チェンジリング(六)
「最大火力の『雪隠れ』に幻影を混じらせるんだ」
「わかりました」
大きく振った聖剣から巻き起こった強烈な吹雪が敵を拘束する。
俺は吹雪の勢いを利用しながら跳び上がり、敵が俺の幻影をなぎ払った後にすかさず聖剣を振り下ろした。
ギンッ。
聖剣を握る俺の手が鈍く振動する。
見切られたのか・・・
「浅はかな攻撃だ。実に人間らしい」
やはり空中戦では圧倒的に分が悪い。
吹雪が止むと、敵はお返しとばかりに刀身の伸びた双剣で交互に切りつけてきた。
「グッ」
なんとか直撃は防いだものの、双剣の重い連撃は俺を地面に吹き飛ばした。
さらに敵は間髪入れずに畳み掛けてくる。
「もう万策尽きたのか」
「・・・」
段々と速度が上昇していく攻撃を受け止めるだけでも一苦労だというのに、どうも双剣の刀身が少しずつ長く重いものに変わっていくのが一太刀ごとに感じられる。
あれだけの量の聖霊を吸収していたことから考えると、まだかなりの余力を残しているのだろう。
これは早々に決着をつけなければ・・・
「『輝け赤色、シンティラ』」
「遅いな」
ことごとくかわされながらも、俺は魔法を放ち続けた。
そして敵が上空で双剣を構え直そうとしたその瞬間、俺は再び跳び上がった。
「同じことを。そちも学ぶが・・・なっ」
敵の背後に出現した大きな壁。
空を自在に移動できるこいつは俺の攻撃を受け止めずとも後方に少し移動すれだけでいともたやすくかわすことができる。
だから俺は『テクトニズム』を使い、敵の退路を絶った。
「もらった」
一瞬の隙を見逃すことなく俺は渾身の一撃を食らわせた。
敵も直撃は防いだが、地面に勢いよく叩きつけられた。
「形勢逆転だな」
だが俺は決して気を緩めない。
下に向かって土の壁を蹴ることで一気に加速した。
「ふん。馬鹿正直に突進したところでかわすことなど造作も・・・これは」
「終わりだ」
手足に巻きついたつる植物のせいで動きを止められた敵の首元めがけて聖剣を振り切った。
間違いなく捉えた。
「やったか」
「残念ですが『天国領』の住人は聖霊や聖獣の魔力を消費することで身体の欠損を修復することが可能です」
首が飛んだはずの敵は何事もなかったかのように立ち上がった。
そして俺がまばたきをする間にもすでに憎たらしい笑みを浮かべる顔面が修復されていた。
「これが不老不死というやつか。だが、魔力さえ削り切ればいいわけだろ」
俺は敵に休む暇を与えることなく『エクスプロージョン』を放った。
壮大な爆発によって辺りの地形は原形をとどめることなく無残な荒野と化していた。
事後処理が面倒そうだ。
「・・・その無尽蔵な魔力。本当にそちは何者だ」
アロガーザは明らかに疲弊している様子だ。
尋問でもしてやりたいところだが、こいつは油断ならない。
惜しくはあるが身の安全が第一だな。
「余裕ぶった態度はどこへ行った。悪いがお前にはここで消滅してもらう」
「・・・なめるなよ」
俺がとどめの一撃を喰らわせようと聖文を唱え始めると、敵の双剣が今まで以上の輝きを放った。
「これは」
「きゃあ」
急に少女の悲鳴が聞こえたと思い振り返ると、ラパティアとサフィーレの身体が双剣の放つ光に呼応するかのように光り輝いていた。
「何をした」
「人間を強制的に聖霊化し、吾輩の糧とするのだ」
まずい。
俺は光線による攻撃を止めるべく『雪隠れ』によるドーム状の吹雪で包囲しようとしたが、敵は最後の力を振り絞るかのように上昇しながらかわした。
「無駄だ」
「なら・・・」
せめてサフィーレとラパティアを『雪隠れ』によって覆い隠そうと二人の方に目を向けたのだが・・・すでにラパティアの身体の輪郭がほとんど失われていた。
「お姉ちゃん。私、もう・・・」
「「サフィーレ、ラパティア!」」
突如男女の叫び声がしたと思えば、サフィーレとラパティアの両親が二人の前に立ちふさがっていた。
しかし双剣の光線をまともに受けた二人の身体はたちまち形を崩していく。
「あなただけでも、逃げなさい・・・サフ」
「どうして・・・」
「・・・我が子を守るのに、理由なんてない。お前は、母さんが腹を痛めてまで産んだ大切な、家族なんだ」
「わざわざ餌が増えるとは僥倖」
『雪隠れ』が届いた時にはラパティアと両親の身体は完全に失われ、代わりに光り輝く球のようなものだけが残されていた。
サフィーレは苦しそうにしがらもなんとかことなきを得たようだ。
「ふん。三つか。もどきへの効果は薄いということか。まあ良い」
そう言って、アロガーザが双剣を天高く掲げると、三つの小球が吸い取られるようにして双剣の中へと消えていった。
「ティア・・・お父さん、お母さん」




