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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第三章 チェンジリング
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チェンジリング(四)

「サフが子供達を攫ったという話はどこから出てきたんだ?」


「お姉ちゃんは攫ってない」


「それはわかってるんだが・・・」


「あの人達は私が森に住む悪魔の一種だと思ってるのよ」


「どうして悪魔なんだ?」


「この辺りでは昔から悪魔は子供や女性を攫っていくと言われているの。そしてその悪魔の特徴が私同様、青く透き通った髪の毛というわけ」


 そういった伝承は地球でも聞くが、普通ならただの迷信として一笑にふすものだろう。


 だがここではそうも言ってられない。


 魔法がありというこの世界では悪魔みたいな存在だっていてもおかしくない。


 そもそも地獄がありな時点で悪魔を否定しようがない。


 それに最近、よく似た話を聞いたことがあるような気がするんだが・・・


「剣夜殿、また現れました。聖霊です」


「こんな場所にまで出てくるのか」


 そうだ。聖霊は人間を『天国領』に連れていく。


 子供達の失踪、そして、聖霊の登場。


 この二つの間には大きな関係があってしかるべきだろう。


「お姉ちゃん」


「・・・大丈夫か、サフ」


 急に顔色を悪くし始めたサフィーレは地面に膝をついた。


 これは以前リーニアが見せた症状に似ている。


 だがラパティアの方に変化は見られない。


「これは聖霊の精神操作なのか?」


「いえ。まだそのような術が使われた形跡はありません」


 いまだ聖霊の姿は見られないが、どこからともなくやってくる嫌な圧迫感が俺の動悸を速める。


 何か危険なものが近付いてきているのは確かだ。


「見つけたぞ!先ほどはよくもやってくれたな。だが次はないぞ」


 土の檻からどうにか脱出したのだろう。


 ローブの男がいつの間にか俺たちの後ろに陣取っていた。


 懲りないな・・・


 俺が再び『テクトニズム』で閉じ込めてやろうと聖文を唱え始めると、男が握る杖からすでに魔法が放たれていた。


 見た目的には中級の赤色魔法だろうか。


「『雪隠れ』」


 聖文を唱えている暇がないと判断した俺は吹雪による防壁を張った。


 以前落下の衝撃を軽減するための方策として白丸に教えてもらった方法だ。


 俺を中心としてドーム状に展開された吹雪は男の魔法を一瞬にしてかき消した。


「なんだその魔法は・・・」


「お返しだ。『輝け赤色、シンティラ』」


「ぎゃあっ!」


 大きな音をたてながら黒っぽい火花が男の足に命中した。


 俺は男が崩れている隙に杖を取り上げ、『テクトニズム』で作った簡易的な牢屋のなかにぶち込んでやった。


「出せ!」


「剣夜もなかなかひどいことをするわね。あれでも聖教会公認の魔術士なのよ。あとでどんな仕返しをされるか」


「その時はこれ以上のことになるだけさ。それより、大丈夫か?」


 苦笑いを浮かべながらも、依然として苦しそうにするサフィーレに気休め程度の回復魔法をかけてやった。


 シルヴィーに教えてもらった『レクーペロ』という初級の黄色魔法は俺が使うとかえって傷を悪化させてしまうのではないかと思えるほどの黒いオーラを放つのだが、一応害になる効果はないはずだ。


「温かくて気持ちいわ。ありがとう」


「お姉ちゃんに変なことしたら許さない」


 この妹もぶれないな・・・


 サフィーレの体調がなかなか全快しないことに疑問を抱いていると、先ほどまで感じていた胸を締め付けるような圧迫感がさらに増した。


「ついに姿を現したようです」


 白丸に言われて森の奥に目を向けると、音も立てずに姿を現したのはなんと裸の少年少女だった。


「あれが聖霊?人の形をしてないか・・・」


 しかし身体が透けているため、本物の人間でないことはすぐにわかった。


「どうしてあんな姿に」


「おそらく人間からかなりの量の魔力を吸い上げたのでしょう」


 まさか、魔力を吸い上げるために子供達をさらったっていうのか?


「リリー」


「お、おい」


 急に誰かの名前を呼んだと思えば、ラパティアは聖霊の群勢に向かって走り出した。


 俺はすかさず彼女の腕をとって止めにかかった。


「はなして」


「どうしたんだ急に」


「リリーがあそこにいるの。攫われたと思っていたけど、帰ってきた」


 やはり、あれが帝都で攫われたという子供達か。


 だとしたら・・・彼らの命はもうないのかもしれない。


 あの姿はどう見ても、赤姫のように魔力を大量に吸われて縮んだというものでなく、完全に消滅したという感じだ。


 つまり、あれは幽霊ということになるのか・・・


「悪いが離すことはできない。あの子たちはもう君が知る友達じゃない」


「嘘。あそこにリリーがいるの」


「落ち着きなさいティア。あれは人間ではないわ」


「悪魔だ・・・早くここから出せ!襲われる!」


 男は格子を握りながらめちゃくちゃに叫んでいた。


 確かに俺も嫌な感じがする。


 森の中には白い霧が次第に立ち込め始め、視界が悪くなっていく。


 白丸が使う『雪隠れ』に似た感じだ。


「これは聖霊の術です。早く脱出しないと、この森から抜け出せなくなります」


「立てるか、サフ」


「ごめんなさい。私はいいからティアだけでも連れて逃げて」


「お姉ちゃんも一緒」


「その通りだ。俺がおぶっていく」


「来ました!」


「『雪隠れ』だ」


 子供の姿をした聖霊たちが俺たちめがけて急に走り出した。


 しかし骨格や表情は崩れに崩れ、もはや人間の形をなしていない。


 『雪隠れ』による防壁に構うことなく突っ込んできたそれらは次々と飛散していった。


「こっちに来るな!」


 聖霊は俺たちだけでなく、魔術士の男にも襲いかかった。


 そして聖霊の群勢に覆われたと思えば、檻の中に人の影は残っていなかった。


 代わりに聖霊の姿が心なしか大きくなったような気がする。


 やはり、魔力が目当てというわけか。

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