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地獄門使いの異邦人〈エトランジェ〉  作者: 織田昌内
第三章 チェンジリング
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探索と危難(六)

 結局俺はサフィーレの提案を退けることになった。


 なんとか着地できるところはないものかと探したが、どこも危険そうな生物がうようよしており、安心して鉱石掘りなどしていられそうになかった。


 ここはまた俺が一人になったときにでも探索するとしよう。


「やっぱり帰っちゃうのね。残念だわ」


「一旦帝都に戻ってサフを下ろす、でいいだろ?」


「えっ?」


 俺の提案に、サフィーレは「この子は一体何を言っているのかしら」みたいな、まるで愚弟を哀れむような目で見てくる。


 何かおかしなことを言ったか、俺は。


「わざわざ帝都に寄らなくてもいいわよ。私も王都に行くから」


「だが王都に着くのはかなり夜遅くだぞ」


「いいのよ。王都にだって宿はあるでしょ」


「確かにそうだが・・・」


「それに何か問題があっても剣夜が守ってくれるんでしょ。仲間として」


 仲間という言葉を多用しすぎだ。


 確かに俺が言い始めたことだが、そういう使い方をするためのものではないと思う。


「だが家族は心配するだろ」


「大丈夫よ。むしろ私がいない方が気が休まるんじゃないかしら・・・」


 珍しくサフィーレの口調がおとなしくなっていく。


 家族に何か問題でもあるのだろうか。


 あったとしても部外者の俺が立ち入っていい話でもないか・・・


 俺はこれ以上追求するのをやめ、おとなしくサフィーレを王都にまで連れていくことにした。



 王都に着いたときにはすでに日が完全に沈んでおり、城下町は完全に夜のテンションで包まれていた。


 これからしばらくエイアブさんに逐一報告する必要もないため、遅い夕食を済ませた後、俺はシルヴィーとリーニアを家まで送って行き、そのまま別れを告げた。


 一方、サフィーレはいつまでも俺の隣から離れようとせず、そのまま俺が泊まる宿までやってきた。


「ここに剣夜が泊まっているのね。なら私もここにしましょ」


 俺も特に反論することなく、サフィーレを宿の女主人に紹介し、一足早く自分の部屋に戻った。


 俺がベッドの上に座る一方で、赤姫は勢い良くダイブした。


「また寝るのか」


「今はもう眠くはないぞ。儂を寝坊助にみたいに言うのはやめい」


 事実なのだからしょうがないじゃないか。


 俺もそんなに眠いわけではないため、しばらく赤姫との会話で時間を潰すことにした。


「なぁ赤姫。『ゲート』を使って行きたい場所へすぐに移動することはできないのか?」


「それは無理じゃな。儂の『ゲート』が繋がるのは基本的に儂の領民の近くだけじゃ」


「なら魔獣を先に現地に行かせた後、そこに『ゲート』を繋ぐことは可能ということか?」


「まあ、無理ではないじゃろうな・・・」


 はっきりしない赤姫の様子から察するに、おそらく試したことがないのだろう。


 だが試してみる価値はありそうだ。


 俺は早速それが可能なのかどうかを検証すべく、『ゲート』から一羽の黒鳥を呼び出した。


 カラスにしか見えないこの生物であればどこを飛んでいても誰の気も止めないだろう。


「前から思っていたのじゃが、どうして剣夜が自らの意思で『ゲート』を使えるのじゃ?」


「それは赤姫の領民だからだろ」


「いやぁ・・・儂が聞いたところによれば、いくら領民でも自ら『ゲート』を発現させることはできないはずじゃ。そもそも『ゲート』が使えるのは『地獄領』においてじゃと、領主などの限られた存在だけと誰かが言っておった気がするのう」


「そう言われてもこうして使えるわけだしな・・・」


「まあ良いか。細かいことを気にしないのも儂の良いところじゃ」


「その通りだな」


 赤姫が自慢げになっている傍、俺は着々と実験の準備を進めた。


 目的地はとりあえず以前行ったキリノ村近くの鉱山だな。


 俺は頭の中で目的の場所への道筋を念話で黒鳥に伝えた。


 到着したら何かしらの合図を送るようにも伝えたが、魔獣から念話が送られてきたことは一度もないから少々不安だ。


「魔獣は喋れないのか?」


「喋っておったら儂も話相手を欠くこともなかったじゃろうな」


「それもそうか・・・」


 となると黒鳥が現地にいるのかいないのかがはっきりしなくて困るな。


 こうなったら黒鳥の速度から計算してみるか。


「あの黒鳥の時速はいくつだ?」


「「ジソク」とはなんじゃ?」


 ダメだな・・・


 赤姫の語彙力は足りないというよりは偏っているといったところか。


 日本語特有の言い回しなんかも知っていたし、日本人の先生でもいたのだろうか・・・


 しばらく赤姫と雑談をしていると、ふと俺の脳内に黒い霧がかかったような、ぼんやりとした何かが立ち込めてきた。


 まさかこれか?にしても早くすぎじゃないか?光の速さか?


「赤姫はどうやって俺の元に『ゲート』を開いてるんだ?」


「なんとなくじゃな」


「・・・ちゃんと答えろ」


「そう言われてものう・・・剣夜を思い浮かべてそこに向かおうとする感じ、としか表現できないのじゃ」


 つまり魔獣を呼び出すときとほとんど同じというわけか。


 これも何度か試して感覚で覚えないとダメだな。


 俺は黒鳥の姿を明確に思い浮かべながら『ゲート』を出現させた。


 開いた先は真っ暗闇で、ちゃんと繋がっているのかはっきりしない。


「ちょっと行ってくる」


「儂も行くぞ」


「・・・お前が来たら帰ってこれないだろ。絶対ここを動くなよ。漫才など見たことがないだろうから大丈夫だとは思うが、これはフリじゃないからな」


「しょうがないのう・・・早く帰ってくるのじゃぞ」


 赤姫は少しだけ寂しそうにしながら俺のコートを軽く引っ張った。


 ただの馬鹿だと思ってしまったが、どうやらそれだけではないようだ。


「わかってる」


 赤姫の頭を軽く撫でてから俺は『ゲート』の中に足を踏み入れた。


 なんの感触もないことが俺の不安を助長させるが、迷っていても仕方がない。


 俺は半ばやけくそ気味に暗闇の中に飛び込んだ。

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