいニヤニヤとした表情は絶えない。


「何も。強いて言うなら、生きるか死ぬかの瀬戸際を味わってみたかっただけのこと。要するに、ただの暇つぶしだ」


「それがどうして子供達の誘拐につながる」


「・・・神を殺す。実に楽しそうだろ」


「何を言ってる」


 口角を最大限まで上げるアロガーザの身体は急に溶け始めた。


「我も始めて見ますが、これが『天国領』の住人が迎える消滅のようです」


「おい。まだ聞きたいことが・・・」


 しかし一瞬にして、俺の声を聞くための耳はなくなり、顔、手足、頭、の順に消滅していき、ついにアロガーザの姿はチリ一つ残さずに消え失せた。


 その場には輝きを失った双剣だけが残されていた。


「あいつが何を言いたかったのかわかったか、白丸」


「そうですね・・・確かに『天国領』ではすることがなく、暇をもてあそぶものが多いです。そのため、中には刺激を求めて狂気の沙汰に及ぶものもいるそうです」


 それで子供達を誘拐したり、挙げ句の果てには神を殺すなんてことまで言い始めたりするのか。


 そもそも神とはなんだ。


 てっきり『天国領』の住人こそが神のような存在だと思っていたのだが・・・


 そんなことより、俺はとりあえず双剣を拾い上げ、サフィーレの元に向かった。


「・・・大丈夫か、サフ」


「そう、ね・・・」


 俺は回復魔法と『ピュリフィケーション』でサフィーレの身体を癒した。


 しかし彼女の目は黒い霧がかかったかのように鬱々としたままだった。


「私はいいから。あなたの方がよっぽどボロボロじゃない」


 声に全く元気がない。


 こんなにも憔悴しきったサフィーレを想像したことがない。


「・・・すまなかった。俺がいながら、サフの家族を守れなかった」


「剣夜の、せいじゃないわ。全て私が元凶となって起きてしまったことなのだから・・・」


 サフィーレの目から流れてきた一滴の涙を直視することができず、視線を落としたその時、


「剣夜殿、聖霊です」


「敵の残党か」


「いえ、戦う意思はないようですが・・・」


 白丸の言う通り、天からゆっくりと降りてきた小さな光の球には戦う意思も力も残されていないようだ。


 今にも消えてしまいそうだが、それは精一杯の力を振り絞りやっとのことでサフィーレの肩に止まった。


「これは・・・わかるか、白丸」


「何か言いたがっているようですが、魔力が少なすぎて言葉にできていませぬ。剣夜殿が少しばかり魔力を与えてみるのが良いかと」


 それでいきなり暴れ出したらどうするんだ・・・


 しかしこの光球から敵意のようなものは感じられないため、最低限の魔力を与えてやることにした。


 俺が手をかざすと、光の球は次第に輝きを増していった。


「・・・・・・お姉ちゃん」


「もしかして、ラパティアなのか」


「ティア!?」


 妹の名前に反応してハッと顔をあげたサフィーレは自分の肩にとまる光の球を見て驚きの表情を見せた。


「ティア、なの?」


「もう少し魔力を入れてみるか」


 俺は再び手をかざして魔力を与えた。


 すると光の球だったものは次第に形を変えていき、ついに15cmほどの人間の姿に変容した。


「ティア!」


「お姉ちゃん」


 サフィーレが伸ばした両手の中に飛び込んだラパティアは今まで一度も見せたことがないようなはち切れんばかりの笑顔を見せた。


 それにつられるようにしてサフィーレの表情も柔らかくなっていった。


「こんなことがあるのか」


「聖剣から解放された聖霊がどこへ行こうと自由ですからね」


「なるほど」


 しばらくの間、無言のまま見つめ合っていた二人はやっと気持ちの整理がついたのか、ゆっくりと言葉を漏らし始めた。


「・・・お父さんとお母さんは」


「パパとママは私をかばって先に消えちゃった・・・」


「そう・・・」


「それでね。消える前にパパとママ、お姉ちゃんに謝ってた。突き放すようなことをしてきてごめん、って」


「・・・」


 ラパティアの言葉を聞いてサフィーレは再びうつむいてしまった。


 しかし今度は暗い表情になるというわけではなく、むしろ何かが吹っ切れたような、そんな清々しい表情だった。


「それと、これは私がこんな姿になった時に急に頭の中に浮かんできたことなんだけど、お姉ちゃんは私の本当のお姉ちゃんなんだよ」


「・・・どういうこと?」

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