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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第三章 チェンジリング
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チェンジリング(五)

「これから・・・どうするのかしら」


 背中にしがみつくサフィーレは心配そうな顔を俺の肩の上にのせる。


「頃合いを見て脱出する」


 しかし時が経つにつれて聖霊の数は増していき、むしろ俺たちの退路は次第に断たれていく。


 思い切って逃げたいところだが、ラパティアの足でこの群勢から逃げのびることは難しいだろう。


 となると、黒馬で一気に飛翔するか・・・


「そちが吾輩の計画を邪魔するという『地獄領』の者か」


「これは・・・」


 聖霊の猛攻が止んだと思えば、耳ではなく脳内に直接語りかけてくるようなその言葉の一言一言が俺を震撼させた。


 妙な圧迫感の正体はこれだったのか。


「誰だ」


「吾輩の言葉に応答するか。ただ者でないのは確かのようだ」


「・・・どうしたの剣夜?」


「いや、なんでもない」


 サフィーレの顔色は悪くなるばかりで、声も弱々しくなっている。


 早くこの場を離れなければ。


 聖霊が止まっている今がチャンスだ。


 俺はすぐに『ゲート』を出現させ、黒馬を呼び出そうとした・・・のだが、


「なにっ」


 俺たちを守っていた『雪隠れ』の防壁がいきなり消滅した、いや、切り裂かれた。


「これは・・・聖剣の力です」


「まずい」


 邪魔がなくなったのをいいことに、聖霊たちは再び襲いかかってきた。


「ラパティア、俺に捕まるんだ」


「・・・わかった」


 さすがにこの状況を理解しているようで、いつもなら抵抗するはずのラパティアが素直に俺の腰に捕まった。


 それを確認した俺は勢いよく後方へと跳んだ。


 だが白い霧のせいなのか、森の中から出られるような気がしない。


 完全に閉じ込められてしまったようだ。


 逃げるのが無理なら戦うしかないのか・・・


「サフを見ておいてくれ」


「あなたはどうするの」


「俺は少し掃除をしてくる」


 苦しそうにするサフィーレをラパティアに任せ、俺は今なおこちらに向かってくる聖霊と対峙した。


「さあ・・・始めようか・・・」


 手始めに俺は聖剣を抜き取り、聖霊めがけて大きく振った。


 『雪隠れ』によって巻き起こった強烈な吹雪があたりの白い霧もろとも聖霊の群勢を飲み込んでいく。


「あれは・・・」


 すると、少しだけ晴れ渡った視界に人のような影が映った。


 それは決して人間とは認められないような煌々とした輝きを放ちながら俺を見下ろしている。


「変わった力を使うな。地獄のものとは思えぬが、何者だ」


「人にものを尋ねるなら、まず自分から答えたらどうだ」


「答えるとは」


「聞いたはずだ。「誰だ」と」


「ふむ。ではその不可思議な力に免じて答えてやろう。吾輩は『天国領』より舞い降りし「傲骨のアロガーザ」。さあ答えてやったぞ。そちも名乗るが良い」


「俺は橘剣夜。聞きたいことは山ほどあるが、その前に俺たちの安全を確保させてもらう」


 俺はいまだ襲いかかろうとする聖霊を薙ぎ払いながら、空に浮かぶ的にどう近付こうか模索した。


 赤姫はなかなか空の飛び方を教えてくれなかったからな。こんな時に苦労するんだ。


「せっかく吸収した魔力が散らされてはたまらぬ。さて、吾輩が使うとするか」


 そう言って、アロガーザは何もない空間から一対の双剣を取り出した。


 その双剣が光り始めたと思えば、聖霊たちがみるみる吸収されていく。


「あれが聖剣なのか」


「そのようです。聖霊の力を糧にして強化されていきます。気をつけてください」


 白丸は『天国領』の住人相手でも手を抜くことはなさそうだ。


 裏切るという可能性は捨てきれないが・・・


「お姉ちゃん」


「どうした」


「お姉ちゃんが光って・・・」


 ラパティアの言う通り、サフィーレの全身が眩しくなるほどの光に包まれていた。


 これは一体・・・


「それも聖霊かと思ったが、聖霊になり損ねたただの人間もどきか」


「どういうことだ。お前がサフの何を知っている」


「吾輩に答える義務はないな」


 双剣を構えるアロガーザから計り知れないほどの殺気が放たれた。


 これは・・・先手必勝だ。


「『輝け赤色、エクスプロージョン』」


 俺が使う中で最大級の攻撃魔法は空中で平然としている敵めがけて一直線に放たれた。


 見事命中し、壮大な爆発を見せた俺の魔法は爆風によってあたりの木々を薙ぎ払っていく。


 俺は『雪隠れ』で後ろのラパティアたちを覆いながら敵の姿を探したが・・・


「まさか・・・無傷なのか」


「この破壊力。地獄の力だけでは説明ができぬ。しっかりと吐いてもらおうか」


 黒煙の中から勢いよく飛び出してきた敵は双剣による二連撃を放ってきた。


 あまりの早さに戸惑いながらも、俺はそれらをなんとかいなした。


 だが敵の攻撃は止まらない。


 鳴り響く金属音。空間さえ切り裂いてしまいそうな斬撃。


 敵は飛べることを最大限生かしながら俺の背後、背後へと回り込んでくる。


「どうした。もう終わりか」


「どうかな」


 確かにこの速度は厄介だが、魔法を使ってくる様子がないため俺は余力を十分に残していた。


「なぜ『天国領』の住人が人間界にいる。聖霊以外が降りてくるのは異常なんじゃないのか」


「それはそちも同じこと」


 一旦距離をとり、空中で停止したアロガーザが双剣をクロスさせた次の瞬間、双剣の刀身が青く輝きながら二倍ほどの長さに伸びた。


 あれが聖霊による力なのか・・・

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