チェンジリング(三)
「ここではなんだから、一旦家に帰りましょ」
「あなたは来ないで」
「俺の潔白は証明されただろ」
「私を路地裏に連れ込んだくせに」
それはいきなり俺を痴漢に仕立て上げようとしたからって、どうして俺がこんな言い訳みたいなことを・・・
路地裏から大通りに出た俺たちだったが、相変わらずの人気のなさにサフィーレも違和感を覚えたようだ。
「人がいないわね。何があったの、ティア?」
「それが・・・」
「危ない」
サフィーレとラパティアの後ろをついていく俺は二人めがけて投げられた小石を防いだ。
そして周囲から悪意のこもった視線が感じられる。
「誰だ・・・」
聞かずとも犯人はわかっていたが、その人物はそそくさとその場を去っていったため、特に追い立てることはしなかった。
「剣夜ありがとう。でもいいのよ、そんなことをしなくても」
「こんなことをされる覚えがあるのか?」
「昔からちょくちょくね。この髪のこともあるから、受け入れがたい人がいるのよ」
「お姉ちゃんにひどいことする奴は私が許さない」
「ありがとう」
サフィーレは浮かない表情のままラパティアの頭を撫でた。
家族から愛してもらえていないみたいなことを言っていたが、こんなにも姉思いの妹がいるじゃないか。
妹は大切にした方がいい。
「悪魔を出せ!」
「うちの子を返して!」
「出てこい!」
ある家の前に人だかりができていた。
しかも明らかに穏やかではない。
それぞれの手には鍬だったり、包丁だったりと、物騒なものが握られている。
その様子を目にしたサフィーレとラパティアの表情が急に険しくなった。
まさかあの家が・・・
「おい、あれを見ろ」
「あいつじゃないか」
「あの髪の色は間違いねぇ」
「悪魔だ!」
俺たちの存在に気がついた群衆が大きな声をあげながら迫ってきたため、俺はすかさずサフィーレたちの前に立った。
男も女もまるで命の危険を感じているかのような勢いで距離を詰めてくる。
「そこのお前、さっさとどけ」
「悪魔の味方をする気か」
「剣夜はもう帰りなさい。これは私の問題なのだから」
「それは・・・」
「娘に手を出すな!」
暴徒と化した群勢が今にも襲いかかりそうになったちょうどその時、問題の家から一組の男性と女性が姿を現した。
彼らは俺の前に割り込み、必死に暴徒をせき止めようとしている。
「パパ、ママ」
「ウォルターさん、コレットさん」
「逃げるんだ」
邪魔が入ったことでさらに憤りを増した暴徒たちは立ちふさがる二人めがけて石を投げ始めた。
幾ら何でも殺すことまではしないと思いたいが、それも時間の問題だろう。
「行くぞ」
「パパとママが・・・」
「俺たちがこの場を離れればどうせあいつらも追いかけてくるさ」
「いくわよティア」
サフィーレはなかなかこの場を離れようとしないラパティアを無理やり引っ張りながら俺の後ろについてきた。
案の定暴徒の一部は俺たちを追い始める。
「これからどうするのかしら」
「とりあえず帝都から離れる」
「パパ、ママ・・・」
「きっと大丈夫だから。元気を出して」
「それにしてもいい両親じゃないか。サフのことを必死に守ろうとして」
「あの人たちはティアを守ろうとしただけよ」
まだそんなことを・・・
兎にも角にも俺たちは走った。
しかし帝都の出口が見え始めた時、俺たちの前に一人のローブを着た何者かが立ちはだかった。
顔はよく見えないが、おそらく男だろう。
かなりの長身で、手には杖のようなものを持っている。
「お前が帝都から子供達を連れ去ったという悪魔だな。確かに、その青い髪。言い伝えにある通りの姿だ。聖教会の名の下に私は魔術士としてお前を断罪する」
「それは聞き捨てならないな」
「そこのお前。何者だ」
「俺は彼女の仲間だよ」
「その悪魔を擁護しようとするならお前も容赦はしないぞ」
そう言って、魔術士を名乗る男は杖を振り上げた。
俺はすかさず背中の剣に手を伸ばし、男めがけて突進する構えを見せたが、
「遅い。赤色の輝き、我を・・・」
「『輝け緑色、テクトニズム』」
「なっ」
男が聖文を唱え始めたと同時に俺も聖文を唱えた。
サフィーレが教えてくれた短い聖文のおかげで早く発動された俺の魔法によって、男の周りを取り囲むように四本の柱が出現した。
これであいつは身動きが取れまい。
「行くぞ」
「手際がいいわね」
「待て!」
土の檻に閉じ込められた男を素通りして俺たちは帝都からの脱出に成功し、ひとまず森の奥で待機した。
後ろを見れば、とうとう追っ手の姿がなくなっていたからだ。
さて、これからどうしたものか・・・




