探索と危難(七)
俺の行動は明らかに間違いだったと一瞬で悟った。
いつまでも足元が空を切っていることに気付いてしまった頃には重力に任せて自由落下していた。
「・・・」
この感覚は久しぶりだ。
赤姫と初めて出会った時も落ちていた・・・なんて回想に浸っている場合ではなく、地面はすぐそこまで迫っていた。
頭から突っ込めばさすがのこの身体も無事では済まないだろう。
「さてどうするか・・・」
人は危機的状況に陥るといつも以上の力を発揮すると聞くが、あれは嘘だな。
いつも以上ではなく、ただ単にいつもとは違うことをしてしまっているにすぎず、それがたまたま功を奏したというだけの話に違いない。
そう言うのも、俺が行ったのは全くスマートでもないただ被害を少々軽減しただけの方法だったのだから・・・
「ウッ・・・」
地面すれすれまで落ちていた俺は直近の岩壁に叩きつけられた。
俺はゆっくりとだがなんとか立ち上がり、所在無げにこちらを見つめる黒馬に礼を言った。
なんてことはない。とっさに呼び出した黒馬に側面から打ち付けてもらったというだけのことだ。
「『雪隠れ』を使えばこんな荒療治をせずともよかったのですが・・・」
「今言うな・・・」
白丸の念話を軽くあしらった俺はどこにも怪我がないことを確認した。
もう少し手加減して欲しかったが、贅沢を言っていい状況ではなかったからしょうがない。
先に空の飛び方を赤姫に習っておくんだった・・・
痛みもだいぶおさまってきたところで俺はあたりを見回した。
「あれは俺が掘り出した岩壁だな」
とんでもない失敗をしてしまったが、とりあえず目的の場所には来れたということで安心した俺は早速宿へと帰還しようとした。
しかし近くで人の話し声と足音が聞こえ、足を止めた。
そして暗い中に点々と松明の明かりがつき始める。
「誰かそこにいるのか?」
「まさか、盗賊か!?」
次第に人の数も増え始め、いつしか俺の前には松明を持った男たちが集まっていた。
「見慣れない顔だ。こんな場所で何してる」
「俺は傭兵だよ」
「傭兵?もしかしてピネット魔商会に所属している傭兵か」
ピネット魔商会?
一瞬何のことかわからなかったが、状況からしてエイアブさんの商会のことだろう。
「その通りだが・・・」
「そうならそうと早く言ってくれ。盗賊かと思ってしまったじゃないか。だが、いまになってどうして?」
俺がピネット魔商会の人間であることを知った男たちは疑いの姿勢から一転、俺を歓迎するようにして近寄ってきた。
「ちょっと訳があってな。それより、あんたたちはキリノ村の村人か?」
「そうだ。今みんなで鉱石を採掘しているところだ。お前さんがあのでっかいのを掘り起こしくれたんだってな。あれのおかげで村にまとまった金が入るようになった。これで食うもんに困らなくなって、みんな喜んでいたよ。本当にありがとう」
握手を求められた俺は抵抗もすることなく、それを受け入れた。
ちゃんと村に収入が入ってよかった。
俺にはほとんど縁もゆかりもない村かもしれないが、困っているのであれば俺にできることはなんでもやるべきだろう。
「どうだ。今から村で打ち上げをするんだが、それに参加しないか」
「・・・悪いが行く場所があるんだ。また次の機会に頼む」
「そうか」
少しだけ悩んだが、唐突に赤姫のことが思い浮かんだ俺は誘いを断った。
あいつに寂しい思いをさせないのが俺の義務だからな。
彼らに別れを告げ、その場から立ち去った俺は村人たちに見られない場所に移動し、早速『ゲート』を出現させた。
今度は赤姫のことを思い浮かべ、宿に戻るよう念じる。
開いた扉の奥はやはり黒々としていたが、今度は慎重に進んで行った。
「遅かったではないか」
「少々問題があってな」
「『ゲート』を上空にでも出現させたのか?剣夜は間抜けじゃのう」
お前だって初めてこの世界に来た時は落っこちて来ただろ。それに、俺が落ちたのは黒鳥が空にいたからで・・・
浮かんできた不満を飲み込みつつ、俺はひとまずベッドに座った。
「これで明日からは仕事が楽になるな」
「なぜ仕事などするのじゃ?しないほうがもっと楽じゃろ」
言ってはいけないことを・・・
確かに俺は現在莫大な金を持っているが、働かざる者食うべからずというか、何もしないで食っては寝るの生活を送ることに罪悪感を感じてしまうものなんだ、人間ってのは。
特に俺みたいな日本人はな。
周りに疎ましく思われないために必死なんだよ。
「お前には一生わからないさ」
「儂も働けということか?」
「幼女とバカを働かせるような世界は滅んだほうがマシだな。俺が養ってやるから安心しろ」
「さすが儂の領民じゃ・・・って、誰がバカじゃ!」
お前は幼女の方だろ・・・
赤姫をなだめながら俺はそろそろ横になることにした。
「なんじゃ、寝てしまうのか。剣夜が寝たら儂は誰と話せばいいんじゃ」
赤姫の声が俺の睡眠をとことん邪魔してくるため、俺は適当にあしらいつつ次第に深い眠りについた。




