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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第三章 チェンジリング
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わがまま幼女姫の休日(二)

 宿に到着した俺は本を全てサフィーレの部屋に置いてから自室に戻った。


「遅かったのう。待ちくたびれたわい」


「悪かったな。今から朝食を食べるんだが、来るか?」


「もちろん行くぞ!」


「今日は元気なんだな」


「何を言う。儂はいつも元気じゃぞ」


「なら昨日の寝坊はなんだ」


「あれは・・・まだ新しい身体になって本調子ではなかっただけじゃ」


 そういうもんか。


 確かに俺もこの世界にきてから熟睡することが多いな。


 何はともあれ、赤姫が元気なのは助かる。


 俺は赤姫を連れて一階に向かい、軽い朝食をとった。


「いやぁ・・・実にうまいのう。食事は最高じゃ」


 いたってシンプルなものであったが、赤姫は何を食べても美味しそうにしていた。


 赤姫の幸せそうな顔を見ているとなんだかこちらも幸せな気持ちになっていく。


「剣夜は今日も仕事をするのか?」


「そのつもりだが」


「儂は石を掘る以外のこともやってみたいのう」


 赤姫が『聖遺物』探しに協力してくれたことなど一瞬たりともなかったような気もするが、確かに鉱石を掘るだけではつまらないか。


 そもそも俺たちは働くために転生したわけじゃないからな。


 この機会にでも赤姫が楽しめるようなことを探してみるか。


「おはようございます。剣夜さん」


 何をしようか考えていたところ、ちょうどシルヴィーとリーニアがやってきた。


「シルヴィーもリーニアも、わざわざ来てもらって悪いんだが、今日は仕事を休むことにしたんだ。だから、二人も自由にして・・・」


「お仕事がなくても、わたくしはいつも剣夜さんと一緒ですからね」


「・・・そうか。リーニアはどうする?まだどこに行くかも決めていないんだが」


「わ、私は特にすることもありませんし、剣夜様に同行するのもやぶさかではありませんわ」


 どうやらリーニアも一緒に来てくれるようだ。


「わかった。今日もよろしく頼む。赤姫もいいだろ」


「・・・」


 赤姫にとっても人は多い方がいい刺激になるはずだ。


 ただ、リーニアの方を見た赤姫の表情が確実に険しくなったのが唯一の心残りだが・・・


 一方のサフィーレは当然のようになんの反応も示さず、自室にこもりっぱなしであった。


 あれだけの量の本をこの宿で読破する気なのだろうか。


 まさか最後には帝都の家まで運べなんて言いはしないだろうな・・・いや、ありうるか。


「それで剣夜さん。今日はどこに行かれるのですか?」


「何かいい考えはないか?赤姫が楽しめそうな場所がいいんだが」


「赤姫さんは何に興味があるんですか?」


「・・・」


シルヴィーの質問に対して赤姫は何も答えなかった。


まだ人見知りをしてるのかと思ったが、どうやらなんと答えていいのかわからないらしい。


まあ、今までずっと何もないような空間で暮らしてきたわけだからな。


「まずはその興味が湧くようなものを探さないといけないんだ」


「でしたら、王都を散策するというのはいかがでしょう。いろんな店がありますから」


「それが無難だな」


 俺たちは結局シルヴィーの提案を採用した。


 思惑通り、赤姫は常に目を輝かせながら王都内のありとあらゆる店を回っていった。


「なんじゃあれは!それとあっちのも!」


「落ち着け」


 なんとか落ち着かせようとする俺だったが、赤姫の気持ちもわからなくはなかった。


 俺の目にも新鮮なものは多く、よくわからないものについてはシルヴィーとリーニアが優しく教えてくれた。


 俺は比較的武具店や本屋なんかに興味を示したが、赤姫の方はひたすら食い物だった。


 片っ端から買っては食べの繰り返しで、金貨を使うペースで俺の金は赤姫の無尽蔵な胃袋の中へと消えていった。


 そんな赤姫の大食らいぶりに、シルヴィーとリーニアは呆れているような、けれどどこか羨ましがっているような微妙な表情を見せていた。



 もちろん一日で全てを回りきれるわけもなく、結局俺たちの休暇兼赤姫の引率は三日続いた。


 最後の方には飲食店が減っていき、赤姫は王都での観光から一転、急に何かと戦いたいと抜かし始めた。


「せっかくだから剣夜と一度戦ってみたいのう。そうでもしなければ上下関係がはっきりせんからな」


「それはやめないか。後味が最悪そうだ。特に俺が勝つと・・・」


 拗ねるに決まってる。


 それに、俺は戦いたいとは思わない。


 これでも赤姫の実力は分かっているつもりだ。


 魔力は少ないかもしれないが、地獄の領主らしいオーラというか殺気のようなものは今でも感じられる。


 油断すればうっかり殺されそうだ。


「戦う相手は何も俺じゃなくていいだろ」


「なら儂は何と戦えばいいんじゃ?」


「私にいい考えがありますわ!」


「お主の考えなど聞いておらんわ」


「黙って聞け」


「イタッ。イタッ」


 リーニアに悪態をつく赤姫を痛めつけつつ、俺はリーニアの考えに耳を傾けた。


 少しやりすぎたのか、赤姫の目から一滴の雫が落ちたが、心は特に痛まなかった。

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